449●『プリンセスナイン 如月女子高野球部』(1998)①掟破りの面白さ! 高校野球の常識をブッ壊す空前絶後のルールバスター!
449●『プリンセスナイン 如月女子高野球部』(1998)①掟破りの面白さ! 高校野球の常識をブッ壊す空前絶後のルールバスター!
世に“UMA”という概念がございます。
「Unidentified Mysterious Animal」つまり“未確認の謎動物”の略ではありますが、ここでご紹介したいのは「Unidentified Mysterious Animation」と言うべき珍獣ならぬ珍作……と言うと失礼で申し訳無いのですが、ここまで面白い作品はもう、今年の干支ではありませんが「UMA!」と驚愕するしかないわけでして……
『プリンセスナイン 如月女子高野球部』(1998)、全26話。
とにかく面白い!!
関西風には「ナニコレメッチャオモロイ!」と表現したいところです。
どこがどう面白いのか、あまりに面白いので、ネタバレをなるべく避けながら、かいつまんで要約してみましょう。
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一言でまとめれば「掟破りの異端作」。
天動説に地動説をぶつけるような、脳内コペルニクス的転回の仰天アニメです。
そう、まさに「野球界のチ。」なんですよ!
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全く偶然にDVDを観て、面白さに憑りつかれました。
放映は1998年なので、もう30年近く昔の作品です。
悔しくも残念ながら大ヒットした著名作とは言えず、購入可能な関連商品も、ほとんど残されていません。
確かに、時期も悪かったのです。
同じ1998年には、TVで『COWBOY BEBOP』、『彼氏彼女の事情』、『頭文字D』、『南海奇皇ネオランガ』、『ブレンパワード』、『TRIGUN』、『カードキャプターさくら』、『サイレントメビウス』、『万能文化猫娘』、『魔術師オーフェン』……。
それに映画館では『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』『機動戦艦ナデシコ』『機動戦士ガンダム第08MS小隊』と、SF系の話題作が目白押し、迂闊ながらスポコンアニメはノーマークでした。
ただ、誠に有難いことに、2026年3月時点で、全26話がユーチューブで無料公開されているみたいですので、取り急ぎご覧になるのも一興かと思います。
今も根強い支持者がおられるのですね。私もその一人に加わりたいです。
2026WBCは、某配信業者と急いで契約された方にとっては「カネと共に去りぬ」結果となりましたが、そんな、哀しき心の敗北感を猛然と癒してくれるのも、プリナイこと『プリンセスナイン 如月女子高野球部』なのですよ!
それにしても、全26話を観終わったときのロスト感が半端ないのです。
この喪失感のヘビーなことは、私的には『少女革命ウテナ』(1997)の最終ラストシーンで校門を出たアンシーが去り行く後ろ姿を見送ったとき、そして『シムーン』(2006)のラストで、少女たちの肖像画が終わって、最後に空白だけが映し出されたときに匹敵しますね!
燃えに燃えた少女たちの青春が、ふっつりと途切れた瞬間です。
これはたまらん……
この耐えがたい寂寞の理由については、後の章で詳しく。
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●<魅力1> 敢然! 常識の禁忌を踏み倒す“掟破り”の痛快感!
ストーリーは割とシンプル。
名門女子高校“如月女子”を支配する超リッチセレブ、年齢的には30代後半あたりの女性理事長がある日、思い立ちました。
わが校に“女子硬式野球部”を創設し、三年以内に甲子園を目指す!
西暦1998年3月初め、彼女は行動を開始します。
この女性理事長・氷室佳子は若き青春の頃に、天才級のプロ野球投手・早川英彦と交際し、熱い愛情を交わしていました。
しかし彼はある事件がもとで、彼女と別れて球界を去り……
十年前、失意のうちに早逝してしまいました。
しかし早川英彦の忘れ形見、一人娘の早川涼(15歳)が残されていることを知り、亡き父から受け継いだ天与の才を見出したことで、氷室理事長の決心が固まったのです。
本編のヒロイン・早川涼の特技は、中坊ながら超高校級の剛速球。
ただしその球速は作品中で「130キロ台」と発言されていますので、大谷投手の160キロには全然及びませんね。プロ級とは言い難い。ただしリアルに15歳の少女でも実現可能性のある球速と言えるでしょう。
たぶんその代わり、涼はコントロールの天才なのです。打者の意表を突くギリギリストライクをズバッと決められるのでしょう。
第1話の投球からして、てへへと笑顔を振りまくと、わざと度外れボールで打者を油断させ、その心理を読みながら突如豹変してど真ん中に決めるなど、余裕の制御力を披露します。また作中では変化球も自在に操っています。
