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ある完璧ではない聖女の物語 1


 何から話せばいいのだろう。

 覚悟を決めても、私の頭の中は二人分の膨大な記憶の中で混乱していた。

 そもそも、聖女リセルとしての記憶は、あまりに波乱に満ちている。


 ゲームの世界で見ていたリセルと、記憶の中にあるリセルはあまりに違う。


「……先に、ガリアス様が好きだと言ってくれた、完璧ではない方の聖女の話を聞いてもらえますか」

「君の話すことなら、何でも」

「ありがとうございます」


 語り始めるのは、私の記憶であり、既に遠く昔の記憶のようだ。


「……平民の、それもどちらかといえば貧しい家に生まれました」


 それは、まるでリセルが私に語っているようにも感じる、悲しく波乱に満ちた物語だった。


 * * *


 私、リセルが生まれたのは、ごく普通の家だった。

 私の周りでは、不思議な出来事が多く起こった。


 嵐が来ることを正確に言い当て、豊作と飢饉も予想する。

 幼い少女の言うことだ、けれどその勘はあまりによく当たるので、いつの間にか家はずいぶんと裕福になった。


 あとになって思えば、それは精霊に与えられた聖女の力の一つだったのだろう。

 けれど、田舎の小さな村のことだ、誰もそのことには気がつくことがなかった。


「村では、幼い頃に婚約者を決めるのが習わしで、私にも婚約者がいました。とはいっても、子ども同士、よく一緒に家族ぐるみで遊ぶ友達という感覚でしたが」

「そうか……」


 ガリアス様は、私の話の途中、ただ相づちを打ち、質問をすることはなかった。

 ポツリ、ポツリと話は続く。

 その度に、その思いでは確かにあったこととして、私の中で定着していくようだった。


「……十三歳の春のことです。その日、一面に花が咲き乱れ、急に訪れた春に村は浮かれていました。そこに、騎士たちが現れたのです」


 魔獣との戦いは、激化の一途をたどり、私たちの村の周囲でも目撃情報が相次いでいた。

 聖女の不在。それが原因だという噂は、小さな村にまで届いていた。


「……騎士たちと一緒にいた、私と同じくらいの虎耳の従者。彼は、けがをしていましたが、ほとんど治療もされずにいました」

「それは……」

「そういえば、ティグルさんによく似ていましたね。彼のほうが年上でしたが」


 その人を見たときに、どうして同じ人なのに扱いが違うのかと不思議に思い、そして怒りを覚えた。


「その時に強い風が吹いたんです」


 そう、それが、弱虫なくせに正義感が強い、ごく普通の少女、リセルを聖女に変えてしまった、運命のいたずら、あるいは精霊の導きの始まりだった。


 

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