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樹登りは命懸け〜@異世界〜  作者: ぼここ
2.崩れ落ちた枝の
13/20

2.村人と召喚獣

ダンカンからの説明を聞きながら崩れ落ちた大枝に登り始めた。

この大枝はもっと上方にあったはずのもので、人が住んでいる村がある大枝だと。

この枝に乗り込んだ場所は枝の裂けた部分で、幹と繋がっていたはずの部分なんだと、裂けたというよりなんだこれ、どういう裂け方、朽ち方したらこうなるんだ?


裂けた部分を登りきり、傾斜のついた大枝の上の森を進む。先ほどまでは白い綿毛のような木の森であったが、上にあったと言うだけ環境が違ったのか緑が濃い目の広葉樹の森になっている。生き物の気配はあまりしない。少し進むとすぐに森はあけて、その広い場所に村の残骸はあった。

人の営みの痕跡、きっと落ちた時の衝撃で崩れ飛ばされたと思う。つぶれた建物がそこにあった。


ダンカンがすぐにその周囲を探す。

人を探すと言った。


ダンカンはこの大枝の村を知っているし、ここに住む人とも知り合いは何人もいる。千人位は住んでいたはずと言ってる。

どういう経緯で落ちたのかはわからないけど、俺も避難が済んでればいいなと思った。

誰も見つからないだろうと願った。


だけど、あった。


それは1軒目を過ぎて3軒目の傾きつぶれた家の中からはみ出していた。


俺は思わず目を背け、立ってられなくなった。

この状態になって、生きたままか死んでからはわからない。そんな状態からさらに野生動物に荒らされたんだろう亡骸。


エルは何も言わずにダンカンの後についていた。


見たものが脳内にちらつく。

見るんじゃなかった。

ダンカンに動けるとだけいい、会話なしで進む。


踏み固められた道は歩きやすいと思う。

でも傾斜がきつくてしんどい。汗かいてる。野生動物が少なくて助かる。

その後もいくつか崩れた建物、遺体と続く。

心のなかで冥福を祈る。


「何かいる」


ダンカンが警戒をはじめて、俺たちを静止させた。

潰れかけた建物。その中に何かはいるっぽい。

俺にだけ待っていろと言い、エルを連れて建物に忍び寄る。

俺も音を立てないように隠れる場所を探す。何が出ても対応出来るだろう2人とは違い俺は無茶をするべきでないと思った。

でも少し、置いてかれた事はさみしくもあった。


一応ナイフだけ出しておく。

それから物陰に身体を楽にしてしゃがみ、2人の様子をうかがう。

建物の大きさ的に部屋は少なくとも4つ以上はあるだろう。

2階は何かがかすめたのか、つぶれるとかではなくなくなっていた。


2人が入っていく。


「キミ?」


えっ?

背後から声をかけられる。

ダンカンとは違い木綿っぽい藁色の服を上下きている人間だった。


「えっ、あっ! 生きてる人!」


早くダンカン達に伝えなきゃ。


ビューーーーッ


指笛? 初めて見た。そんな音出せるんだ。

ただ、なんで吹いた? なんか嫌な感じがする。多分、その人の目線がおかしいんだ。

俺は状況から、ここに生きている人は救助を待つであろう生き残りしかいないと思っていた。だか、そいつは同じ人を見る目じゃない。

足元に丁度落ちていた棒切を拾い上げてる。

丁度殴るのに良さそうな。


バンッと背後で炸裂音がする。


振り返ると2人の入った家の窓が吹き飛んだ。

爆発だ。


まずい!


すぐに振り返り戻る。

同時に腕で頭を守る。


ただの棒で良かった。痛いで済んだ。

すぐに下がる。ナイフの刃先をを相手に向ける。

しっかり握る。


「なにするんだ!」

「つかまえる」


再び叩きつけてくる。

俺的にみっともない感じに後ろに逃げる。

目をつぶってしまう。見なきゃいけないのに。


足音がいくつか聞こえてくる。

絶対、さっきの指笛で呼んだ仲間じゃん。

話の出来るやつよ、来てくれ……ないか。


どうする?

