回帰する未来の顛末①
「と、いう感じで僕はダンジョン攻略乗り出すことになったわけ」
「おー」
どこかで見た覚えがある気がする赤いワニの前で寝転びながら、僕は未来に飛んだ時の話をしていた。
特に意味があるわけではない。貴族は暇なのだ。
庭に会話ができる謎のワニがいれば僕の勇姿を伝えたくもなるさ。
「それからどうなったの?」
「面白いのは、そうだな……異世界から来た魔王とか出てきてな。そいつのせいで未来の魔物が強力になっていたらしいぞ。異世界に帰ったからダンジョンに出現させてるとか言っていたが良い迷惑だったな」
倒すのがすごく大変だった。仲間達が皆病んでいくのをただ見せられていたんだぞ僕は。仕方なく1人で倒す羽目になった。
「そうじゃなくてー!」
「んー?ああ。なんやかんやあって、ダンジョンはいい感じで攻略したぞ。第4関門で風の魔道士が出てきた時は死ぬかと思ったけど」
普通に僕だけなら負けていただろう。
……他の階層のボスも、僕だけで勝てたか?って聞かれたら無理だろうけどな。とはいえ、僕もただでは負けない自信がある。風の魔道士じゃなければ。
僕が魔法を消しながら剣士の女の子が斬りかかってなんとかなった。……言うほどなんとかなったか?とりあえず足止めにはなった。その後ダメ押しにように、途中から参加していた、パーティメンバーの養母を名乗る謎の幼げな魔女とか、めちゃくちゃガタイが良くて強そうな女戦士とか、何故か味方してくれている悪魔の少年(悪魔は大抵青年期から壮年期の見た目をしているため、少年の姿をしているのは珍しい)とかが総アタックして、最終的に初期メンバーの茶髪の少年が放った矢により倒された。
あの少年の放つ矢は事象すら捻じ曲げそうな不気味さを感じたが……そしてそれは時空間に関しては並ぶもののいない僕が感じたからこそきっと正しいが、とにかくそこまでしてようやく倒したのである。
「まー案の定攻略特典の願い事は僕の帰還には使えなかった」
というか、水の迷宮主くんはもう死んでいたらしい。あくまで、水魔法で過去の自分を保存しているだけだと言っていた。だから精霊扱いをされていたんだろうな。魔石がない、魔力だけで存在している生物だから。
完全に過去を保存する……つまり、未来に向かって一方通行でしか異動することのできない魔法なのだ、水魔法というのは。
風の魔道士が記していた、コールドスリープという事象と最終的な結果は似ている。それは不可逆の、未来への旅路足り得るということ。
最初から期待なんてしていなかったけど、少しだけ落ち込んだ。
「それで!それで?結局、王になるべきなのは誰だったの?」
ワニがなんとなく興奮した様子で聞いてくる。
楽しそうに聞いてくれるのは嬉しいな。
「ん?ああ。水の迷宮は真実を映し出す鏡のような役割も持っている。迷宮主が指し示した水面には茶髪の少年……ノアが映っていた」
「へえ!じゃあもしかして、伯爵はそれを知っていたの?」
「そうみたいだな」
帰った後のケインが激怒をしていたのが思い起こされる。
巻き込まれて命の危険に合わされて、結果がそれじゃあ怒るのも分からないでもない。
「ま、ノアは国王になるのを断ったんだけどな」
「なんで!?」
「好きな女がいたんだってさ。パン屋の娘だ。国王なんかになったら彼女と結婚できないって断ったわけだ」
精神的に強くて、笑顔が可愛くて良い子だった。
幼少期から、社会的な爪弾き者である魔女に育てられ、不安定な立場にあった彼が惚れ込むのは分からなくもない。
「じゃー仕方ないかー」
「そうだな。それで国王に文明レベルを引き上げてもらおうと思っていた僕は、すっかり宛が外れて途方に暮れた」
本当にどうしてやろうかと思った。
あんなに苦労してダンジョンを攻略したのに、帰れないとかあるか?
「ひとまず、僕は国王に会うことにした。先代を暗殺して王になったという割には気さくな人だったよ。それに、一体だけだったけど知性の高そうな竜種も味方についていたし」
契約は効いていないわけで、あれは自主的に友好関係を結べていたということだろう。
「と、いうことで僕は考えたわけだ。新しく契約を結び直せばいいだけじゃないか?ってな」
「ほー?」
分かってなさそうだな。
しょうがない。説明してやるか。
「必要なのは、王と竜、それから仲介役の神だろ?それさえ揃えてしまえばまた今までと同じことができるってわけだ。僕はいいこと思いついたと思ったね。恩も売れるし、国政も安定しそうないい案だった」
「ふーん」
「興味無さそうだな……」
今までの反応から言って、冒険譚とかの方が好きそうな感じか。
もしかしてダンジョン攻略の下りは飛ばさない方が良かったか?しかし僕がメインで活躍したわけではないしな……。




