ある完璧ではない聖女の物語 4
からかってきたくせに、ガリアス様はあの後から目を合わせてくれなくなった。
明らかに、照れてしまったのだろう。
でも、びしょ濡れなのは事実だ。今はシャワーを浴びている。
(本当に可愛い人……)
でも、聖女リセルがやり直して、今の私がいることは伝えられたけれど、その間にある世界については話すことが出来ていない。
「聖女リセルは、完璧な聖女などではなかった」
二つの記憶を取り戻した直後は、ここではない世界の記憶が優位で、完璧に見えたけれど……。
「それとそうよね。私がそんなに立派なはずもない」
「何がですか」
「……うわっ!? ……驚かせないで下さいよ、ティグルさん」
我に返ると、私の隣には少々困惑したティグルさんがいた。
「申し訳ありません。何度も声をお掛けしたのですが……」
「そうでしたか。ボンヤリしてました」
「……ご報告が」
「何ですか?」
「ベールと、シグルスは、俺の直属部下になりました」
ベール隊長は、分かるけれど、シグルスという人に思い当たりがなく首をかしげた私に、小さな紙に包まれた何かが差し出される。
赤と白のストライプの可愛らしい包みを受け取って、そっと開けば中からはキャラメルが出てきた。
「キャラメルの人」
「シグルスは、それをお渡しすれば分かっていただけるはずと。あとベールからはこちらを」
もう一つ差し出されたのは、銀の紙に包まれたチョコレートだった。
「……第十八小隊は、私を殺したとしてもきっと見捨てられたでしょうが、キャラメルの人は、フィンティア王国の正式な騎士。裏切者として手配されます……」
それは、シグルスさんが王国において裏切り者になることだけを意味するのではない。
「直属部下に……。ガリアス様は」
「もちろん、ガリアス様の指示です」
「……王国から離反するのですか」
「既にベールに指示をしたのは、王国側だと情報を得ております。そして、証拠も。ガリアス様が治めるレントン辺境伯領は、王国の傘下といっても富、武力ともに劣ることはありません。ましてや、真の聖女はこちら側に」
「しんのせいじょ」
魂が抜けたように、その単語を口にしてしまった。それ、もちろん私のことですよね?
え? 逃げ腰、音痴、かなり残念なスイーツ大好き聖女を『真』っていってしまうのはどうかと……。
「はぁ。すでに、処理が追いつかないほど、続々と人が集まってきています」
「ふぇ!? なぜそんなことに」
「人々を救いすぎた、真の聖女様のせいでしょうね?」
リセルは完璧なる聖女などではない。
そう思っていたけれど。
「やっぱり、以前の聖女リセルは、私と同一人物なんかじゃない!!」
かくして、私の怯えと困惑なんて考慮に入れずに運命の大河は流れていく。
大きな出来事を変えることなんて出来ないのだと、私のことをあざ笑うみたいに。
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