第9話 研究員拾われる
モニター後のアンケートって、どんな質問があるのだろう。
暇だったので、リビングのソファーで横になって考えていた。
単純に設問に対して、
よかった・ややよかった・やや悪かった・悪かった
それらから選択して答えるくらいなら、電話でもよかったような気がする。
わざわざ、アンケート用紙を持ってくるというのは、もっと具体的な回答がほしいのだろうか。
モード3について、質問されたら平常心でいられるのかしら。
泣いて訴えれば、彼を取り戻すことができるかもしれない。なーんてことはあるはずがない。
そんな事を考えながら、ソファーでウトウトしていた。
突然、玄関が開ける音がした。
「ただいまー」
なんだ、祐樹か。
ずいぶん、帰りが早いこと。
そういえば、試験期間中だって言っていたわね。
「姉ちゃん、母さん、いるー? ちょっと手伝って」
母さんがキッチンから玄関に向かってバタバタ走る音が聞こえる。
何事よ。
わたしは、ソファーから寝起きのボサボサ頭を搔きながら玄関に向かった。
祐樹が男の人を抱えて玄関に立っていた。
「この人、拾った」
「はぁ?」
「道の途中で倒れていたから、救急車を呼ぼうとしたんだけど、姉ちゃんに用事があって歩いていたみたいだよ。ほら、宅配便の送付状握ってる。俺んちじゃん」
「とま子、この人を知っているの」
汗だくで疲れ切った男を見て、最初は誰だかわからなかった。
細身で銀縁のメガネ。
思い出した。
「ああ、そういえば会社の開発部の人だわ。書類を持ってくるっていっていたから」
「熱中症かもしれないわ。祐樹、リビングのソファーまで運びなさい」
「あいよ」
開発部のメガネをかけた男性は、汗びっしょりになって顔が赤く熱っぽい様子だ。
この炎天下を、駅から歩いてきたのかしら。
タクシーを使おうとは思わなかったのかしら。
どこまでくそ真面目なのよ。
さきほどまで、さっきまでわたしが寝ていたソファーに開発部の人は寝かせられた。
母が冷たいおしぼりとか水をせっせと運んできて、
「とま子の会社の人が、訪ねてくるなんて。なにか大切な用事でもあったのかしら」
「うん、電話で大切な書類を持ってくると聞いてたけど。でも、まさか歩いて来るなんて」
「姉ちゃんにどうしても会いたい理由があったんじゃねーの」
「とま子、まさかこの方とお付き合いされて……」
「違うわ! 二人とも何か勘違いしてるけど、仕事だから」
「あ、そう………残念だわ」
「母さん! 残念がらないで」
わたしたちが、わーわーと騒がしかったせいか、開発部の人は目を開けて意識を取り戻した。
「姉ちゃん、この人、起きたよ」
「大丈夫ですか? 道で倒れていたので、弟がここまで運んで来たんですよ」
「赤井さん?………ここは赤井さんのお宅ですか?」
「あ、まだ横になっていてください。無理をしないで」
「赤井さんは、体調不良じゃなかったのですか?」
はっ、そうだった。
わたしは体調不良で会社を休んでいるのだった。
「あ、わ、わたしはもう大丈夫ですから。
さっきまで寝てたので、寝たら元気になりました。ははは。
でも、どうしてタクシーを使わなかったんですか?それくらい経費で落ちるでしょう」
「手ぶらで訪問するのもなんだから、ケーキ屋さんを探しているうちに歩いてしまいました」
弟がつぶれた箱を指さす。
「まさか、これ?」
「すみません。プリンだったんですけど、中身の保証はできません」
「母ちゃん、これプリンだって。冷蔵庫に入れておくね」
研究員はメガネのズレを手で直してから何か言いたそうにしていたが。
「あの…わたしは…。では、さっそくアンケートに記入をしてください」
もう仕事の話。まあ、普通はそうなるわね。世間話もしない人なんだ。
「ああああ、言ってくれればわたしがアンケート用紙を出しますから、どこに入っているか教えてください。あなたは動かないで! って、名前は何ておっしゃいましたっけ?
わたしは人の名前を覚えるのが苦手で………」
「青木です。アンケート用紙はカバンの中の茶封筒の中にあります」
「はい、………これですね。ありました。これに記入すればいいんですね」
わたしは、アンケート用紙をテーブルの上に置いてペンを持ちながら設問を読みだした。
「姉ちゃん」
「うるさい、黙って」
「姉ちゃんってば………」
「祐樹は自分の部屋に戻って試験勉強していなさい」
「ちょっと、姉ちゃん目をつぶってみて」
「祐樹、お姉ちゃんは仕事中なの。遊んでいる暇はないのよ」
「いいから」
何を言い出すのよ。
祐樹ったら。
ヘンな子ね。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ってくださったら
下にある☆☆☆☆☆から、
ぜひ、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、
正直に感じた気持ちでちろん結構です!
ブックマークもいただけるとさらに泣いて喜びます。
何卒よろしくお願いいたします。