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エピローグ

「思ったよりなんとかなったな……」


「アールくん、元に戻った?」


「戻った戻った」


 どこぞの王女様が宇宙人を討伐するところを眺めつつ、そんな会話をした。


 水の迷宮の下に埋まっているあの化け物……調べてみると、この星の座標を教えている惑星探査機のようなものだと分かった。それもどうにかしなくちゃいけないけど、今のところはひとまずどうにかなったと言えるだろう。


 エリースとの会話を思い返す。



 ───────



「教えるの上手いね」


 板に着いた教え方をする青年に、僕はそう話しかける。


「……ここにいる子供達は僕が未来で会ったことがあるからな。お前はここで魔法を教えて、こいつらを高位精霊にしていたんだな。皆お前に感謝してるぞ。お前に会う前は冷遇されていた者が多かったようだし」


 エリースはそう言った。

 僕は彼の名前を覚えることにした。それは彼が、風の魔道士の名前を覚えない代わりに自身の名前を覚えてほしいと取引を持ちかけてきたからだった。


「良かったの?この未来を選び取ったってことは、君が見た未来は消えるんじゃ」


「なんだ、そのことか?大丈夫だ。僕達は未来という無数にある枝を選んでいるだけだ。選んでいない枝もそこに残り続ける。なんならそう、お前が世界を破壊した未来も」



 ───────



「なあ巫女様、今の世界はどう?思ってた通り?」


 ドラゴンに報告がてらリークリスト火山を適当にぶらついていると、火の巫女が目に入ったので話しかけてみる。


「悪くはないわね」


 うわしゃべった。

 白くパサついた長い髪や不気味なくらい白い肌と比較して浮いて見える赤い目が、僕の方を向いた。

 前来た時と違って僕をしっかり認識している。


「私貴方のこと嫌いだったのよ。私の代名詞だった破壊を奪っていったこと、今も許してないわ」


 幼く華奢な見た目とは裏腹にめちゃくちゃ気が強そうだった。


「何?魔法バトルでもすんの?いいぜ、粉々にしてやる」


 敵意を向けられても反応に困る。

 こういう時の正しい答えがよく分からないので、とりあえず適当に茶化すことにした。戦うことになっても僕が必ず勝てるだろうので問題はない。


「これが私に足りないものなのね」


 ため息をつきながら火の巫女が言う。


「レイアちゃんはぼくより強いよ?心配しないで」


 ワニさんが言う。そういうことじゃないと思う。火の巫女も困惑しているが、満更でもなさそうなのでまぁいいか。


 ちなみに火の魔法使いの条件は、感情的でありながら、怒りを棄却できること、だ。


 死という現象を燃やし尽くしてしまったが故に、生きることも死ぬこともできず佇み続ける彼女を僕はなんとはなしに見つめた。



 ▫



「木の賢者ー、土の錬金術師は修復できそ?」


「……無理そうだ、…ほとんど死体みたいなものだったしな。とりあえずお前の人形の設計図はあったから俺が直せるとは思うが」


 鍵という担保を頑張って僕が復活させたおかげで、木の賢者自体のスペックが上がっている気がする。

 木の魔法は契約の魔法であり、その性質上1番万能な魔法だ。土魔法の代替まで可能らしい。


 ああ、鍵というのは、木の賢者がその祖先に許可を取って力を借りる時の代償にするための一族のことだったりする。木魔法で1番得意なのは、閉じることと開けることなので、鍵と呼ぶわけだ。特にあの蔵書庫は鍵が無いと入れない。

 なお代償とは言うが、世界を安心させるための保険のようなものらしい。木魔法は信用が命なんだと木の賢者が憮然とした顔で言っていたのを思い出す。


 ちなみに木魔法使いの条件は、世界に復讐するだけの理由がありながら、世界との契約に忠実であること、らしい。


「その時は頼むよ」



 ▫



「お姫様」


 お姫様の孫のお姫様に話しかける。…… 自分でも何を言っているか分からなくなってきた。


「なんでしょうか、風の魔道士様」


「そろそろ国父の方に繋がりそう?」


「試してはいますけど、無理そうです……」


 そう自信がなさそうに言った。

 お姫様とそっくりの見た目だが、声も性格も全く違う今の女王を見ながら、考える。

 彼女だけが王子につながる唯一の手がかりとなりつつある。


 ……あのクソジジイ、お人形さんの記憶を戻さず消えやがって。


「また見に行くかぁ」


 城内の地下へ続く階段を降りる。

 年数が経ち、御屋敷を立ち退き、王城も立派なのを建て直しているため、階段も豪華になっているなと郷愁に浸る。


 いつもと同じように首の魔石が光る。

 本棚から音が鳴り、扉が開いた。

 中はとても明るい。


 部屋の中心には1つの人形が液体の中に浸かっていた。


「ふむ」


 相変わらずの、有機物には絶対再現できないであろう美しい金髪を眺める。切っていないので長いままだ。

 今は起動していないので、目を閉じている。


 パリン


 ガラスにヒビが入る。おかしいな、まだ起動はしていないはずだ。


 お人形さんが目をあける。美しいブルーサファイアみたいな綺麗な瞳。瞳孔は無い。

 お人形さんが手を前に出し、そのままひび割れたガラスを突き破った。


『マスターは短いほうが好みか?』


 そう言いながらお人形さんはニンマリ笑って、ガラス片で自身の髪を、前の通りに切った。


「な、な……」


『ああ、記憶が戻ったぞ、マスター』


 視界が滲む。思わず腕で目を覆う。

 そこで僕は、自分が生まれて初めて感動による涙を流しているのだと自覚したのだった。


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