辺境伯領はモフモフ天国 3
辺境伯領の中心の街は、長い長い壁で囲まれていた。
この壁は領民を魔獣から守るため、数百年前に何世代にも渡って建造されたものだという。
「この壁のおかげで、魔獣の多い土地でありながら、一般市民の安全を確保することが出来ているんだ」
「そうなのですね……」
前世、歴史書を好んで読んでいた私。
……絶対にそれ、面白いに違いないわ!
ガリアス様のお屋敷に着いたなら、本がないか聞いてみようと密かに決意する。
「ほとんどの領民は、この壁の中に住んでいる」
「違う人もいるのですか?」
ガリアス様の視線の先には、青く連なる山脈が見える。
雪を被ったそれは、とても美しいけれど、実際は強力な魔獣の住処になっているという。
「……魔獣を狩って、生計を立てている者も多いからな」
「冒険者、ということですか?」
「そうだ」
「冒険者……」
魔獣との戦いには、冒険者も多く参加していた。
彼らの多くは、魔獣の素材や懸賞金目当てだったけれど、中には世を救うという高い志を持った人もいた。
「さて、壁を越えれば、もう屋敷はすぐだ。皆、知らせを聞いて君が来るのを待ちわびているに違いない」
「えっ、私のことをですか?」
「そうだ……。リセルは、俺たちにとって……」
その時、壁に備え付けられた門が大きく開かれた。
まるで、歓迎するかのようにファンファーレの音が鳴り響く。
「――――あの」
「ほら。うちの領民は、とてもお祭り好きなんだ」
第十八小隊のメンバーも、家族の手を引いて緊張をにじませると共に華やかな歓迎に嬉しそうに頬を緩めている。
「――――さあ、行こうか」
扉を開けてくれたのは、ティグルさんだった。
先日、必死にダメだというのを振り切ってしまい、もしかして見放されてしまったのかな、と思っていたのでホッとする。
いつもは厳しい金色の瞳も、今日はどこか嬉しそうだ。
「……はい!」
こうして私の新しい生活が幕開ける。
それは、楽しく、急勾配で、それでいて幸せな日々の始まりだ。
門をくぐると、たくさんの人が列を作っていた。
まるで、領民全てが集まってきたのではないかという人数。
けれど、王都では決して見ることが出来ない姿であふれている。
「――――ガリアス様」
「……そうだ。俺がこんな姿だからな。自然と集まってきたというか、部下たちが次々保護してきたというか……」
そう、ガリアス様は、初対面の聖女をかばって竜と戦い始めてしまうくらいお人好しなのだ。
そして、目の前の一際目立つ集団の中には、私の見知った顔がいくつもあるのだった。
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