10.号令とすれ違い
俺の表情を観察しながら男は言う。
「俺たちはカワセミの友人2人を連れてこの大樹を登る。安心していい、棘は刺さってない。今は俺たちと協力関係の集団にいる」
この世界に俺が来たのは、消えてしまった黒澤とサッチーを探して連れ戻す為だ。見つからない可能性だってあった、でもそこに手がかりがある。
「カワセミは2人の為にこの世界に来たんだろう? 君にとって悪い話でないが、どうだ?」
なんだろう、頷くで問題ないんだけど、信じきれないというわけではないんだけど、この世界にきて最初ダンカンの提案に乗ったくらいなだけど、なにか決めきれない。
何が引っかかるんだ?
約束だ。
そうだ、この提案を呑むとはミーシャさんとの約束とバッティングするんだ。ダンカンへの討伐依頼ができなくなる。
厳密にはできるけど、大蜘蛛を放置することになる。
この提案に頷けない。
あの墓地を広げた要因、それは間違いない。虚ろな人達はそのうちに食べられしまう。ヒビキの父のマクセルさんだってカウントされてるだろう。この男を信用するとか関係なく。
「ごめんなさい、その約束は俺からはまだできないです、先に約束があるんです」
少しぼやかして、あからさまな敵対意思は避ける。
虚ろな村人だってまだ助かる方法があるかもしれない。
「どうしてもか、俺はカワセミのことをすごく評価している、召喚獣もなしに俺とマクセルを凌いだんだ。君はすごくいい、知識と体力はまだ足りないが、その意思が、機転がいいんだ」
褒められると思ってなくて返事に詰まった。
すぐに気を取り直してエルとヒビキを呼び寄せる。
このまましれっと離れよう。
「残念だね、だけどきっとカワセミの中の順番があるのだろう」
少し遠くから口笛が聴こえた。
空気が変わる、単純にその男が、マクセルさんが、他虚ろな村人が耳を傾けてる
「俺たちは呼ばれた、だからカワセミはもう進みな。ダンカンと俺たちの行く先を迂回して進めばいい。じゃあな」
何かしらのハンドサインのあと、人型ドラゴンが雲に包まれて消え、赤い鷲が脚で男をつかみ上げるとあっという間に飛んで行った。
虚ろだった村人もゆっくり崩れ落ちた枝の斜面を登り始める。
静かに呆然としていると、遠くからカーンという音が聞こえてきた。この枝を登る直前にも聴いたものだ。
「エル、ヒビキ、大丈夫?」
いきなり腕を取られる。エルだ。
ひねりが加えられていて動かせない、少し痛い。
「これを、どうした?」
「もらったって言っただろ、エルのなら返すよ」
「私のじゃない。持ち主は……」
真っ直ぐ見られる、睨見つけるというよりは少しニュアンスが違う気がする。
ミーシャさんは拾ったって言っていただから出どころは知らない。
エルは俺の腕を離して目を落とす。大事な人の物らしいなら俺が持ってる理由ない。
「返すよ」
外した腕輪を手に渡す。ついでにポケットから移動させていたキャラメルを取り出し、エルの口に押し込む。
ヒビキが言っていたマクセルさんの情報をもたらしたのは間違いなくエルだろう。どういう経緯か分からないけど、生き残りの中で一夜過ごしてヒビキとなんかあったんだろう。
だからヒビキの為に駆けつけてきた、俺はそう予想する。
で、基本人に心を開かないエルは飯も貰ってないだろう、なんとなくやつれてる気がする。
要するにエルは空腹だ、あとで水場も連れてく。
「助けてくれてありがとう、ナイフも拾ってくれて助かった。それはお礼」
何しやがる的な目をしてきた。俺の世界の菓子だ、エネルギーになる携帯食と聞いて持ってきた。
リュックに箱が入ってたから、ポケットに残ってた残りわずか、俺もちょびっと食べてあってそれが最後だ。
文句のある顔だけど、とりあえずそれ食べてほしい。
俺たち以外がいなくなってからまもなくすると、どすどすと小太りの男がやってくる。
「はぁ、はぁ、追いついたぁ」
俺たちが見える場所にくると膝に手を当て、乱れた呼吸を整えてる。
