クラスメイトとの遭遇
「…。起きろ」
蹴られた。木の賢者は小さいから力があまりなく、ベッドから落とされるようなことは無いが、随分な起こし方だな……。
「…おはよう。パーティメンバー回収しようって話だけど、今のところ何人に連絡取れるのさ」
「ドラゴンだけだが?」
「えぇ…」
まぁいいか。
▫
「久しぶり」
『言うほど久しぶりか?…ワニはいないな。はなから期待はしていないが』
ため息をつきながら、ドラゴンが人型になった。
ため息と言っても口は一切開かない。
お上品じゃないとかなんとか。
……最近僕と会ったことがあるような口振りだな。いやしかし、ドラゴンは長命なのだ。150年くらいさしたる時間でもないのかもしれない。
「おぉ、…思ったより、ごつくなってないな。魔族で男だからもうちょいこう…でかくなると思ってたんだけど」
着物を着ていた。あと、長い赤い髪に花飾りをつけていた。
二次性徴期はとっくに終わっているだろうに、女の人にしか見えなかった。
なんかこのドラゴンは成長したら骨太で背の高いムキムキの巨漢になっているイメージを勝手に持っていたので軽く衝撃だ。
「…。リカ、ギルド長の居場所分かったか?」
木の賢者が話しかけてくる。
ギルド長の居場所は木の魔法では特定しづらいということだった。逆に風魔法は向いている。そもそも、風魔法は失くし物を探すために僕が考案した魔法なのだ。向いていなかったらおかしい。
「これは…」
……予想外の場所だな。
2人に状況を説明する。
「…。遠いな」
「泉のなかってどういうことだろうね」
『そこなら我も知っているぞ…背中に乗せて行ってやろうか?』
ということで、ドラゴンの背に乗ってそこまで行くことになった。
ドラゴンの縄張りには、細やかな気遣いのできる木の賢者が一時的に結界をはっていた。
▫
空の上を飛ぶのは結構気分がいい。
揺れも酷いが。
「それにしても男3人か」
『…華なら我1人で十分だと思うが?』
「はは、確かに昔そんなことも言ったね。よく覚えてんなぁ」
そのあと、冷夏ちゃんにめちゃくちゃ怒られたっけ。ドラゴンに華があっていいね!って初対面で言ったんだったか。褒めろと言うから褒めたのだが、そういうことではないらしい。ああでもドラゴン自体は満足してるんだから合ってはいたのかな。
「大したことじゃない。バランスが取れていないとなんか気になるってだけでさ」
「…そういうものか」
『…お前は男判定でいいのか?というか、木の賢者も男判定でいいのか?』
木の賢者くんの生態は基本木なので、厳密には性別なしである。
「…そういえばドラゴン、君って男判定でいいの?」
外見は女性にしか見えない。
こう思うと意外と性別のバランスはいい?
……いや、そんな馬鹿な。
『呼び名はお前がつけたというのに、また忘れているのか。いつものことだが』
怒ってはいなさそうだった。
「てへ。…名前なんだっけ」
『テイレスだっただろ』
「うんうん、テイレス。久しぶりだね」
『…久しぶりだな』
機嫌が良さそうである。
▫
「ここか」
眼前には大きい泉が広がっている。
波紋が出てきた。
『後ろから何かが来る』
ドラゴンがそう言った。
後ろに振り向くと、魔族を何人か引き連れた真っ黒い少年がいた。
「…誰?」
僕の方へ指をさしている。
「宣告する!お前が風の魔道士であると!」
「…なるほど?」
そう言えば昔、僕のことを見つけられた人間には、聞きたい物事が正しいかどうか教えてあげるという約束をしたんだっけ。
ちなみに、さっきの言葉は僕を見つけた時の言葉として指定したものだ。
「風の魔道士…お前の本体はその魔石であり、芥川里香の体を乗っとっていた…違うか?」
「…そう思った経緯は?」
「芥川は魔法の才能が全くなかったにも関わらず、そのローブを渡された瞬間魔法が使えるようになった。そして、俺が胸を刺しても、首を切っても生き返った…それはお前の本体がその体じゃないから…」
えぇ……。ってことは僕の体は刺されたり首を切られたりしているのか。なんか嫌だな。
それはそれとして、
「ううむ、…50点!」
「…。あげすぎじゃないか?」
木の賢者が訝しげに言う。
「いや、一応自分が風の魔道士であることは当てたわけだし…」
僕は忘れっぽいからこいつが誰だか分からないが、どうやら僕のクラスメイトの1人らしい。
「…そうなの?今アールくんじゃないの?ぼくのこと分かる?」
魔族の1人が僕に声をかけてくる。
「いや、50点って言ったじゃないか。自分は間違いなくアールくんでもある…ところで君誰?」
『そういうとこだぞ』
人型になったドラゴンが軽く首を振ってため息をついた。
「ため息をつくと体に良くない…っていうのはデマなんだっけ。…まぁ、楽しくいこうぜ!」
『……』
呆れられた。
「まぁ50点だから…そうだなぁ、自分達に勝てたら、多めに見て100点ってことでどう?」
▫
ボコボコにした。
弱い。これが今代の魔王か。
精神干渉魔法には少しドキっとさせられたが、旧代の魔王に比べればまだまだである。
こちらには木の賢者くんもいるのだ。どうということもない。
「じゃ、また挑戦してね」
手を振った。
「…」
さっき話しかけて来た1人の魔族が残っている。
「本当に思い出せないの?」
悲しそうだ。
『…コイツはお前に呼び名をつけなかったか?』
「…!つけてた、つけたよ、ペンテウスって!」
「ペンテウス…」
何かがひっかかる。
「あ、思い出した。…ペンテウス、そうだね冒険者で世界3位のペンテウスだ」
そうだ。それからお人形さんを探さないと。
『コイツは昔からこういう奴だ。あんまり執着すると、あとが辛くなるぞ』
ワニさんが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。
ふと泉を見ると、波紋が大きくなっており、そこから人の手が……
中に引きずりこまれた。
水の揺れが心地よい。どうせ不死身なのだし…寝るか。