話通じない人が怖すぎる。

逃げる一択。2人と合流せねば。


だけどやばいすでに3人来てる。囲まれる。2人の様子は?!

中から出てこない。助けなきゃ。

だけど、やば、俺それどころじゃない!

また、荷物を捨てるのか!

1人に投げつけてやった。その時そいつらの1人の首の後ろになにか刺さってるのがみえた。黒い模様もだ。


ふと俺の首にも同じようにされたことを思い出した。


「ダンカン! エルっ!」


聞こえるかわからないけども、呼ぶ。それから期待せずにむしろ助けに行く覚悟を決める。

ぶっちゃけて、人をこのナイフで切りつける度胸はない。

2人のもとに突っ込むこともままならない。

なら鬼ごっこしてやる。


幸い足場も悪くないし、適度に回り込んだり出来る障害物だらけだ。

振り付けられた四度目の角材を避け、そのまま走り出す。

あの建物を半周もすればそれとなく2人の様子だって分かるはずだ。


途中白い大きな玉があった。体育座りしたくらいの大きさ、もちろん身を隠せるものでないが異質に感じる。布? フェルト? いや、それどころじゃないって。


「ダンカン!」


2人はえぐり取られて屋上となった建物の2階にいた。

もう2人誰かいて、ダンカンが羽交い締めにし、エルも1人を踏みつけている。

でも、見てるのは俺の向こう。妙な人達に意識が既に向いていない。


「エル!」


俺も振り返る。

あとから追いかけてきてた3人が足を止めている。


雲のカーテンが丁度よく開けて、姿を現したのは大きな蜘蛛だ。


白地に緑や赤の斑をまとい、テカリを持った甲殻。ところどころに突起がある、角みたいだ。


でかい。


高さは俺よりでかい。

何でも大きければいいってもんじゃ……、やばい1番近いの俺じゃん。

ゆっくり振り返り蜘蛛を見据えながら、後退る準備をする。

幸いに後ろが下り坂だ。


目が沢山、顔や関節、お腹辺りは毛もみっしり気持ち悪い。

顎もでかい、口の脇に腕がある、蜘蛛って脚は4対じゃなかったっけ?

絶対ヤバいヤツじゃん!!

よくよく考えればここは村の中とはいえ、大枝の中央部。

どうすりゃいいんだこれ。


めっちゃ時間感じる。

俺の逃げ場は2人のいる建物に入って、2人と合流して…

動いた!!


行動練る暇がない。

巨大蜘蛛が突っ込んでくる。逃げろ!


即振り返り、建物に入れば、入った!

そのまま2人は?!


諦めただろうことを確認しようとしたところで、建物の入り口を突き破って突っ込んで来やがった。

パワフル過ぎる!階段探してる暇もない。


ひとまず通り抜けろ!

外に1人、そのくらいならすり抜けられる!


再び建物が炸裂した。

俺は衝撃で弾き出される。


すぐに立ち上がる。

ケガはない。


建物があった場所に白い煙が立ちこめる。

煙じゃない、これは召喚の時にでる霧だ。

異世界と繋げた時のエネルギーの一部が光の粒子になるらしい。俺が来た時も、赤い鳥を出したときもあった。この霧の大きさは召喚の規模に比例する。


2人の状況が全くわからない。

でかい影が見える。

ダンカンが出したのか?


長い、イタチみたいな? 違う蛇か。

仮にダンカンが出したんじゃなくて、奴らだった場合は?

というか、ダンカンは赤い鳥しか召喚獣を持ってないって言ってた!


やば!


逃げろ!

でも、2人はどうする?

まだ、大蛇はこっちに気づいてない。


うわっ!

忘れてた! こいつ!

素人くさく振りかざして来やがって!

邪魔だ!


角材を腕で防いで止める。判ってたら対して痛くない、このままタックル!

そのまま馬乗りになって、こいつをどうしてやるか正当防衛だ!つってもなにする?


すぐに周囲をみる。

状況確認の癖がついてきた気がする、おかげで大蛇に気づけた。

まずいっ!