その姿勢で首筋が見えて棘がないことが見えた。
「あ、ああっ、ヒビキ!!」
改めてこっちをみて気づいたらしい、急に駆けてきた。
ぼんやりとしていたヒビキはもろに掴みかかれる。
エルがそこまで警戒してないってことは、顔見知りなんだろうか。
「心配したんだぞ、よかった……」
抱きしめてる。俺とエルはひとまず見守る。
「お父さんが……」
抱き締め返す。少ししてから小太りの男が顔だけ上げる。
「エルと君がヒビキを守ってくれたんだね。ありがとう、ヒビキは私の姪なんだ。両親とはぐれてしまってね」
「そうでしたか、ヒビキのお父さんとは2人で会いました。まだ生きてはいますが……」
ヒビキがいるところでこれ以上は言えなかった。
「すぐに戻ろう。私の仲間も来ているんだ」
生きたまともな人たちがいると聞いて凄く安心できる、
そして近くにいるということと、さっきの口笛の音が繋がった。
口笛は仲間呼び。
「まずいですね、その皆のとこに蜘蛛に棘刺された人たちが向かってってる。さっき聴こえた口笛が多分そう」
小太りの男は表情を固まらせ、青くなっていく。
「助けに行きましょう、いいエル? 手伝ってくれる? ヒビキの大切な人だから⋯⋯いややっぱりヒビキを守っといて」
助けに行こうっつたっつて、戦力的にエル頼り。だからお願いするけど、むやみに危険を冒すのはエルの本望じゃないだろう。だからヒビキを見てて欲しい。
あの2人と最低4匹の召喚獣から人達を助けるのは俺じゃ荷が重すぎるのは分かってる。だからといって何もしないのはできない。
「向かった先が村の人のところじゃないといいけど」
小太りの人はヒロと名乗った。日本人っぽい名前、でも見た目外国人の太った貴族的なかんじ。俺と同じくらいの背丈。ただ服装はヒビキと同じで麻か何かの服だ。着飾ってなんていない。
肝心な情報を聞く。残った村人はヒロさんを抜いて4人。ヒビキを探して出たところ怪我を負ったハーブがきて助けを乞うような態度をとったらしい、ハーブはマクセルの召喚獣である大蛇の子供だから、ヒビキの事を知っている。自分じゃない誰かの助けを求めてきた、マクセルさんがと最初に思ったが、ヒビキの可能性もあるとヒロが言うとエルが飛び出し、ハーブもついでにいった。ヒロも先に飛び出した。
ただハーブはエルとヒロと一緒に来たけど怪我で動けなくなり途中で置いてきてる。
いつの間に大怪我したのか分からないけど、いなくなっていたハーブの所在が分かって一安心。ただ動けない怪我なんてやばんじゃないか?
これ以上遅くなると間に合わなくなるかもしれないから俺は1人で先に行くことにする。
「じゃ、行ってます」
走り出し始める。
無茶だよな。もう手だては使い果たして、ナイフしか武器がない。ホルダーに無理やり入れたノコギリ骨包丁と入れ替える。
というとこで崩れた大枝の下の方から細い物音が迫ってきた。
聴いたことのない足音、足音とわかるのは明確にこちらに近づいてるからだ。
「隠れてっ!!」
すでにエルはヒビキを担ぎ上げて移動して、わけも分からずヒロさんがついて行ってる。
まずは建物の影でいいだろう、中に入ってる身動き取れなくなるの困るし、足音の正体と行く先を確認しないといけない。
エルに続いてヒロさん俺と収まる。
足音の正体はまぁ見当ついてる。
大蜘蛛だ。走ってる。さっきの口笛に向かってるんだろうか、マクセルさんの口笛じゃ来なかったのになんか違うのか。
きた。
大蜘蛛だ。
白っぽく斑に赤緑と色が散った体色に、女郎蜘蛛とハエトリクモの中間くらいのシルエットのクモ。
軽トラならぎり弾き飛ばせそうな体格でスピードで駆け抜ける。
今気づいた。
さっき、マクセルさんが口笛を吹いたときは大蜘蛛は来なかった。それと口笛の音色みたいなものが違った。
多分、大蜘蛛を呼ばなかったんじゃないか、無意識でヒビキを守るため。
大蜘蛛が一匹駆け抜ける。
その背にダンカンを乗せて。




