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10日目

「ぬいぐるみ、できましたよ」


「へえ!完璧ですね」


「…これ、量産して売ってもいいですか?」


「いいっすよ。掃除と料理もやってくれるなら。あ、金貸しましょうか?」


 

 ▫



 さぁ、今日は何をしようか。


「ぼくのこと忘れてない?」


 ワニさんは下から僕の顔を覗き込んできた。


「…忘れてない忘れてない。行きたいところある?」


「アールくんが昨日行ったところ!」


 僕のことアールくんって呼ぶのか。なんか可愛いな。

 昨日……。


「まぁいいか。じゃあ行こう。じゃ、留守番お願いしますねー」


 おじさんに留守番を頼む。

 契約書でそのあたりは詳細に設定されているので、金を持ち逃げする、なんかはできないはずだ。信用してないわけではないけどね。


「ここがドラゴンクッキー買ったとこでー、ここがパン屋、で、ここがあのおじさんと契約した場所ってわけ。…終了」


「中入りたい」


「…まぁいいか。ごめんくださいー」


「こ、こんにちは」


 昨日の女の人が挨拶をしてくる。

 そういえば女の人は街でもあまり見ない。何か理由があるのだろうか。


「あれ、この人おじさんの配偶者だね」


 赤いワニが言う。……今は少年の見た目だけど。

 配偶者。妻。ドレイ商人の彼女が、借金の返済のため、自身の商会で夫を商品として並べた。気持ちは分かる。その方が確実だ。どうやら僕は彼女に認められたらしい。

 ……。正直なことを言おう、知っていた。

 風魔法で何となく分かるのだ。風が騒ぎ立てている。

 この世界の人間は結婚して子供ができると、詳細は分かってないらしいが、なんらかのつながりができるらしい。本に書いてあった。多分そのつながりを風は察知しているのだ。

 つまるところあのおじさんは子供もいるわけだ。

 正直他人の家庭とか塵ほども興味はないが……。


「…その通りだ。よく分かったね。そして木の賢者の小屋の開かずの小屋の鍵を持っている。そうだろ?」


 とりあえず赤いワニを褒めておく。

 ああ、だんだん風魔法の使い方が分かってきた。

 なんとなく正解が分かる。

 肌に爽やかな風が当たる。どうやら今の僕の行動は正しいようだ。


 女の人は困惑した表情をしている。


「鍵…?」


「いいよ、ああ、木の賢者の小屋に行って見る気はないかい?…配偶者にも、会えるよ?」


 じーっと見つめてみる。沈黙がおりる。


「ね、つまんないつまんない!ぼくはもっと楽しいことしたい!」


 赤いワニがぴょんぴょんはねている。

 動作がいちいち可愛い。


「ううむ、…そうだ!地図あげるから良かったら訪ねに来てよ!ロプトー!地図!ありがと!あ、自分が家にいる時にね!あぁ、契約書に文言追加しないと…」


 共謀されたらたまったもんじゃないからなぁ。


「そうだ、ワニさん…名前発音できないんだよ、ごめんよ。それで、冒険者ギルドに行ってみないかい?」


 というか、僕が紹介できるところがもうそれくらいしかないってだけなんだけど……。


「冒険者ギルド!?聞いたことない名前!行く!行きたいです!!」


 目をキラキラさせながらくるくる回っている。



 ▫



「登録?面白そう!」


 冒険者ギルドの受付で話を聞いている。

 受付という名称で大丈夫そうだ。

 今回は前と違い、少年だ。


「ええと、冒険者ギルドに登録したいのでしたら、名前をどうぞ…。種族は見た感じ魔族ですかね?この辺りではなかなか見ないですねー…珍しい」


「名前はね!レイカジャハhdーーエjだよ!」


「…なんて?」


 駄目そう。


「偽名でもいいんですよね?」


「…まー、はい」


「じゃあ、ペンテウスで」


「はいはい、ペンテウス…」


 書き込んでいる。


「ペンテウス?なにそれ」


「…フィーリングだよ、フィーリング。かっこいいだろ?」


「うん!」


 お気に召したようで何よりだ。


 青いローブが目に入る。

 ミドルムガンドだ。


「そんな子供が冒険者…?」


「ぼくね!もうすぐ30になるんだ!人間で見れば十分大人なんだろ?」


 30。ということは僕よりも年上か。

 まぁワニは150年以上生きるやらなんやら言われるし、ありえない話でもないのかもしれない。

 異世界のワニだから寿命が長い可能性もあ……いや、やっぱそれはないかな。


「ふうん…そんなもんか…」


 フードで顔が隠れていて表情がよく見えない。

 そうして、僕は、やっとここで、このミドルムガンドというやつの年齢も種族も性別も分からないことに気がついた。

 いや、性別は別にどうでもいいか。異世界人の性別なんて知ったところでな。


 今までは、本の知識もあって一目で分かったのに、こいつはさっぱり分からない。

 しかもその分からないことをいまここでやっと気付いたのだ。


 ……あの青いローブだ。

 青いローブという情報で全てが消される。


 少し悩ましい問題に直面はしたが、早急に対処すべきものでもない。なので帰ることにした。


「また、冒険でもしようね」


 僕がそう言うと、ワニさんは大きく頷いた。


 家に帰ると夕食があり、久々に食べたが、やっぱり味がしなかった。


 歯ブラシもあることに驚いたが、そういえば街で石鹸も売られてたしそんなもんか、という気もした。


 その後とくに問題なし。


 おやすみ


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