7日目①
目が覚めると夜だった。
詩心が無いと言われるかもしれないが、正直僕に言わせれば、空が暗ければ全て夜だ。
「おはよう、お人形さん」
『おはよう。ここが木の賢者が住む小屋の前だ』
随分と雰囲気のある小さな家だった。
木の家に蔦が巻きついている。まるで魔女の家だ。
深呼吸をしてドアに手をかける。
「うわっ」
少し後ろに下がる。
僕が開ける前にドアが外側に開いた。
「…。ああ、風の魔道士じゃないか。……。今から俺はしばらくいなくなるつもりだったんだ。相変わらずタイミングが微妙に良くないな」
「はあ…」
僕よりも随分目線の低いところから声がする。
目をそちらに向けると、色がたくさん混ざったような不思議な黒髪を持つ少年が、味わい深い顔をしてこちらを見ていた。
「前会った時とは見た目がかなり変わっているな。…。ああ。そういう事か。…。久方ぶりの再会で話したいのは山々なんだが、残念ながら俺はもう行かなくてはいけないんだ、時間が無い。要件は早く言ってくれ。ええと、そうだな、俺は木の賢者で間違いない。それから、その人形はお前にくれてやる、そもそもお前の物でただ修理していただけだからな。…。ええと、あと何かあったか…?それから…。ああ、利子無しでこの家と、家の中にあるものもお前に貸し与えよう。昔馴染みのよしみってやつだな」
ここまで僕が言葉を入れる隙も無く、まくしたてられた。
途中から木の賢者らしい彼が、話しつつ羽付きペンを振りながら、ルーン文字のようなファンタジーチックな文字を空中に書いて、それが、光って変形したり消えたりしていた。
とても幻想的だったが、おそらくそれで僕の現状を把握したのだろう。
……とても恐ろしい力だ。
「要件は?」
何にしろ、僕が言いたいことはもう全て言われた感じがある。
本当に時間が無いんだろう、ということは察した。
「いや、それ以上は無いです。ああでも、自分は風の魔道士ではありませんよ?風の魔道士は異世界から来た女子中学生って話じゃないですか」
「……。言いたいことはそれだけか?それじゃあ俺はもう行く、またな」
こちらを一瞥してから、契約書のような紙を破いて、紙と一緒にそこから消えた。
……転移で移動するなら、外に出る必要はあったんだろうか?
とりあえず、家は貸し与えてくれるらしいので、中に入る。
いろいろ置いてある。
散策すると、鍵のかかった部屋がひとつあった。
結構大きい部屋のような気がするが、鍵は見た感じ近くにはなさそうだ。
『言わなくてはいけないことがある』
なんだろうか。
『私は……実はとてもコスパが悪いんだ』
「…」
コスパが悪い?
いや、あれだけすごいことができるんだ、代償が大きくても仕方無いとは思っていたが…。
表現がよくわからない。
『私は魔石でしか動かせない』
「はあ、それがどうかしたんです?」
魔石というと…僕が着ているローブの首元についてるコレか。
「これ使う?あ、いや…これをお人形さんに使うと自分が魔法使えないのか」
『…。マスター、魔石っていうのは本来そんなすごい物では無いんだ。その魔石だって永久に使えるバグが発生しているだけだ 』
ふむ。
……しかしそうは言うが、それってかなり凄いことなんじゃないのか。
魔石って要はエネルギー源、つまり石油のようなものだろ?それが無限に使えると言うんだ。人類の夢の一端をかじっている気がする。
実のところこの世界はもしかしなくても元の世界よりやれることが多いんじゃ……。
少し、楽しくなってきた。
『永久に使えるとは言え…1回で出せる力の上限は決まっている。その大きさだとできるのはせいぜいなんとか感じられる程度の涼しい風をずっと出し続けるくらいだな。ドライヤーにもならない。そのうえ、風魔法との相性がとても良い魔石だ。他の魔法だと、そもそも発動すらしないだろう』
一息なんてつく必要はないはずだが、お人形さんは1回そこで一息ついた。
『風魔法の適性が異常に高いマスターだから、そんな貧弱な力でも強い威力を発揮できるんだが。私が使う魔石は…基本的になんでもいいとは言え、そんな貧弱な力では動かすこともできないぞ。今ある魔石を消費し尽くすと、話すこともじきに無理になる』
……巻き戻しや転移ができるのに、そんなアナログな感じでエネルギー源を用いているのか……。
空気中の不思議な力を吸う、みたいな話じゃないんだな。ほら太陽光発電とか。SFだとよく見るよね光エネルギーだけで進み続ける宇宙船。
「魔石はどうやって手に入れればいいんだい?」
『今の魔石の価値が分かりかねるからなんとも言えないが…購入か魔物を狩るか探掘と言ったところか』
魔物……そうか。
御屋敷の図書館においてあった論文に書いてあった。心臓近くにある石にしか魔法が通じないうえ、特定の素材を使わなければ触れもしない生物。
魔物同士や魔物→それ以外は手段を問わず攻撃できるらしいが。
……論文の内容をふまえるに、その石が魔石なんだろう。
相変わらずあの御屋敷の図書館は微妙に利用者の対象年齢が偏っているような気がしてならない。
『私を稼働させ続けたいなら…まだ残っているかは分からないが、冒険者ギルドに行ってみるといいかもしれないな』
冒険者ギルドか。冒険家+組合ってことかな。
この場合はその機能を持つ建物の意味でいいのだろうか。
確かに掘り出し物がたくさんありそうだ。
「…なるほどね」
小屋の小窓から外を覗くと、空が随分明るくなっていた。朝だ。
「じゃあ行こうか。君が止まってしまったらもう運べないからね」
『一応満タンまで入っていたから、しばらくは大丈夫だぞ』
「……でもやることないし」
『そうだな。行こうか』
おんぶしてくれた。
「…あれ、冒険者ギルドって結構遠い?」
『ここからならまぁ近いな』
「じゃあ背負わなくていいよ」
どうやら近くの街に支部のようなものがあるらしい。
あとお金も持っていく必要がある。