65日目①
この国に帰ってから、1週間以上たった。
ちなみにこの世界の1週間は11日らしい。
訳が分からないよ。
その間とくに進展もなかったので、日記はおやすみしていた。
僕が何をやっていたのかと言えば、小屋においてあった本を読みかえしたり、魔石を売ってその金で本を買ったりした。
もちろんドラゴンに許可はとったのでセーフだ。
あ、あと風の魔道士が光の聖女と元の世界からのお友達だったことも、調査の結果分かった。
中学時代の友達かぁ。会いたいなぁ。
……。
『革命?が起こってるらしい』
お人形さんがそう言ってきた。
「思ったより早いね…」
行くか……。
▫
「はぁ」
お屋敷の周りに人が押し寄せてこようとしていた。
「ウィンド!」
お姫様に、彼らを殲滅しないでと言われたので、軽くふっとばすに留める。
殲滅しないと人の把握がしにくい。こっそり侵入する輩がいないとも限らないし、お屋敷の前に移動した方がいいか……?
「僕羽生やせるよ」
ちょうど良いタイミングでワニさんが声をあげた。
「…まじで?じゃあ頼むよ」
羽の生えた小さいワニにお人形さんと捕まって、ひとっ飛びする。世界3位のパワーで重さは余裕だが、結構シュールだ。
……小さくなってもスペック下がらないんだなぁ。何気にこれすごくないか?
「はぁ、やばいなこれ…」
集団を吹っ飛ばしていった。
倒れた集団はお人形さんにお姫様のもとに送ってもらった。状況を見やすくするためというのもあるが、最初からそういう約束なので。
殲滅だったらもっと早いがまぁ仕方ない。
よく目を凝らすと、クラスメイト……確かにいるな。
異世界人達を周りに侍らして1人立っていた。
ハーレム?いや、でも異世界人は人間じゃない…って言うと語弊があるが、人間じゃないしなぁ。
「芥川?」
「そうだけど」
お屋敷の前に立つと、集団が割れて、そのクラスメイトが近づいてきた。
「くそ…あいつ、客は協力させないって言ったのに」
「……。まぁ自分は客じゃなくて、正式に取引した契約者だからね。泊まった部屋も別の場所だったろ?」
客……。じゃあ城に残ったクラスメイト達は駆り出されないのか。
「そして君…なんで異世界人を周りに侍らしてるんだい?」
腕を組んだり、くっついたり。5人いた。
…僕はハーレム物は3人以上ヒロインがいると、名前が覚えられなくて苦手なんだ。関係ないけど。
「ふ…いいだろう。異世界チートの、この魅力の力で惚れさせ放題だ!お前と違ってな!」
絵に書いたような勢いで調子に乗っていた。……。いろいろと恥ずかしくないのか?そういえば恥という概念にここまで執着するのは日本人くらいなんだっけ?よく知らないけど。って関係ないか。
「異世界人惚れさせて楽しいの?よく分からない感情だな」
それでいくとお姫様も懐柔できそうだが。
……本当に惚れさせるだけってことか。それにどんな意味があるんだ?
猫にモテモテの猫好きみたいな?
うぅむ。
「羨ましいだろ?」
ニヤリと笑った。
僕がおかしいのだろうか。
……そこまで考えてある考えに辿りつく。
「…君、まさか異世界人を元の世界の人間と同一存在だと思ってんの?」
「何を言ってるんだ?」
分かっていないらしい。
まぁでも性行為をしてはいないらしいことが分かったので、紳士的とは言えるのかもしれない。
「はぁ…。あのさぁ、…まず、この世界に来てから1度でも墓を見た事はあった?」
「無いな。それがどうかしたか?」
目の前に立っている男は何も分かってなさそうな顔で、しかし流石に訝しく思ったのか僕にそう聞いた。
ちなみに、異世界人は死体が消える。これでこの男が異世界人がなんたるかを知らないということが分かった。
「あとさ、人間…この場合は元の世界の人間だけど…が、遺伝的理由も無しに国を変えるだけで男女比が一気に逆転なんてあるわけないだろ」
隣国で生まれた夫婦がこの国に来たら、生まれてくる子供はほぼ男だ。
よく考えれば当たり前のことだ。いくら仲が悪かろうが、鎖国しているわけでもないのに、男女比がかたよっている状態で人が移動しないわけが無い。それでも男女比が変わらないってことは他に要因がある。それが土地そのものである、ということだ。
法律が作られるほど、その状況は当たり前なのである。
遺伝的なものでなく、場所で生まれてくる性別が変わるのだ。
……なんか紫陽花の色みたいだな。
「男女比?」
「おいおいまじか…。…性器…って言うとちょっと下品だけどさ、確認してないな?さては。異世界人って性器ないんだってさ。まぁ自分も本で見ただけだけど
「じゃあそうやって繁殖するのかって話だけど…、卵生?少なくとも胎生ではないね。とにかく2人の魔力を混ぜて生みだすらしいぜ。ファンタジー
「つまり…体格差は性差じゃないってことさ。君、もしかして周りにいる人全員女性だと思ってた?…5分の2女性か。結構見る目あるんじゃない?」
じーっと眺めて確認する。
「……」
「あのさ、元の世界と同じだったらそもそも真っ先にハーバーボッシュ法広めてるよね?……まだ1年生だから習ってないか。じゃあそうだな、なんで君は異世界で呼吸ができてるんだと思う?」
まぁ僕は多分呼吸できてないけど。
「魔石だよ魔石!魔物にあるやつだ、分かるだろ?ちなみに君の心臓上部に魔石がある…あの白いおじいさんにやられたな?あのおじいさんも魔王を滅ぼすためとか言って結局魔王を作りだすつもりだってことなんだろ。まぁ…おひ、女王様が嘘をついていた可能性もあるけど」
まぁ僕には多分魔石ないけど。
……あのじじいさぁ。
「とにかくそういうことだ」