とはいえ、中学の部活はせずに、もっぱら町内草野球チームのピンチを救う助っ人投手として大活躍していたところ、卒業を目前にしたある日、如月女子高の氷室理事長にスカウトされます。
母・志乃が一人で切り盛りしているおでん屋を手伝うため、高校へ進学しないと決めていた涼でしたが、母の勧めで決心、特待生として如月女子高へ入学します。
授業料が免除される代わりに、新設する女子硬式野球部に籍を置くという条件ですね。
練習は早速、入学式の前の春休みからスタート。
しかし当初の部員は、自分のほかに中学ソフトボール界から事前にスカウトされた二名を加えた、たった三人。そして監督の木戸は元プロ野球選手ではあるものの、どう見てもグダグダの酔っ払いエロおっさん……
“如月女子高野球部”は、主将となるしっかり者の涼自身と、ヘロヘロな木戸監督による部員探しから始まります。
と、“ゼロから始める女子硬式野球部”の物語として、まずまず、ありがちなスタートではありますが……
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じつは本作ならではの“空前絶後”な魅力が、「JK+硬式野球部+甲子園」という設定そのものに隠されていたのですね。
つまり、この作品……
女の子オンリーの野球部が、男の子オンリーの高校野球界に殴り込みをかけて、海千山千の強豪男子チームを相手に、それなりに苦心苦労しながらも打倒し蹴散らして、甲子園の狭き門をこじ開けて突入しようという“無双冒険野球物語”なのです。
なんで“冒険”かと言うと、高校野球の「ありえねーをありえーるにする」“不可能可能化物語”だからですね。
高校野球界に天高き霊峰とばかりに聳える、女人禁制の高野山ならぬ高野連、じゃなくて本編では高校野球協会すなわち“高野協”なのですが、その協会規約を「無理を通せば道理も引っ込む」とばかりに力技で改定に追い込み、球界の偉い人たちに「女子チームの参加を認めさせる」という強引果敢なシークエンスが組み込まれているのです。
第10話でようやく九人のメンバーが顔を揃えます。
そして第11話、チーム成立の報告を受けた如月女子高の氷室理事長は高校野球協会へ乗り込んで、協会規約の改定交渉を開始。
「女子チームの参加登録を認めなさい」と。
高野協にとっては“地動説のチ。”そのもの。非常識極まる横車でしたが、カネもコネもマスコミも続々と味方につけて政治力を発揮、手段を選ばずに強行突破する氷室理事長。
そして取り付けた条件は「甲子園常連の強豪校男子チームと対戦し、勝利すること」でした。
にしても、これは凄い発想。
女子オンリーのチームで、男子オンリーのチームを打ち負かす。
それも真剣勝負で。
これ、漫画史やアニメ史を彩るスポコン野球作品をざっと通覧すると、他の作品に類を見ない特徴であることがわかりますね。
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現実世界の日本では、女子オンリーの野球チームの歴史は意外と古く、戦後間もない時期に、素人興行ながらプロ野球の一形態として実現していました。
太平洋戦争が終わり、男女平等の思想が政治的にも法的にも公認され、敗戦国の焼け跡に民主主義の新風が吹き始めた昭和22年、西暦では1947年に横浜で“女子プロ野球”が誕生します。マスコミに注目されて三年後の1950年にはチーム数が30近くに膨れ上がり、明るく健康的な娯楽を求める大衆に大受けとなりました。
しかしこれは、容姿端麗な妙齢の乙女たちをかき集めて、その可愛い演技で男性客の目を楽しませる“野球興行ショー”の性格が付きまといました。いわば“アイドル美少女運動会の一種”に過ぎず、せいぜい“野球もできる宴会コンパニオン”ともいうべき実態、アスリートの逞しさや強靭な精神性からはほど遠かったようです。
やがて大衆に飽きられて社会的な認知が薄まり、女子野球のブームは1970年代にかけて自然消滅してゆきます。
そして、本格的に硬式野球を志す高校女子に活躍の場を開くべく西暦1998年に発足したのが、“全国高等学校女子硬式野球連盟”。
奇しくも、『プリンセスナイン 如月女子高野球部』の放映と同じ年でした。
以降、現実世界の女子硬式野球部は全国的に増えつつあり、2026年頃の現在、加盟校は60を数え、全国高等学校女子硬式野球連盟が主催する選抜大会、選手権大会、ユース大会の3大大会が毎年開催されています。
なお2009年には日本女子プロ野球機構(JWBL)が創設され、女子プロのリーグ戦も開催されるに至りました。
ということで……
公式には、「高校女子硬式野球部は、高校女子硬式野球部と対戦する」。
戦うのは、女子と女子。
これが、戦後80年に及ぶ現実社会の常識なのですね。
その常識を覆し、決して楽な勝負ではないものの、男子ばかりの公式トーナメント戦に赤い彗星の如く参入し、下剋上の進撃を続けて甲子園へ! ……と、現実世界では絶対に実現不可能なシチュエーションに挑戦したのが本作プリンセスナインなのです。
これって、素直に面白いじゃないですか!
