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樹登りは命懸け〜@異世界〜  作者: ぼここ
1.雲の海の底の森の中の
10/20

10.飛び出す紅の鷹

俺がヤケで叫んだと同時に牛型が俺を掴んだまま前につんのめる。


白い影が牛型の肩を跳ねる。

エルさんだった。

俺の掴まれている、大きな手首に何気なく立って俺を見る。牛型の背中に何かしたらしい。


「早く出てこい」

「できたらやってる!」


なぜか無性に腹が立った。

たぶん窮地にいたところから助けに来てもらえて安心したからだろう。あとで頭を擦り付けてありがとうを言おう。


牛型が動いた。振り返ったんだ。

ついでに俺もぶん回されて結構な遠心力で意識が飛ぶかと思った。すでにエルさんは降りていない。


ダンカンさんが枝の真ん中に杖を立てて仁王立ちしている。


「ぐぉぉぉぉ」


俺を掴んでいた片手を離し、ダンカンさんに立ち上がり殴りかかろうとする。


片手になり、握力も弱まる。

正直この状態だと、しっかりつかんでもらっていた方が安心感がある。

落ちれば、俺じゃどうにもならない。高さもあるが、枝の上だ。落ちる場所がない。


「ダンカンさんっ?!」


ダンカンさんのいたところを拳が撃ちつける瞬間、煙、雲が吹き出す。

拳は止まり、その手首をダンカンさんが走り込む。

そのまま杖を振り抜く。前みたいな見えない何かじゃない。

赤いボールのようなもの、回転が汁を撒き散らし牛型の顔面にぶつかる。


牛型が慌てて振った拳を戻す。同時にダンカンさんは飛び降り空中で杖を振るう。

今度は透明なやつが俺に向かって飛んでくる。

マジか!


俺に直接当たってないが、手首ごと衝撃がくる。

それで指がさらに緩み、俺は宙に放られる。

うそ!


俺の下には枝がない。つまり着地できない。

心臓が締まる。声が出せない。


もう一度俺にも透明な弾がぶつかったらしい。

そしたら、マントの裏側が光る。


凄まじい勢いで白い煙が噴き出した。なにも見えない、もうどうにでもなれ、脱力した。


鳶か鷹だったか、山とか海にいくと聴こえる印象的なあの鳴き声。それが間近に聴こえた。


ここに来たときと同じ真っ白な視界の中、真っ赤に映える何かが俺の脇から飛び出してきた。


声は一旦遠くなると、再び俺に向かって大きくなる。


手首をがっしり何かに掴まれる。

肩に衝撃、おれは落ちるのやめたらしい。

そのまま運ばれ小さな雲の塊を飛び出る。


そいつは赤く大きな翼目一杯に広げ、雲を少しだけ引きながら。


真紅の鷹。


でかいというのがまず俺の感想。そしてとてもたくましい。

が俺を支えて飛ぶのは少々というかかなり厳しいらしい。


あからさまに重いと言わんばかりの鳴き声を上げて、必死に羽ばたき俺をかろうじて元の枝まで送り届ける


たぶん、爪を離すときに頭を翼を叩かれたのはわざとだ。


再び優雅に飛びさり、ダンカンさんが真横に上げた腕にとまる。甘える鷹の顔を撫で再び飛ばす。


牛型は?!


顔を抑えてもがいている。

顔に投げられた赤いのは汁だけ残っていた。


もしかして唐辛子的な?

いつ用意した?!


「カワセミっ!! 離れるんだ!」


ハッとしてすぐさま木の根元、ダンカンさんの方へ走り逃げる。


「エルっ! 目を潰した。このまま落とす」


さらに怒りに暴れ散らかす牛型。

目を無理やり開け、涙を流しながらこっちに向く。

エルさんは突っ立てっていた。


「エルっ?!」


あからさまにさっきまでと様子が違う。

それから無闇矢鱈に振り回す腕に当たり、吹き飛ばされる。


いくら体重が軽いってから飛びすぎ!!


「ダンカンさん、サポートよろしく!!」


俺は駆け出した。たぶんダンカンさんが行ったほうが確実にエルさんを救出できるけど、それだけだ。

両手がふさがることになる、エルさんが動かなければ牛型を押さえられない。

今度は俺も遅くなかったはず。


走りながらマントを解き落とす。

ぶっちゃけ重くて邪魔だ。

牛型はちゃんと俺たちをとられられてない。今なら脇だってすり抜けられる。


エルさんは腕を折ってるらしかった。それでも痛みより放心の方が強いらしい。

抑える暇はない。


「我慢して!」


背負うと腕が振れる、だから横抱きにして腕を腹の上に置く。

とは言え痛みで少し唸った。


すでにダンカンさんは動いている。

狭い枝の上とはいえ、歩ける幅は3メートルほどある。

ただでさえ片目の牛型にさらに制限をかけている。さすがに青く目立つ服は脱いでおり、素早く動き撹乱しているようだ。


「おい」


次の行動を考えていると、声がかかる。


「腹のこれで腕を固定してくれ」


正気に戻ってくれた。

声かける前にエルさんの腹の傷を抑えるためのハンカチを片手で解いて手渡される。傷はある程度塞がっているようだけど、1日も経ってなくね?

それは今はいいや、固定用の枝をさがさなきゃ。


「固定は自分でやる、早くやれ」

「えっ、でも」

「やれ」


知らないぞと言いながら、ハンカチを三角に折り、首を通して結ぶ。


「立てる?」

「無理だ、足もやってる」


腫れてるとか分からない、骨は無事っぽいから挫いたのか。

さて、どうする?

