65日目②
「吴人は先に行って」
取り巻きの1人が言う。このクラスメイトの名前は吴人っていうのか。聞いたことがあるようなないような。まぁいいか。
しかし別行動かーやばいなー。
……なんてね。既定路線だ。お姫様が迎え撃つらしい。
その吴人とやらの魅了にかかっているっぽいが……まぁあのお姫様なら大丈夫だろう。
僕が心配することでもない。
「へえ、君が残るんだね」
取り巻きの少年の1人だ。
残りの軍勢?は僕があいつと話している間にどこかへ行った。
不安ではあるが、僕は屋敷の警護をメインで頼まれているし、とりあえずお人形さんに頼んで軍勢の力は大きくそいでおいたから大丈夫だろう。
「まぁいいや。はぁ…こっからどうするかね。…心配だから女王様のところ行くか。ロプト、そいつ拘束しておいて」
『どこでもドアも使えるようになったが』
「え、すごいな。じゃあそれで行くか」
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「あれ、おひ…いさまのところにまだあいつ来てないんですね」
そういえばこのお屋敷結構広かったな。
ワープでここまで来た僕達の方がここに早く着くには当たり前なのかもしれない。
「お嬢様…?ま、いいです。生け捕りありがとうございました」
お姫様じゃ不敬にあたるかと思い、咄嗟に翻訳が用意されてなさそうなおひいさまと呼んでみたが、もっと不敬な感じになってしまった。
おひいさまってお姫様の音読みじゃなかったか?なのにお嬢様って訳されるのか……。
相変わらずよく分からない翻訳だなぁ。
「いえいえ、あ、追加の捕虜?です」
「どうも」
そう言ってお姫様はそいつの目をくり抜いた。
捕虜から悲鳴があがる。
捕虜の待遇としては最低クラスだな。とか冗談言ってる場合じゃないか。
「どういう意図なんですかそれ」
あんまり意味があるとは思えない。
他の僕が生け捕りにしたヤツらも、そのあとお姫様に特攻したであろうやつらも皆目が抜かれている。
「いえ…。この国の王位継承の資格を持つものは誰か分かりますか?」
「…鑑定ができる紫の石を持つこと、ですね」
お姫様は紫色の目を細めてにっこりと笑った。
「そういうことですか」
僕は察した。
「そういうことですわ」
お姫様は頷いた。
吴人とやらはせ察しが悪くてこれに気づかなかったってことか……大惨事だよ本当に。
これをずっと見るのもなんとなく嫌なので、僕達はとりあえず奥に控えておくことにした。
「どういうことなの?」
ワニさんが聞いてくる。ああ、さっきの話か。
「紫色の石っていうのは、あのお姫様の瞳のことなんだよ」
「ふうん。目には目を歯には歯をってやつ?」
「多分ね。結婚したら、王位が貰えるとでも思ったのかねあいつ…」
だから、懐柔できなかった。
いくら惚れさせてると言ったって、いやだからこそ、彼女が持つ今までの知識、権威、そしてとても誇りに思っているだろう目をなんの苦労もなく欲しいなんて言ったら、間違いなく顰蹙を買うだろう。
無知は罪じゃないが、無知であることを自覚せず、むしろ逆にそのことを自信に持ち、行動するようなことがあれば、それは間違いなく罪だ。
ああ、本当に……。
まぁここまでやる意味は全くないと思うけど。とはいえ感情が理由であれば納得はする。共感はできないがね。
吴人とその取り巻き達がいっしょにこの部屋に入ってくる。ああ、吴人以外も来たのか。合流を待っていたから時間がかかったのか?吴人を先に行かせて僕にそれを追わせ、それから追って合流。僕がワープを使っていなければ挟み撃ちも狙えるか。僕が籠城戦に弱いと踏んで戦略を立てていたのかもしれない。
まぁ、僕だけを見るなら悪くない手かもな。
そして入ってきた吴人の取り巻きの目がお姫様によってえぐられる。
吴人だけそのままこの部屋に残される。
僕の手助けなんて本当はいらなかったのかもしれない。
「な…どうしてそんなことを…」
吴人は震えている。
異世界人の目がえぐられたってだけで、なんでそんなに怖がるのか……僕には全く理解できない。
長く接していたから愛着が湧いているってことだろうか。
それとも、自分が同じ目にあうかもしれないと震えているのか?
魔族である吴人は異世界人であるお姫様からは傷がつけられないが……。
まさか、そんなことにも気づいていないのだろうか。
いや、さすがにそこまで馬鹿じゃないか。
僕はどうも他人を下に見ているところがある。悪い癖だ。
そんなことを考えながら、吴人の方へ改めて向き直る。
「あれ?」
吴人が動かない。
「女王様、そいつショック死してないっすか」
「へ?」
お姫様がほうけた顔をしている。
珍しく隙が感じられる表情だ。
「本当だ…」




