5日目
図書館の本は想定通り2日で大体読み終わった。
もう僕がこの屋敷に閉じこもっている理由はないだろう。
「この城から出ていってもいいんでしょうか?」
お姫様を見つけたので声をかけてみる。
「…。別に構いませんわ。帰れる保証も私の保護もなくなりますが…私がとめる理由もありませんものね。それに貴方は…もうおそらく私の手なんていらないのでしょう」
「はあ、そうですか」
どうやら出て行ってもいいようだ。
そうなると僕は図書館に戻り、お人形さんを回収しなくてはいけない。
「そういえば、女王様
「自分は図書館の地下室でお人形さんを見つけたのですけれど、
「あれは…持って行ってもいいモノなんでしょうか?」
「…。お人形…?図書館…地下室…。ああ、…ま、持って行っても構わないとは思いますわ」
なんだかピンと来ていない様子だ。
「なんだか他人事ですね?」
「ええ、この屋敷はもともと私のモノではありませんので…。臨時で城の扱いにはなっていますが。心配なら、この屋敷の本来の持ち主である《木の賢者》に聞くといいですわ」
そう言ってお姫様は口笛を吹いて、その木の賢者とやらの地図を呼び出した。
「前から思っていましたが、それ、すごいですね?」
「ふふふ、こんなこともできますのよ?」
お姫様が口笛を吹きながら手を叩くと、地図がクルッと回って静止したあと、お辞儀をするように曲がった。
「へえ、まるで生きているみたいだ」
「そうですね…。ま、基本的になんの役にもたないちょっとした曲芸ですわ」
少し悲しそうに笑った。
▫
「…迎えに来たよ」
『…結構早かったな』
お人形さんは無感情にこちらを眺めてくる。
美しい鏡みたいだ。
「ああ…。髪が長いね」
ひきずるくらいの長さだ。
『マスターは短いほうが好みか?』
そう言って、また割ったためにあちこちに転がっているガラスの破片で髪を切った。
「!?…ええー、もったいない」
『またのばそうと思えばすぐにのばせる。…今すぐにでも』
「ああ、ならこのままでいいや。いやー短いのもかっこかわくていい感じ?だぜ」
まぁ僕自体ろくに美醜が分かるわけでもないんだが。
自分の顔がどっちに分類されるのかも、実はよく分からない。
例えば……俳優の顔が見分けがつかない。
友達の名前が覚えられない。
相貌失認ってわけでは無いんだろうが、どうも昔から僕はそういうところがある。
忘れっぽいうえに、皆が当たり前のように持っている基準が分からない。
思春期には割とよくある話かもしれないが……。
……。
だから僕は1人でいることを選んだ…んだったか?
もうあんまり覚えていない。
しかし、僕は1人でいるのが好きってわけじゃない。改善したいとは思っているんだ。
気を取り直してお人形さんに目を向ける。
僕の理想のお人形さんだ。僕が思った通りに、僕がやって欲しい行動をとる。
今の僕は充足感を覚えている。
……世間はこれを空虚だと言うんだろうか。
まぁでも、そうだ。
よく言われた。理想を求めるならお人形遊びでもしていればいい、と。その通りだ。全くもって真理である。
そうして、その言葉通りに僕は僕の欲しい物を手に入れた。
ここまで考えて、今の状況は僕にとってあまりにもできすぎている気がした。
……。
「じゃあ、外に木の賢者に会いに出かけよう」
『あー、転移するか?』
「嫌です」
思わず食い気味に拒否した。
転移、できるらしい。
本当にすごい人形であることを感じる。
ただ、転移をするには考えないといけないことがある。
それは……転移した後の僕は本当に僕であるのか?問題である。
僕と同じ構成でできたものを僕と言えるのか。
つまるところ、皆大好きなテセウスの船である。
……まぁ異世界転移した時点でその問題は発生しているような気もするが、あまり考えたくない。
「転移…どこでもドア的な?」
『ノー』
取り付く島もない。駄目そうである。
どこでもドアだったら、心配事は少しはマシになったんだがなぁ。
要は、空間を切り貼りしてるわけだから。
「…仕方ない。地図も貰っていることだし、空を飛んで行こう」
僕の風魔法を使えば空だって飛べそうな気がする。
夢は無限大だ。
『……。風魔法はあまり便利な魔法では無い。それくらいなら歩いて行った方がいい。近いしな。女王に城を出ていく許可はとったんだろ?』
頷く。
もう遅いし、明日出ていくことにした。
お姫様に持っていくことは話したし、人形をつれて部屋に帰った。お人形さんの服は帰りに会ったお姫様に貰った。珍しくとても困惑していた。
……そういえば飯をほぼ食べていない気がする。
お腹も空かないし、すっかり忘れていた。
これが異世界転移特典ってやつだろうか。
……おやすみ。