11日目
今日は家で働いてもらっているおじさんの妻が訪ねて来た。
彼女が来たことにより、小屋の開かずの扉が開き、その中には書庫があった。
僕は夜になるまでそこに籠っていた。
風の魔道士の日記らしいものがあったり、いろいろ面白い場所だ。
機関車なんかも風の魔道士がこの世界で実現できそうな形でアイデアを伝えたらしい。そして木の賢者がその豊富な知識量を使って実現させたと。
それと、妻を経由して売られたぬいぐるみの売れゆきが相当いいらしく、おじさんの借金もしばらくすれば返済できそうだとか。
少し有能すぎたかもしれないな。
「しかし、ぬいぐるみの名前はドラゴン伯爵ですか…また奇妙な名前を…」
「ええ、こういうものは制作を最初に依頼した人間の名称をくむものです」
最初か……。
なんだかアイデアを盗んだみたいで微妙な気分だが、まぁ特許を取ってるわけでもなく、僕自身がそのアイデアを直接売ったわけじゃないんだ。セーフだということにしておこう。
「…」
扉の前に子供が2人いるな。
「あの子供達は知り合いですか?」
そう聞くと、女の人は扉を開けた。
「…!駄目だよ、着いて来たら」
着いてきたわけじゃなく、GPSみたいなものを使ってここまで辿り着いたんだと思う。タイムラグがあるからね。
そこまで慌ててるということだろうか。
で結局、
「誰なんです?」
「私達の子供ですね」
「へえ」
よく見てみる。
双子だ。見た目が全くいっしょの子供達が不安そうにこちらを見ている。
よく見ると男女の双子であることに気づく。
まぁ元の世界じゃ、そっくりな男女の双子なんてほぼ存在しないが、異世界人だからな……。
「あれ、1人は女の子なのに髪が長くありませんね」
この国では、そこに住まう人間である限り、女性は全員髪をのばさなくてはいけないという法律があったはずだ。逆に男性が髪をのばしたら罰せられるらしいけど。
奇妙な法律だが、女王が住む御屋敷の図書館に置いてあった本に書いてあったから、間違いはないだろう。
この国は何故か女性が少ないということもあり、僕がもといた世界とは事情がかなり違うのだろうし。
ああでも、そういえば西洋の中世では異性装が禁止だったんだっけ?だとすると同じことをしているのかもしれない。
……この話は保留にしておこう。
「産まれた時に髪がなくて…やっとここまで髪が生えてきたんですよ。…ああ、国に申請してあるので、大丈夫ですよ」
と、証明書を見せてくる。子供ならそういうこともあるか。
しかし思ったより緩い決まりであるらしい。カツラなりなんなり代替の方法はいくらでもありそうだったから。
もちろんいいことだけど。
「なるほどなぁ。それでこの双子はなんでここに?」
「お父さんに会いたかった」
「隣町のお祭り行くって約束した」
「なるほど」
隣町のお祭りか。
部屋の本を信じるなら、暦で言うと……。ええと、
「今日と明日じゃないか!」
「そうだよ」
「行きたいんだけど」
……しかし、おじさんは家に縛りつけるタイプの契約をしているので外に出れない。
「そうだなぁ。あ、お人形さんってさ、こう…遠くの映像を見せることってできる?」
『余裕だな』
「よし、決まり!自分が君たちについていくからね、映像の父親をお人形さんが見せてくれるよ
」
「僕も!僕も行きたい!」
ワニさんが手をあげながらぴょんぴょんはねている。人懐っこくて可愛いなぁ。
「いいよ。あ、お姉さんも来ます?」
女の人に聞く。
「はい、心配なので…」
今日は夜も遅いので、明日朝早く起きて行くことにした。
当然みんなも泊めるわけだが、1つ問題があった。
この小屋にはベッドが2つしかないのだ。
今までは、お人形さんは寝ないし、ワニさんは手乗りサイズになって僕のベッドでやっていた。寝返りを打つ時に潰しそうだが、ワニさんもそんなにヤワじゃないので大丈夫だ。1回僕の下敷きになっていたのを見たが、ぐっすり眠っていた。
そして、おじさんにもうひとつのベッドを渡していた。
そうだなぁ。
おそらく僕は異世界転移特典で、床で寝ても起きた時に体が痛くなることはないだろうから、使わなくてもいいだろうけど……寝なくていいんじゃないかって?
嫌だよ。
問題なのはベッド2つはどちらも1人用ってところだ。
「どうする?」
結局おじさんと女の人でひとつ、双子でひとつになった。狭そう……。
「じゃ、おやすみ」
そういうことで僕は床で寝ることにした。
おやすみなさい




