8 二足歩行の牛
「手を」
エルさんを先に行かせた。
俺が登ろうとする前に葉っぱの塊を渡される。
「それを被れ、その青い服をあの巨大生物は狙ってる。青い浮かんだやつの仲間と思われてるんだ」
納得した。片っ端から青いワニは踏み潰されてた。
俺はワニだと思われてたのか。
とにかく葉と枝を着る。蔓で体に巻きつけられるようにしてあるっぽい。この草、くさっ!
ダンカンさんの筋肉ですんなり上に上がれた。
それから周囲を見回すと蜂の数が落ちた時に比べれば少ないがそれでも多い。蜂が飛び回ってる状況変わってないのに、あの時ほど危機感ない。この状態に慣れたのか、ダンカンさんが落ち着き払ってるからか。
「青いやつはあら方殲滅されてる。運が悪くなければ来ないだろう。この後は身をかがめてついてきてくれ」
「わかった」
エルさんを見る、このタイミングで逆らいはしないか。
3人の隊列ができる。
といっても蜂を落とす事ができない俺が真ん中で守られるだけ。俺の役割は荷物持ち。ダンカンさんが短時間で集めた資材をただ持つ。自然にそうなった。そして狙われたときは荷を捨てて走れと指示があった。
荷がくさい。
二人はなんというか、強い。
飛んでくる蜂を多分最低限だけ、一撃で落としてる。
すごい。対して俺は何もできてない。
腐ってもしょうがない。さて、巣を降りるまで直線で目測20メートル位かな。
ただ、凹凸高めの六角柱を迂回、崩れてと通れない六角柱を迂回、蜂の濃いとこも迂回、まだかかるな。
駆け抜けれればいいかもだけど、崩れたりとかのリスクがあるからまだその時じゃないかな。
改めて見ると結構あらされてる。
あのキリンが暴れて踏み潰した六角の巣たち、青いワニになんの恨みかあったんだろうか?
踏み潰されて食べられるって感じじゃないし。天敵?
子どもが狙われるとかかな。さっきの子猫は……しゃあない。
目前の六角柱3つ分くらいの蓋部分が突然崩れ落ちた。
キリンに結構壊されてるやつが今更限界を迎えたのだろう、意外と音が大きい。
あ。
今更考えた。
この枝の上は大量の霧というか雲の塊で視界がとても悪い。
雲が運良く避けてせいぜい50メートルくらいか、それ以外は目前に雲が迫ってりゃほぼ見えない。
そんなんだから、意外とものを見落とすんだ。
キリンですら。
「走れカワセミっ!」
草で青い服を覆ってるけど、隙間はやっぱりあるらしい。
あいつ目がいいのか?!
こっち見つけたキリンが一気に方向を変えて突っ込んでくる。
巣の外まで直線で10メートル! 駆け抜ける!!
ダッシュ!
飛び降り、天板に体重をかけないように着地して、六角柱から蜂が飛び出る。壊れないならばむしろ踏み抜け!
蜂よ出てこいっ!
キリンは任せた!
キリンの足音と思ってた音がある。ズシンと低く響く感じ、よく思えばキリンと違ったけどそこまで考える余裕なかった。
俺が10メートル駆け抜ける前にそいつはキリンの背後から現れてキリンの長くない首を掴んだ。
持ち上げた。
あっけに取られた。
雲の向こうにさらに大きな人影が見えた。
何メートルある?