ダンカンさんの援護? 赤いやつはある? ない。

隙をついて走りきれるか? 抱えて走れるけど牛型の攻撃をかいくぐるのは無理だ。


「私を運べ、やつの足首を狙う」


さっきの傷の部分か。行動不能にするなら確かに手っ取り早い。


「わかった、いくよ」


走る。

すでに目は復活してるらしい。

ダンカンさんがいくつもの雲の塊を呼び出しては隠れ蓑にして後退している。

俺も利用してやろう。


いや、まて。

あの黄色い雲、たしか犬にくっついてたやつだ。

集まってきてる。

うろ覚えだけど、あれなら赤いやつより強力な目眩ましにできるんじゃないか。たぶん、1番大きな牛型に向かってるようにみえる。

ダンカンさんもあれ狙いか。


予定変更。俺もう一度おとりやってやる。

エルさんいるしなんとかなるだろう。


「こっちこいやっ!」


ぶっちゃけ後先はあまり考えてない。

突っ込め、なんとかなる!!

エルさんやってくれ!


足元に走り込む。

牛型も俺に再度気づき振り向く、その隙にエルさんがなんか飛ばした。

当たる。

背後からダンカンさんも飛ばす。

当たる。

拳が振り下ろされる。

ちゃんと見てれば俺だってかわせんだよ!


サイドに飛び、雲に紛れる。

やべぇ、牛型がみえねぇ。下がるか。


潜んだ小さな雲が牛型の張り手でかき消される、

俺は調子こいたらだめだ。死ぬ。


その間もエルさんはひたすら飛ばす。

それってMP的な制限ないのか?


「走れ、足を止めるな」

「あ、ああ」


かなりチキン戦法。

牛型はかなり頭にきてるのか、俺をはたくことしか考えてない。追い立ててやれば一瞬で、俺は詰むのに。


ダンカンさんの背後からの攻撃を無視してられなくなったのかやつは振り返る。


「カワセミ! こっちにこいっ!」


俺もチャンスと思った。行ける! 行く!

股下をくぐる。エルさんは執拗に傷口に弾を叩き込む。

結構痛々しい。


くぐったところで牛型は膝を崩す。

逃げろ俺!

少し余裕があったから捨てたダンカンさんのマントを回収シつつ走る。ダンカンさんの脇を抜ける。


「カワセミ避けろ!」


走りながら振り返ったら、牛型はあからさまに姿勢を崩してるがきっちりとこっちに目をギラギラと光らす。

何かする気だ。

俺ですらやばい直感を感じた。

走るじゃだめだ。

飛べっ!


向きを変えて枝を降りるように踏み切る。


次の瞬間轟音と枝ごと振動が過ぎ去る。

電車が間近を過ぎ去ったとかの比じゃない荒々しさ。

白と黒の斑の塊がぶっ飛んてった。


おちるっ!


枝の円筒面を滑ったが、ギリギリで踏みとどまった。

エルさんも無事だ。

直ぐに状況確認。

牛型が枝を蹴ってスライディングしてきたのか、まじ死ぬ。

通り過ぎた枝の表面がまさに嵐の跡っぽい。


ダンカンさんは?

ここからじゃ分からない。


「落とす」


エルさんが俺を動けと引く。

牛型は力任せにやったらしく、枝から外れ片手でぶら下がっている。

でも、ダンカンさんが、いやエルさんの言う通りだ、そっちが先。

着地で俺無事とは言えなかったが、幸い動ける。

直ぐに登って牛型に向かって走る。


掴もうと上げた片手をエルさんが撃ち抜く。

バランスを崩し牛型がぶらりと揺れる。やばい時間がない。

俺にできるのは!

エルさんはここで!


エルさんをおいて、腰からサバイバルナイフを抜く。

滑らないように慎重に急いで降りて牛型の指先の脇に来る。

もちろん空いた手の反対だ。

指先の蹄を避けて薄い毛皮に向かって刃滑らそうとする。


大きな手首に力がこもり枝に食い込む。

やばい!


遅かった。空いた手で枝を思いっきり叩いた。

俺の地面が予想以上にずれる。


すごいゆっくりに感じた。これが例のあれか。

宙だから何もできない。まずい。

エルさんも放り出さ、いや下に飛んでる?!


落ちながら掴む手首に何かして、牛型の顔面に取り憑つく。

手首から出血。何かで切ったらしい。


おれもあそこに落ちれば

がっ!?


「掴んで」


引き上げられ、枝の側面に寄せられて掴まさせられる。

同時にエルさんが片足で牛型の顔を蹴り上に跳ぶ。

流石余裕がある。


「あぶない!」


落ち始めた牛型が最後にあがきやがった。


飛んだエルをつかまんと腕を伸ばす。

でもつかめはしなかったが、かすったのか勢いだけ殺された。

そのままじゃこっちまで届かない。


ダンカンさんが俺の下からさらに下がり杖を伸ばす。

俺も!


「ダンカンっ」


俺の意図に気づいたのか、ダンカンさんは俺の腕を掴む。

やばいこれ!!

片手で全力で枝側面の出っ張りに力を入れる。

肩が抜けるかと思った。

そして、更に重みがかかる。やばいやばいやばい

落ちる!


「やばい、落ちる」

「今上がる」


確実に限界を超えた。

登ったというか引き上げられた後、筋が痛む。

よく踏ん張った俺。


ふう。

助かったのか。


結果だけ知れて、途中はそれどころじゃなかった。

牛型は雲の中へ落ちていった。もちろん俺のリュックごと。

諦めはついてる。


安心してさあ、祝勝会だ。


「今は喋るな、最低限にしろ」


泡を食うとはこういうことか。

結局黄色い雲は意味なかった。

集まってきてるやばかったから、速攻でその場から撤退した。







第一章おしまいです。

少し閑話をしまして第2章に移ります。

ひたすら目先の危機を対処し続けた第1章より、少し雰囲気変わり、本筋が進み始めます。

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