提示
主人公視点に戻ります。
「間に合った。いや、間に合ってはないか」
ピンク髪の青年が後ろから現れ、場にそぐわない冷静な声でそう言った。少しとぼけているような気すらする。
周りには刎ねた首と体が散乱している。
「リクシオン」
彼がそう言い放つと、たちまち首は元の場所に戻り、僕が殺した異世界人が全て生き返った。
「ほら、せっかく僕が死ななかったことにしてやったんだから、早く逃げろ」
異世界人達が蜘蛛の子を散らすように城内から逃げていく。
「どういうつもりだ?」
突如現れた時空間魔法使いに手を向け、魔法を使う準備をする。取引を邪魔されたのだ、それをする権利が僕にはある。
「待て。……そこのワニ、ペンテウスだよな?に聞け。コイツが」
「アールくんを助けて欲しい!ってぼくが言ったんだ!」
青年の後ろから顔をのぞかせ、ワニさんが出てきてそんなことを言った。
変わらないな。もう出会ってから70年くらいか。ドラゴンに育てられているからかは知らないが、体躯もほとんど成長しているようには見えなかった。
それを言ったら目の前の青年も見た目が変わっていないが、彼はなんとなく納得がいくのであまり気にならなかった。
「俺を助ける?」
「このペンテウス……ペンテウスって覚えにくすぎだろ、なんでこんな名前にした?……とりあえずそのペンテウスが僕なら風の魔道士を救えるって言うから、来てみた、暇つぶしに」
「は?」
全く要領を得ない答えだ。
暇つぶし?僕を救える?いや、僕は救われるような立場にはいない。どちらかと言うと、僕は倒される側だ。僕を倒せば世界は救われるだろう。
「ああ、いや、待て待て。風の魔道士、お前は情報魔法の使い手だったか?が行っている策略に巻き込まれていて、それで世界を破壊しているってことでいいんだよな?」
「まぁ、そうなるか」
「で、大元である情報魔法使いさんは、この星の侵略者である悪魔どもに対処する方法を一切持ち合わせていない、僕達を悲観して、強くするために、数を減らしたい、だろ?」
「……それは聞かれても分かんねぇよ」
あくまで風魔法で特定した結論であって真実は分からない。
不確実な情報をワニさんに教えるべきではなかったか。
「おいおい」
話が違うだろという風に、青年がワニさんの方を向く。ワニさんは何処吹く風だ。
「ま、まあいい。で、僕が言いたいのはだな、僕なら悪魔への対抗手段を用意できるってことだ」
「それは……ちょっと興味がある」
時空間魔法だと悪魔……宇宙人に対抗できるってことだろうか。
なるほど。
魔法というのは、世界から力を借りて、その借りた人物が起こす現象だ。異世界人は魔族よりその扱いが上手いため、生息圏を広げることができたという事情がある。
あくまで現象を起こすのは本人であるため、及ぼす影響も本人に依存する。異世界人が扱う魔法は自然現象に近い。この星は海、地面、つまりは災害も、全て魔力によって構成されている。だから、地球の物理法則がここでは通用しないのだが……それはいいか。
異世界人は魔力そのもので構成される、よって、異世界人が起こす現象は魔力にしか干渉できない。
魔法が存在しない、科学で成り立っている星から襲来した宇宙人達には為す術がないわけだ。魔力なんて持ち合わせてすらいないから。
その問題を、時空間魔法は解決できる?
そうか。もしかして、次元の座標自体に干渉しているのか。
だから、時空間を直接的に扱っているわけではないから、宇宙人にも対処できるのか。そうだな、時間や空間の概念は宇宙人にも適応されるから、対抗手段になり得ると。
「いけるかも」
まずは確認を取らないとな。
「……私は反対かな」
「な、お前は……誰?」
ピンク髪の青年が困惑した顔を見せる。僕の後ろを見ているらしい。振り向くと、銀色の髪が視界に入る─────シエルロッテがそこに立っていた。
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「大丈夫?」
完全に硬直していた僕に、ワニさんが聞いてくる。
ごめん、全然大丈夫じゃない。いろいろと怖すぎだろ。
「ああ、あのダンジョンで戦った女か。……なんで生きてんの?」
ピンク髪の青年も彼女がシエルロッテであると気がついたらしい、首を傾げる。
まぁうん、確かにシエルロッテの肉体はまだ生きていたよ?でもさ、彼女はやっぱりもうどこにもいないはずで。
「ああ、私はシエルロッテじゃないよ、レイスカイトだよ」
……誰?
「レイスカイト?ああ!国父の!……。…………」




