チャラ男子に「寒いよねー」って言ったら「じゃあ手繋ぐー?」って言われて頭の中がショートした件
よし、今日は絶好調。早く来れた。
人気が無いに朝の冷え冷えとした空気がの廊下を歩く。
絶対、一番乗りだ。無人な教室に入ってやる。
そう意気込んで階段を一段とばしで駆け上がっていると、足音が聞こえた。
え。誰か来てるの?
先輩? クラスメート?
振り返る隙も無く声がかけられた。
「よぉ、咲那。おはよー!」
底抜けに馬鹿みたいに大きくて明るい声は……。
「え、相川? び、びっくりした……」
「なんでそんなびっくりするんだよ」
完全に私以外のクラスメートはいないと思っていたから。
しかも、相川なんて予想外すぎる。
相川っていっつも遅刻ギリギリで来てるはずだよね?
チャラい、うるさい、変な奴。
初めて相川に会った時にそう思った。
だけど……なぜか。
相川の距離感のバグさに呑まれて、よく話すようになって。
「ん? 顔が死んでるよ? 何考えてんの?」
「え?!」
ビクッとした。
ほんと、この人距離感バグってる。
なんで私が考え事してることわかんのかな?
で、なんで人の顔を覗き込んでくるのかな……?
いろんな意味で死ぬんだけど。
「何考えてたの?」
しつこく聞いてくるとことか。
「俺のことウザいなーとか?」
「それは違う!」
「じゃあ何?」
「それは、言えないかなー」
なかなかいい線ついてくるとことか。
……まあ、ウザいの正正正反対なんだけどね。
「へーそうなんだ」
それ以上は追求せずにいてくれるとことか。
さっきまではしつこく聞いてきたのに、あれ? って思うけど。
相川ってこういう奴なんだな、って慣れてる自分がいる。
二人で歩幅合わせて階段を登ってる。
こう考えると、ちょっとドキドキしてくるな……。
「寒くね?」
急に相川が話を変えた。
これもいつもどおりだねって思う自分がいるんだけど。
「うん、寒いよねー」
実際、私は人一倍寒がり。
ポケットにはカイロを忍ばせて授業中手を暖めている人だから。
体育の時間もジャージのポケットに移動させているし。
だから、朝の寒さも結構くる。
なんて寒さに震えてたら相川がいつもの調子で、
「じゃあ手繋ぐー?」
「……っ!?」
って言ってきたから一瞬頭の中がショートした。
「え、え、え、なんて言ったの?」
今の聞き間違いじゃないよね?
ほ、本当にああ言ったの!?
……顔が、火照ってきてる。
「だから、手繋ぐー? って」
サラッといつもの顔で、そんなこと言われたら。
「……マジで言ってんの!?」
「え、嫌だった?」
ど直球に来ないでくれないかな!?
ちょ、ちょっと待って……頭が、追いつかないんだけど。
うわーこいつ距離感バグってる。ほんとチャラいだろ。
だけど、心の中でドキドキが止まらない。
ここで、頷くのってアリだと思う?
正直、こういうのを妄想してたりしてた自分がいたから……っ。
「ま、マジで繋いでみる?」
不自然に思われないように。キモいって思われませんように!
そう声を絞り出したら、相川が相変わらず飄々としていつもの調子で、
「いいよ?」
なんて言ってきたから、また思考がフラッシュした。
まさか軽くそう言われるとは思わず半ばボーッとしてたら「え、繋がないの?」とか言ってきて。
「つ、繋ぎたいけど!? 本気で本当に言ってるの!? そ、そういうの軽く言えちゃう人!?」
パニックのあまりなんか早口になってしまった。
それに、本当に嬉しいんだけど……相川はこの通りチャラいから。
真剣に受け止めていいか迷っちゃう。
「……え、俺そう思われてんの!? どう思われてんの?」
「……え」
急に真顔で相川に迫られたからいろんな意味でドキッとした。
「あ、あのチャラいって……女子とよく喋ってるし、他の人にも言ってんのかなーって……」
相川は、クラスでも距離感がバグっててあんまり口数が少ない女の子にも気軽に話しかけてたからやっぱそういうの軽く言っちゃう人なのかな……。
いっつも他の子と初対面でも仲良く出来る人だから眩しい反面嫉妬してしまうこともある……。
「へーそう思われてんだー」
いつもと変わらない軽い調子で相川が言う。
こういうとこ、ほんと掴めない。
「少なくとも俺は手繋ぐ? なんて咲那で初めてなんだけどなー。チャラいって思われてんだ、へー。じゃあ、付き合う?」
「……っ、はああああああ!?」
え、え、え、え、ちょ、ちょっと待て。
チカチカと視界が白黒してる。ヤバい、頭の中終わったかも。
あ、あのなんて言ったんですか!? 今、何と……!?
