回帰する未来①
これから6話は時空間魔法使い視点です。
「おはよう、エリース。世界で唯一の時空間魔法使い」
水の迷宮主がにっこり笑いながら、僕を見下げてくる。
……。やらかした。
水の迷宮主に力を借りて、街を1つ、潰す予定だった。この迷宮は、攻略したものに水の迷宮主が力を貸す、そういうものだった。
僕は時空間魔法を使い、水の迷宮主の目の前に転移して、不意打ち気味に、彼に勝利した。
上手くいくとも思っていなかったが、偶然理想通りに攻略できて喜んでいた矢先に、水の迷宮主の魔法を受けてしまったというわけだった。
「なんか前見た時と内装が違うんだが…」
「1000年経ってるから。内装くらい変わるさ」
それが真実であることを確認する。
1000年……妹はもう死んでいるか。
「大丈夫だよ。君はきちんと1000年前に帰れる。僕が保証してあげる」
▫
そういうことで、とりあえず僕は外に出ることにした。
時空間魔法で上手くやれば、1000年前に帰れるかもしれないと思ったからだ。
だが……想像以上に文明が退化している。
時空間魔法の性質上、世界に文明は必須なのだ。世界自体が僕の扱える魔法を認識していなければ、力を借りることもままならない。
これではどう足掻いても帰れないだろう。
どうしたものか……。
▫
「ごめんください」
僕はギルドに来ていた。
とりあえず現在の文明レベルをしっかり知るためには、ギルドに行けばいいと知っていた。
前来たときとは様子が違う。1000年も経っているのだから当たり前か。
酒場みたいになっている。
「姉ちゃん。こんなところに何の用だ?」
魔族の男に聞かれた。
「姉ちゃん?僕は男だけど」
「……」
僕は性別を間違えられたことは無い。性別が分かりにくい魔力が存在しているということは僕も知っているが、僕自体はそれではない。
少し疑問に思ったが、とりあえず気にしないことにした。
▫
「登録したいんですけれど…」
「はい、こちらに手を合わせてください」
糸のようなものが繋がった板を渡される。
初めて見るが、害がある物ではなさそうだ。
手形の絵がついているので、それに手を合わせる。
「はい、ギルドカードです」
「へえ」
便利だな。
僕の情報が印刷されたカードを奥から取り出して、渡してきた。
「精霊!?珍しいですね?しかもコミニュケーションがしっかり取れることを見るに、相当高位な…」
「精霊?…いや、僕も人里に出てきたのは随分久しぶりでしてね。その精霊というものが何であるかを教えてくれますか?」
「そうですね…本当に珍しいので、分かっていることは少ないですが、人間に力を貸してくれる寿命の長い生命体です。コミュニケーションをとることは難しく、しかし人間に対して危害を加える事は一切ありません」
僕がその精霊だと言うことらしい。自身の体を調べてみるがとくに変わった様子はない。とすると常識自体が変わっているということか。1000年経っているからな。
「じゃあその«人間»っていうのはなんですか?」
「ええ!?人間ですか?…困りました。どう説明すればいいものか」
それもそうか。
見たところ、この人はその«人間»のようだ。
自身の種族を説明しろと言ってもなかなか難しいだろう。
「それでは聞き方を変えます。精霊と比べて、人間が異なる点はどこですか?」
「胸に心血石があるところ、寿命が短い…力が強い、あとはそう、«性別»がある…このくらいですか」
なるほどなるほど……。
心血石とは魔石のことだろう。
つまりその«人間»というのは僕達で言うところの魔族にあたるわけか。
「しかし性別ですか?ふむ、僕には性別というものがないと」
「ええ、性別というのはその…」
魔族の解剖図を思い出す。
「ああ…分かりました。そういうことですか。では確かに僕には«性別»はありませんね」
魔族は確か、そういう臓器があるんだったよな。僕達はそれに類するものはない。魔力を混ぜ合わせることで子孫を繋げていくからだ。
「疑問は解消されたでしょうか?」
「ええ、とても。ありがとうございます」
「いえいえ。…精霊となると、誰かと契約しますか?」
契約?
ああ、僕達は魔石を狙わない限り、基本的に魔族を攻撃できない、魔物を攻撃できないからか。
掲示板に張り出されている依頼はどうもそういうものばかりだ。
ということは、契約すれば魔物退治がやりやすくなるのか。どういう理屈なのか……興味はある。
しかしそれはあとでも知れるだろう。
「ははは、僕は少し特殊でしてね。空間ごと全てを曲げれるのですよ。なので契約はいりません。そもそも僕は、久しぶりの人里を観察しに来ただけですし」
「久しぶり…何年ぶりくらいですか?」
「1000年ぶりです。信じますか?」
冗談めかして言ってみる。
「ええ、水の迷宮にいらっしゃる精霊様も1000歳は超えているという話ですから」
……。水の迷宮主は今精霊なのか?
考えてみるが、あの迷宮で確認できた人物と呼べる存在は、彼しか見当たらなかった。
1000年前は魔族だった気がするので、今で言う人間に当たると思うのだけれど。
保留。
「とりあえず依頼を受けてみますかね」




