逃げ切れない聖女 1
困惑、緊張、過大評価が重い。
それが私の正直な感想だ。
ティグルさんは、シグルスさんと、ベール隊長を連れて改めて挨拶をしに来るといって去って行った。
黄色と黒で縞になった長い尻尾をどこか機嫌よさそうに振りながら。
「リセル?」
振り返ると、シャワーを浴びてきた湯気が立つガリアス様が、タオルでゴシゴシ首元を拭きながらこちらを見ていた。
「ガリアス様……。まだ濡れていますよ」
「うーん。十分水を切ってきたつもりだが」
プルプルと大型犬のように体を震わせたガリアス様を想像して、思わず笑顔になる。
「乾かしてあげます」
「……えっ」
「……? 何か不都合でも」
温風が出る魔道具は、高価だけれどガリアス様には必需品らしい。
まだ、ズボンしかはいていないガリアス様の背中をワシワシと乾かしていく。
「あのだな……」
「どうしましたぁ? 魔道具の音が大きくて聞こえないんです!」
「……上半身裸なのだが、恥じらっているのは、俺だけというのがなんとも」
モニョモニョと呟く声は、魔道具の音に掻き消されてしまった。
しばらく真剣に乾かしているうちに、上半身の毛はふんわりと柔らかく乾いた。
「えっと、他の部分は」
「……そうだな」
いつも以上にフカフカしたガリアス様に抱き上げられる。
石けんのよい香りと、フカフカの毛並みに顔を埋める。涙で濡れているより、ずっとこの方がいい。
でも、そんな風に余裕でいられたのも、そこまでだった。
なぜかベッドにほんの少し乱暴に下ろされて、耳のすぐ横にガリアス様が手をつく。
至近距離で私を見つめる空色の瞳は、獰猛な熊みたいだ。
「……少し勘違いをしているようだが、服を脱いだ姿は俺にとって裸でな?」
「……そんな当たり前のこと、なぜ今さら」
そう、ガリアス様はいつもきちんと服を着ている。だから、もちろん服を脱いだ姿は、裸に違いない。
髪の毛を撫でられて、くすぐったさに目をつぶると、唇にフンワリとした感触を感じる。
「…………」
「そうだな。これ以上を君が今望むというなら、他の部分も頼もうか」
「っ!?」
離れていった感触は、なぜこんなになごり惜しいのだろう。
もの欲しそうな顔をしていただろうか、ため息をついたガリアス様が、もう一度口づけしてくる。
「リセル、君を大事にしたいから、あまり煽ってくれるな」
それだけ言って、ガリアス様は私に背を向け、部屋を出て行ってしまった。
「き、キス……された!?」
ガリアス様の言っていたことの意味に気づくよりも、キスされた衝撃に呆然としてしまった私を残して。
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