「相変わらずうっせなー。だから付き合う?」
呆れたように眩しい笑顔を浮かべて言うなってば。
そんな風にされたら、私が。
「……い、いいけど」
好きって再自覚しちゃうから。
「……可愛くねー」
「……ひど」
いつもどおりの会話。
全然会話が変わってない。
だけど、顔がすごく発熱してる。
「んじゃー俺たちこれからカレカノってことかな?」
「……う、うん。そういうことに、なるよね」
しどろもどろで返事を返すとぷっと相川は吹き出して、
「もう教室だからなー帰り手繋ぐか?」
気づけば階段を登り終え目の前には教室が。
相川の言葉に振り回されぱなしで、全然気づかなかったよ……。
サラッとハズいことを言ってくる相川。
ほんと、距離感バグってる。馬鹿野郎。
「……うん」
本当は本当は信じられないほど嬉しいんだけど。
口から出たのは素っ気ない言葉で。
「嬉しくないの?」
って相川に言われてしまった。
いつものチャラそうな感じは消えてなんか怪訝そうな、不安そうな目で見つめてくる。
もう、目の前に扉があるのに先に相川が立ち止まったから私も立ち止まる羽目になってしまった。
……気まずっ。それと掴みどころがないというか。
「……っ」
「……?」
無言で交わし合うアイコンタクト。
先程のせいでまだ調子がおかしいままだから、私はもう一度確認することにした。
「……聞きたいんだけどさ……本当に?」
「何が?」
「……え、それ言わせる気……?」
口にするのも難しっていうのに。恥ずかしいっていうのに。
乙女心を分かってくれ……!
「あ、付き合うってこと? 本気だけど? 咲那が好きだから言ったんだけどな」
「……え、え、マジで!?」
「……何回言わせる気なんだよ」
い、今の聞いてた!?
って、誰に言ってんだろ、私!
信じられなすぎてテンションがおかしいことになってるんだけど。
……あの、本気で……!?
いつもとは違う真剣な目をだから、私が何か言わなきゃいけないような気がして。
「……わ、私も相川のこと好きです!」
……今まで言えずにいたことを言うことになってた。
言っちゃった。
「はは、俺ら幸せもんじゃん」
こっちは凄いことを成し遂げて心臓が死んでるのに、相川がいきなり笑いだしたから拍子抜けした。
ほんと、この人なんなん。
「両思いとかすげえ! じゃあよろしく!」
「……ええ……!?」
今ひとつ、私に起こった幸運に理解が追いつかないうちに、相川が扉を思いきり開けたから、余計に追いつかなくなった。
ほんと、この人掴めないしチャラいし。
呆れること多いし、意味わからないし。
でも。
そういうとこがいいなって思うんだよね。
……これって付き合ったってことでいいのかな?
相川があんな調子だとこっちが頭痛くなるんだけど……!?
というわけで朝イチに私達はカレカノ? になったらしい。
バレンタイン短編が書けなかったため、少し前書いたこの小説を投稿しました〜。
これで、ハッピーバレンタインならぬ、アオハル感を味わって下さい!
こういうシチュエーションいいな(*´ω`*)
実際、距離感バグってる人はいるにしても(;´Д`)
お読みいただきありがとうございました!




