回帰する未来④
「君がドラゴンを単騎で倒した精霊か」
なんだか知らないが、伯爵家に呼ばれた。
「そうだ」
とりあえずそう答える。僕も一応伯爵家の人間だ。家を継ぐのは妹の予定だったが、伯爵家の人間には変わりない。もう僕の家が残っているはずは無い。しかし心の奥底にあるプライドが敬語を使うことを躊躇わせた。
「本当に上位精霊なんだね!驚いたよ」
伯爵の威圧的な雰囲気が霧散した。どうやら上位精霊の振る舞いとは今の僕のような態度らしい。
「ケインから聞いたよ。1000年前の技術を再現したいんだって?」
「!?」
「なるほどね」
ケイン、お前僕を売ったのか?
部屋の隅で気配を消したケインを凝視すると、目線をそらされた。
「1つ提案があるんだけど聞いてくれるかな?」
「ああ」
「ダンジョン攻略をしてみないか?」
……。
嫌だ。
ダンジョン攻略をして酷い目に遭ったばかりなんだぞ僕は。
「まあまあ、もう少し聞いてくれよ。今の世界情勢は知ってるかい?……知らなそうだね。精霊は興味ないよねー」
僕の表情が読めるだと?魔族は僕達の表情が分からないという話ではなかったのか。内心首を捻っていると、伯爵はそのまま矢継ぎ早に話し始めた。
「元々この国は侵略者……悪魔に弱くてね。昔の王族が精霊を怒らせるようなことをしたって話もあるけど、ここでは本題じゃないから省略するね。そこで我らが王はドラゴンと契約し、守ってもらうことを考えついた。彼ら、とかく固いからね。そして神族の庇護の元、正当なる王の直系とドラゴンの契約は続くとされた。……ここまで言えば察するか。そう、今王になっている人間は神族に認められていない、つまり直系じゃないんだ。おかげでドラゴンがこの国を守ってくれなくなった」
「それがどうダンジョンと関係があるんだ?」
というか1000年前の技術とこの国の王になんの関係があるんだ?……そういえば竜種は寿命が長いと聞くな。そのあたりか?
「要はこの国の人間は皆正当な王が現れることを望んでるってことさ。でも居場所がわからないんだ。だからそれをどうにかして探したい。聞くところによると、僕の領地にあるダンジョンは攻略するとなんでも願いが叶うそうじゃないか」
……それ僕は攻略したことあるぞ。というか水の迷宮だろ。僕が酷い目にあったダンジョンそのものじゃないか。
「な!?それは聞いてませんよ、伯爵!!」
部屋の隅にいたケインが突然声を荒げた。
「言ってないからね。で、さ。分かるよね?その願いを使っていいよ。そのダンジョンは真実を映し出す。俺の考えが正しければ、最下層に行って迷宮主に会うだけで真の王は分かるから」
「……」
考える。
僕の目的は1000年前に帰還することだ。そして妹に再会する。
確かにあいつは、僕が正当な手段を踏まずにダンジョンを攻略したから凍らせたと言った。つまり正当な手段で踏破すれば帰らせてもらうという願いも叶えられるのかもしれない。
……僕が1000年氷漬けだったのはそれだけが理由じゃない。それに、罪の精算という話を考えるとなんだか釣り合っていない気がする。本当にその手順で帰れるのか?疑念は残る。そもそもアイツは時間遡行なんてできるのだろうか。
待てよ。王に恩を売れるっていうのはありじゃないか?それで国力を使って文明レベルを上げればいい。1人に託すよりずっと目があるだろう。うん。
「ありだな」
「だよね!だってさ」
後ろの扉が開く。
中、いやこの場合は外か、から2人入ってきた。
1人は銀髪で背の高い少女だ。賢そうな目つきが特徴的な気がする。僕は魔物の研究をちょっとだけしていたので、魔族の判別には自信がある。ほら、貴族って結構暇だからさ……。
もう1人は育ちかけという感じの少年だ。髪は茶髪だね。何となく顔は整っている気がする。あんまり自信ないな。いや、異種族の顔の美醜とか自信ある方が気持ち悪いんじゃないか?
「この2人は?」
「君がダンジョンを攻略する際、同伴することになる2人だよ」
どうやら僕がダンジョンに潜ることはもう確定しているらしい。
「待てよ、待ってくれ。あのダンジョンは!」
「……僕の配下に戻ってくれるなら、このパーティに入れてあげてもいけど?」
「……。俺が着いてったってなんにもならねぇだろ」
何だ?ケインは元々伯爵家に仕えていたのか。なんで冒険者なんかになったんだ。いや、今の、つまり魔族にとっての冒険者は、爪弾き者の行き着く先だった昔の冒険者とは全く別物なのかもしれない。
偏見は良くないな。少し反省した。
しかし、これはもしかして、僕のことを心配してくれているのか?いや、あの少年少女たちのことかもしれない。あのダンジョンに潜るにはちょっと若すぎる気もするしな。
……ズルをしたとはいえ、1回踏破した僕がいるんだから大丈夫だろ。




