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風の魔道士は異世界を滅ぼしていく

「あの名高い風の魔道士様に来ていただけるなんて光栄だ」


 今日はあまり馴染みのない国の戴冠式だ。軍事国家として有名らしい。招待されたので参加している。

 しかし僕が名高い?悪名高いってところかな。


「そう思うなら分かってるよな?」


「なんのことでしょうか」


 ……。まぁいいだろう。約束を反故にするならそれ相応の態度を取るだけだ。


「招いたこと、後悔しないようにせいぜい上手く立ち回れよ」



 ▫



「昨今の悪魔共には目が余る」


 悪魔と言うのは、この星に攻めて来た宇宙人達のことだ。最近は攻め方を変えているのか、定期的に少人数でやってきては、サンプル……異世界人を何人か連れ去って帰っていく。


 宇宙人に対して異世界人は基本為す術がなく、そのため、こういう大切な式典に僕は呼ばれがちだ。宇宙人も問題なく破壊できるからだろう。

 ただ、場合によっては侵略者たる宇宙人達より遥かに悪辣で扱いにくくなる僕を護衛にしようなんて片腹痛いと言う他ない。


「ま、そうだな」


 なんだか面白くなって少し笑いつつ、適当に同意する。


「お人形さん、今日は楽しみだね」


『そうだな、リカ』


 かなり時間がかかったが、お人形さんは直った。しかし、記憶が元に戻っていない。もう僕をマスターと呼んでくれるお人形さんはどこにもいない。

 ……直ったというより新しく作り直したというのが正しい。同じ型の別物と言った方が正しいだろう。結局錬金術師にも直せなかったのだ。


 怒った僕は思わず彼女を破壊してしまった。中身には何も入っていない、ただの土人形だった。次お人形さんが壊れればもう直せないだろう。

 もしあれが土の錬金術師の本体でないとしても、もう引き受けてくれはしないだろうからなぁ……。


 僕はあまり感情的になるような人間では無いから、急に起こった衝動を止められなかったのだ。それを制御する術を知らなかった。

 ……いや、言い訳はよそう。本当に申し訳ないことをしたと思っている。


「王冠はどこでも似たようなもんなんだなあ」


 こんなとぼけたことを言えば、いつもならワニさんが少しズレた相槌を入れてくるところだが、今ワニさんはここにはいない。親元に帰ってしまった。見放されたのかもしれない。仕方ないとしか言いようがない。


「ははは、あーあ……」


 なんかもう何もかもつまらない。全部が億劫でどうでもよく見える。


 ドフトエフスキーだっけ?

 自分で1度汲んだ水をそのまま元に戻し、それからまた汲ませる作業が1番人を追い詰めるみたいなことを書いていたのは。

 ああ、正しくそんな心境だ。あの王子様に嵌められた。今の僕は、自分が守った異世界人を自分のせいで殺している。こんなことをして何の得があるのかと言いたいが……最初から魔王を狙い撃ちで呼び寄せるようなやつだ。僕が限界を迎えるのを待っていると思われる。そしてもうどうすることもできないのだ。


 お人形さんを手に入れた時点で僕の負けだ……あれは彼が作製させ、あの場所に置いてあったものらしい、そう、僕がそれを手に入れられるように。


「おめでとう。それで王様、対価はきちんと支払ってくれるんだよな?」


 無事戴冠を終えた王様に聞く。


「あ、ああ。もちろんだ」


 結構距離のあるところから聞いたので、少し驚いている。なに、風魔法は囁き声を相手に届けることなんてお手の物だ。


「ほら、これがその品だ」


 召使いらしき人に持ってこさせたらしい。目でこれがそうだと示される。


「違うな」


 まぁそりゃあそうだ。

 お人形さんが修理できなかったのは、特に重要な内部パーツの1つ……記憶を保存しておけるらしい、が欠損していたからで、それを僕は探している。しかし見つかるわけもない。だってきっと、それを消したのは情報魔法の使い手であるあの男本人なのだから。


 最初から見つかるなんて思っていない。それでも条件として提示されれば乗らざるを得ない。

 1度絶対に手に入らないはずだった欲しい物を手に入れれば、手に入る前よりずっと、それを求めるようになるものだ。少なくとも僕はそうだった。


「……あーあ」


 なんで僕はこんな無駄なことを繰り返しているんだ?


「これは俺の求める物ではないようだ……弁明はあるか?」


「…………。ない」


「そうか」


 じゃあ仕方ないな。

 上手い弁明をすれば、許してあげることもあるんだけどね。例えば僕が欲しそうな物を他に用意しているとか、そういうことだけでいい。


「優れた働きには然るべき対価が必要だ、お前らもそう思うだろ?」


 始末した悪魔を2体、眼前に放り投げる。肩に引っ掛けていたものだが、僕の働きを示すにはちょうど良いだろう。


「王族を1人寄越せ。できるだけ幼い方が良い」


 まぁここは別に誰でもいい。正しさを証明するために、できるだけ価値が高そうな人物を選んでいるというだけだ。


 情報魔法の使い手であるあのジジイの思惑は分かっている。風魔法は正解に辿り着くための魔法だ。それくらいお手の物である。


 異世界人はその全ての人数で世界から力を借りる権利を共有している。つまり数を減らせば、その分1人分の魔法力は高くなり、より強くなっていくというわけだ。

 異世界人は基本的に、侵略者である宇宙人に抵抗する術がない。数少ない生存の道を探った結果、力の強い個人を作りだそうとしているのだ。

 そしてその過程において、不可欠な存在である僕を召喚した。

 …………あの時も。冷夏ちゃんはついでだったのだ。調整されていないのは僕で、調整されていたのは冷夏ちゃんだったのだから当たり前ではあった。


「やれ」


 国王が命令すると、僕達の後ろに控えていた兵士が、お人形さんの背後に周り、その首元に刃を当てた。


「ははははは!」


 僕は笑う。

 周りにいる異世界人達がひるむのが分かる。


「考えられる限り、最悪の決断だぜ、それは」


 片手を地面と並行にかざす。

 そうすると、皆、地面を警戒するんだから笑っちまうよな。


「『スレイ』」


 そうして王城にいる異世界人全ての【首】を僕は刎ねた。


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