飛び退く。


あっ


俺が馬乗りにしてたやつを大蛇が咥える。

そのまま飲み込むかと思ったが放り投げた。

ホッとしたが、あの勢いで投げられたらやばい。

でもそんな心配してる余裕なんてない。


もう一度こっちに食いつくかと思ったら、霧の方へ向き直す。


ホッとしたが、それはつまり2人が狙われるということ。

というか2人は無事なのか?!

ただでやられるような2人じゃないだろうけど。

霧が消えるまで待つか? いや突っ込んでやる。

2人置いて逃げるのはない!


霧に走り込む。


「カワセミっ!! 撤退しろ!!」


叫び声。ダンカンのものだ。


「ダンカン! でもっ!」

「早く! もう一体いる!」


えっ!

辺りを見回す。

霧の中からか?

違う上だ。


頭上の雲の中を赤い何かが時折姿を現す。

赤い鷲、あれってダンカンのじゃないのか?

というよりかダンカンのよりでかい。


大蛇が霧の中で動く。

多分大蜘蛛も動いてる。反対側からエルが飛び出てくる。

合流しな、くっ!


赤い鳥がこっちに狙いをつけたらしい。

エルの方行ったら間違いなく捕まる。

どこでやり過ごす?


いや、ちゃんと見ろ。あの巨体だ。

キリンのときみたいに避けれるはず!


ナイフを持ったまま、上着のチャックを外す。

せめて確率を上げる手段はとらねば。


赤い鷲が急降下始め、突っ込んでくる。その直後爪で捉えるために減速し、腹をみせてくる。

左右、あと屈んで前、どれで逃げれる?


腰を落としてナイフと脱いだ上着を握る。

左!


と見せかけて右!

フェイトに引っかかり、赤い鷲の巨体が左にそれる。

服を前方に投げて、右に精いっぱい飛び込む。

赤い鷲も気づいたのか、進行方向は修正できずとも姿勢を崩して爪脚を伸ばしてくる。


上着が隠れ蓑になる。

だが、それを分かってか大雑把に大きく伸ばして来てる。

もう少し!


ドサ!


ギリギリで捕まれなかった、でも太ももを斬られた。

だが、凌いだ。ざっくり裂かれた上着を片手で手繰り寄せ立ち上がりそのまま痛みを気にせずに走り出す。


赤い鷲は無理な体勢を取ったためバランスを崩していたはずが、既に旋回軌道に入ってる。背中に人がいる、ダンカンではない。知らないやつ、間違いなく敵だろう。


流血が気になるくらいには怪我してるのに痛みは全く気にならない、すぐに立ち上がり走る。最低限として物陰に入って、赤い鳥の強襲から隠れないといけない。

それから、2人だ。


傾いた木の根元にたどり着く。

落ち着いて周囲を見渡す。

大蜘蛛、大蛇、赤い鷲、やばいな全部敵。

2匹は召喚獣、大蜘蛛はしらん。アレが本来の召喚獣の姿なんだろう。


ダンカンは俺とエルじゃなくて大型の生き物を召喚する予定だったらしい。何らかのミスで俺とエルが来た。

俺は別に呼ばれたからこの世界に来たわけじゃないんだけど、飛び込んだのと呼び込んだのが噛み合ったらしい。

エルも多分そう。

まあ、事故だ。

でも、多分ここに来たのは間違ってないはず、牛型が俺の高校でのあだ名知ってるのが証拠だ。


さて、証拠があっても生きてここを突破しなけりゃ意味がない。流血はあんまり無視しきれないけど、とにかく2人だ。


男女のペアがやってくる。もちろん武器を持ってだ。

1人は角材、1人はなんか装飾された杖みたいの持ってる。

ダンカンが持ってるやつに似てる。


俺にだけ見えない遠隔攻撃か。

でも弾速が遅いのと、振りで十分避けられる。


俺のミッションは2人を回収して撤退することだ!

大蛇が動いた。

尾の薙ぎ払いで崩れた建物が更地にされる。


突撃!!


まず2人!