「不可能を可能にする」面白さ。
実写作品ではなにかと無理っぽくてカドが立つ題材でも、「ありえねーをありえーるにする」のがアニメならではの醍醐味なんですから。
『プリンセスナイン 如月女子高野球部』の放映は1998年。
同じ年に“全国高等学校女子硬式野球連盟”が発足。
偶然なんでしょうが、歴史的な一致を感じさせます。
というのは……
それまでの漫画やアニメで女子が硬式野球で活躍するのは、大半が、「男子チームの中の“紅一点”として、天才女子が特別参加する」というケースでした。
アニメ『野球狂の詩』(1977-)で女性初のプロ野球選手として登場する水原勇気嬢が代表列ですね。
そして1998年以降は高校女子の硬式野球大会がオフィシャルに実現し、やがて決勝戦が甲子園球場で開催されることになって、「目指せ甲子園で日本一!」が実現。
となると、漫画やアニメも、この制度に乗っかることになりますね。
架空作品のJK硬式野球部も、女子チーム同士が戦うパターンに定着します。
代表作は『球詠』(2020)でしょう。また『八月のシンデレラナイン』(2019)は本作プリンセスナインの続編と勘違いしてしまいましたが、中身はやはり女子チーム同士が対戦する別物作品です。
特殊な例外は『大正野球娘』(2009)。
これはフィクションながら、日本初の女子野球チームを作るお話ですので、そうなると国内には男子チームしか存在しないので、練習試合の相手は必然的に男子となります。
なにぶん大正時代、「甲子園を目指す」なんて発想は存在せず、とにかく女子でスポーツ同好会を結成するだけでも難事業だったはず。
なので……
21世紀の今は、漫画やアニメのJK硬式野球部は、ことごとく“女子vs女子”の戦い。
それはそれで良いのですが、やはり「偉いオトナたちが決めた社会的な枠組みの範囲内で」自己を鍛え、勝負に挑んでいくという作品群なわけです。
こう言うと身も蓋もありませんが、すべからく「偉いオトナ様が敷いたレールから外れてはマズい」という社会的忖度の産物であるのかもしれません。
しかしそうなると、作品のスタイルは限定されます。
女子野球を描く作品に登場するのは女子選手ばかり。
男子野球を描く作品に登場するのは男子選手ばかり。
それでいいのか?
「そればかりでは面白くない!」……と考えた人達がいて、『プリンセスナイン 如月女子高野球部』が生まれたのでしょうね!
オトナが作り出した“オトナの常識”に逆らい、「男子は男子同士で、女子は女子同士で戦う」という固定観念をドカンと打ち破って、「男子を相手に全く対等に戦う」前提で甲子園の壁に男女平等の風穴を開ける!
それがプリンセスナイン。
だってこれ、文句なしに「面白い」じゃないですか!
本作の最大にして空前絶後の魅力は、「男子野球の世界に女子チームで史上初の参入を果たした」という歴史的偉業にあるのですね。
まさに掟破りの破天荒! この痛快感!
オトナが決めた“伝統”の枠組みに生々堂々とチャレンジする青春乙女たちの熱血冒険譚。
それが『プリンセスナイン 如月女子高野球部』なのです。
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しかし本作は、どうやらヒットのチャンスを逃したようです。
ネットを探っても、作品の情報が非常に少ない。
20世紀アニメ遺跡群からの、貴重な発掘作品と言うべきか。
放映されたチャンネルはNHKのBS2。
地上波だったら、もっと有名になっていたのかな?
それよりも、一般的な高校野球ファンから見て、作品内容があまりにもユニークすぎるほど異端的で、ブッ飛んでいたのが原因かもしれません。
高校生のスポーツはこうあらねばならない、と自ら規定しているお方には、理解を超えた超おバカ番組と受け取られてしまうでしょう。
そうはいっても……
かくも熱血的な『プリンセスナイン 如月女子高野球部』がなぜ当時のアニメファンに熱いヒットを飛ばせなかったのか、これは大きな謎なのです。
その理由の一つとして、「全26話だけど、まるで途中でバッサリと打ち切られたかのように、中途半端すぎる終わり方をしている」ことも挙げられるでしょう。
重大な伏線が三つばかり、観客としてムカっ腹が立つほど未回収のままに、ブツッと終わっているのです。
そのあたり、次章で掘り下げてみましょう。
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繰り返しますが、未見の方は今のうちにユーチューブの無料公開版をぜひぜひご覧になって下さい。
絶対に損はしません。
ジャンジャンジャンジャジャーーン!! と鳴り響く楽音の偉大さよ。
第1話のBGMを聴くだけで、のけぞりますって。
主題歌を含む作曲:天野正道先生、演奏:ポーランド国立ワルシャワ・フィルハーモニックオーケストラ。
OVA『ジャイアントロボ』(1992-98)と同等の音楽環境なのです。
いや、それよりも音楽的演出はスケールアップしてるかも。
オーケストラで盛り上がる女子高校野球!
それだけでも、凄い! と作中のスタンドで棒立ちしている自分を発見します。
ああ、発掘してよかった、巡り逢えてよかったの心境ですよ。
【次章へ続きます】