キリンはそのまま首を掴まれ、足を浮かせてしまい大きな人影の向こうに弧をかいて振り回されて持ってかれた。表現は合ってないと思う振り回されたでいいのか? あの巨体が。
ズシンという音とわずかに聞こえる何かが複雑に折れる音。そして雲から再びそのキリンが同じ軌道を帰ってくる。
少し違う、力ない体が俺に向かって振り下ろされてる。
後ろに下がったというより腰がひけたのが正しい。
そして見えない何かがキリンの脚付近に当たり、キリンの脚が根元から吹き飛んだ。
直後、キリンが叩きつけられた。
もう起きたことを頭で反芻しても状況に追いつけない、起こったことが理解できない。
衝撃と砂埃、蜂が吹き飛んできて右頬に当たった。
少しして、砂埃のなか俺の目の前の六角柱はすべて潰れたのが見えた。九死に一生。
足が震えて立てない。
人影が吼える。吠えるじゃない。
いつの間にかダンカンさんが俺の脇にいて手早く肩に抱えられる。後ろ向きになりダンカンさんの背後にいたエルさんと目が合う。そらされる。
すぐに走り出した。
蜂の巣が潰れたのは幸いだ。
人影に向う形になるが、巣からは一番素早く走り抜けられる。
容赦なく走ってるから俵のように抱えられて、肩が押し付けられる腹部がすごく痛い。腹筋足りない。
一瞬と言うくらいダンカンさんの足は速かった。
そして巨大な人影の脇を走り抜けつつ、その正体をみる。
白と黒のまだらでとんでもなく太い幹以上の脚。
ギリギリ2足になってる乳牛。
こいつも獣人? エルさんと同種族的な?
とりあえず逃げるが勝ちの勢い。
俺は後ろ向かされてたから、すごいスイングで追ってくる逞しい指と手のひらが迫ってくるのが見えた。
たどり着く寸前エルさんが上にかちあげるように蹴り飛ばした。高さおかしい、見てなかったけどどういう蹴りしたんだ?
あと俺にとってとんでもなく重要な物がみえた。
「俺のリュック!!!」
牛型の獣人の向こう側に見える手が持ってる。
そのまま逃げ出す、と思いきゃ雲が深いのを見たダンカンさんが木の根とかでたまたまできたような狭い隙間に俺を放り込んでから滑り込んできた。
エルさんもつづく。やり過ごすつもりらしい。
実際、その直後にでかい振動が走り去っていった。
「エル、あれを知ってるか?」
「知るか」
ダンカンが息をつく。
俺も思った関係性は特になかったようだ。
「カワセミもか?」
「俺もしらない。というか助けてくれてありがとう。エルさんも。それで気になったのはなんで俺のリュック持ってんのってこと」
「あれに食べ物入ってるのか?」
「入ってる。水とかも、取り返せるなら取り返したいけど、あれは無理だよ」
「ボク達の装備じゃ無理だね。逃げ切るのも難しい。明確にカワセミを狙ってるように見えた」
「え」
「エルはどう思う?」
少し睨んでから面倒くさそうに頷く。
「リュックから俺の匂いを覚えた的な?」
「可能性はある、それだけの匂いで上書きしてるにも関わらずだ。嗅覚は鋭い。すぐに移動するぞ」
「わかった」
犬とかの嗅覚がとんでもないらしいことを知ってる。
あの牛型獣人もそうなのだろう。
「最短で枝をわたる」
「渡るって、枝から飛び降りるやつ?」
「ああ、今度はサポートする。やれるな?」
口ごもった。でも頷く。
やるしかないんだろう。もう心臓が悲鳴をあげる準備を始めた。やりたくない。
「最短で向かう」
スパッと白い森に飛び出した
俺もついていく。預けられた荷物は捨てた。
地響きが伝わっている、あれは俺等を探してるんだろう。
雲が少し濃い目のまま、俺じゃ方向わからないがダンカンさんは真っ直ぐすすむ。時折振り返り俺達の様子をみてくれる。
エルさんはついてきてるけど、この状況を利用してどっか行くもんだと思ってる。けどその気配がなく大人しくダンカンに従ってる。
もしかして、なんかあったのか? たぶん俺が寝てるときか。
「もうバレてる、匂い覚えられてるのはやはりマズイな」
ダンカンさんが立ち止まった。
「ここで迎え撃つ」