2人にたどり着く前にどっから飛んできたのかわからないけど、2人を同時に踏み倒す形でエルが着地する。


「え、エル! 無事?!」

「帰れ! お前は要らない」

「は?」


エルが杖を持った人の首を踏みつける。関節が折れるような音。動かなくなる。

不意の音が頭に残る。


「お、おいっ」


緩くなった手から、杖を拾い取る。もう1人はすでに動いていない、マジかよ……。

杖の様子をみて、バトンのように片手で回す。


「要らない」


一瞬で俺との距離を詰めてハイキックがくる。

なんで、エルにも襲われなきゃいけないんだ!

防ぐ動作をいれ


「がっ」


肩口に1発目。防いだと思ったら、そのまま蹴り飛ばされた。

体重差もあるのに、俺が吹き飛ぶ。

痛みですぐに立てない。


エルがおかしくなった? 襲ってくる奴らはなにかおかしい、知性を感じないと言うか上の空のまま動いてるような感じ。エルも、なにかされた?


「どっかいけ」


エルがどっか行った。

大蛇は先ほどまでとうって変わって、向こうで大人しく佇んでいる。赤い鳥も旋回して周囲を警戒してる。俺から標的は外れたらしい。

と思ったら、枝の向こう側に消えた。


「ダンカン?」


戦闘が終わった? ダンカンは?

痛みでまだ呼吸が整わない。

這って物陰に移動する。


状況がのめない。

というか思いたくない。

ダンカンがやられて、ダンカンとなにか約束してたらしいエルが用無しとばかりに去ったのか?

ついでに蹴り入れて。


うそだろ?


状況がとんでもなく悪い。

あ、木の玉は?!

ポケットから取り出し、叩いてみる。


反応はない。


「うそだろ?」


確認しにいきたい、でも突っ込むだけの力なんてない。

まだ動けない、せめて走れるくらいに回復するまで、隠れてじっとしてるしかない。


どうする?

どうしたらいい?

1人で逃げて、1人で大樹を登る?


めまいがする。

出来る気がしない。


ふぅ、落ち着け俺、多分大丈夫だ。

ダンカンら牛型の突進も平然と避けてたし、エルもなんかされたって感じよりも平常運転感あったと思う。

なら、どうするか、さっきは撤退しろって言われたんだ。従うのがいい、というかぶっちゃけそれしかできない。


痛む肩をさする。

多分あれ、ダンカンに指示されたことをエルなりにやった結果な、気がしてきた。

俺の知らんところでなんか話して取り決め決めてるみたいだし。じゃなきゃダンカンにあんなに従わない訳がない、気がする。


辺りをみて、この落ちて傾いた枝の入り口まで戻ろう。

余計な事は一旦置いておく。



走り出す。

下りでかなり傾斜がきつい、転びそうで全くスピード出せない。

ソリが欲しい。

しかし、しくじったかも。枝抜けるまでそこそこ距離ある。あいつらが何人いるのかもわからない、大蛇とか赤い鷲に見つかるかもわからない。

考えが足りてない!次隠れる場所あれば一度撤退作戦たてないと。


土の地面と違って、歩きならされているとは言え硬めの地面だ。木の破片っぽい軽い砂が沢山。つまり滑りやすい。


さっきの遺体があった建物が先に見える!

あれにひとまず!


風切り音。まずい。


振り返ると雲に紛れながら赤い鷲がチラ見えする。

絶対見つかってる。


「こっち」


ん!?


なんか聞こえた!

どっち?! だれ?!

ひだりてに雲の塊。 そこか!


振り返ってないけどまだ赤い鷲が地面スレスレで突っ込んでくる。

雲に紛れれば逃げるチャンスがある。

全力疾走、というかほぼ飛び降りジャンプ。傾斜で最速と思うとそうなる。


コケるリスクを取った代わりにぐんと進む速度が伸びる。

風切り音がすぐ来てる。

振り返る余裕なんて取ってられない。

飛び込め!


「いまよ!」


雲の壁に突っ込ん瞬間、なにか太くしなる影が飛び込んで来た。

ここで記憶が途切れる。

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