447●戦争映画としての『風の谷のナウシカ』⑭まとめ3:ブリッグからの脱出と物語の転換点、ペジテの女たちの“戦争との戦い”。
447●戦争映画としての『風の谷のナウシカ』⑭まとめ3:ブリッグからの脱出と物語の転換点、ペジテの女たちの“戦争との戦い”。
*
●クシャナの深謀遠慮、巨神兵空輸作戦
ペジテ市へ蟲たちを呼び込んで敵を襲わせる“蟲作戦”(仮称)を強行して一発逆転を狙ったペジテ市長でしたが、トルメキア軍司令官のクシャナは一枚上手でした。
蟲の群れが突進してきたことを察知してすぐに、夜空へ飛び立ったのです。
まず、機動力の高いコルベットが飛び立ち、照明弾を落として地表を照らすと、平坦な地形を確認、大型機が滑走できる方向を指示します。
次いで、クシャナが座乗するバカガラス編隊五機が離陸。
バカガラスには各機に戦車一輌と地上装甲兵の一団が乗っています。これはクシャナの親衛護衛兵力であり、翌朝には、風の谷の侵攻作戦に用いられました。
そしてバカガラスには、巨神兵を復活させるための設備装置類である“孵化プラント”(仮称)の機材も積み込まれていました。後述する“大型船”に積みきれなかったからです。
次いで、のろのろと滑走していた大型船一機が離昇します。
これは、胚に入った巨神兵を搭載していました。
翌日に「大型船すらあいつの重さに耐えきれず墜落してしまった」とクシャナが述懐したように、バカガラスでは到底運べない重荷です。
そこで急遽、最大級の大型船をトルメキア辺境派遣軍の前進基地から呼び寄せて、巨神兵を胚ごと積み込んでいたのですね。
ペジテの残党は生き残っているはずだ、彼等はなんとしても巨神兵の奪還作戦を仕掛けてくる。
その前に、いち早く、巨神兵を前進基地へと空輸してしまうのだ。
クシャナの深謀遠慮、素早い行動力です。
ただし、離陸が遅れた大型船には少数の蟲が侵入してしまい、それらを船内で殺してしまったため、大型船には蟲の群れが取りつき、襲来する蟲の群れを引きずったままペジテ上空から離れてゆくことになります。
*
●ラステルは正しく、正しいがゆえに殉教した
この大型船には、鎖につながれた王女ラステルが監禁されていました。
なぜ、大型船に囚われていたのか? 不思議ですね。
普通、捕虜になれば、クシャナの管理下でバカガラスの旗艦に幽閉されているはずですね。
ということは、たぶん、こうでしょう。
センタードームから、父王のペジテ市長たちとともに脱出用のブリッグへ逃げる途中で、彼女は一人離れて、トルメキアの大型船に向かったのです。
そこに巨神兵が積み込まれたことを知っていたのですね。
そして、大型船の船長に懇願した。
「巨神兵は運ばずに、ここで燃やしてください!」と。
巨神兵を復活させれば、それは自力で繁殖し、人類を再び滅ぼすだけだと、彼女は必死で説明したことと思われます。
しかしそこに「蟲の大群が襲ってきたぞ!」となります。
大型船の船長はラステルを監禁、急遽離陸準備に入ったのでしょう。
それにしても、ひとつ、謎が残ります。
ラステルはなぜ、鎖に繋がれて、拷問されたのでしょうか。
墜落した大型船から彼女を救出したナウシカは、ラステルの服の襟を広げた際に、明らかに暴行による傷跡を発見していました。
しかし、ラステルに残虐な苦痛を与えてまで、なにか聞き出さねばならない緊急の情報などは、無かったはず。
たまたま大型船にやってきたので捕らえたものの、スジとしては後に五体満足で司令官のクシャナ殿下に引き渡さなくてはならないはずです。
それなのに、大型船の船長かその部下の尋問官は、ラステルに残虐な暴力をふるいました。
なぜか。
ラステルの主張が、正しかったからです。
「巨神兵は不幸しかもたらさない、だから復活させずに燃やして!」
これ、明らかな正論なのですね。
巨神兵さえ無ければ、戦争する理由はなくなる。
巨神兵のために、ペジテの市民は殺された。
この先、巨神兵を持っていても、世界中から戦争を呼び寄せて、誰もが苦しみ、殺し殺され、不幸になるだけ!
少女の主張は正しい。
だから、周囲のトルメキア軍人は、ラステルを恐れた。
ラステルを前にすると、自分が誤っていて、生き方が間違っていることが、明らかになってしまうのですね。
ラステルの主張を黙って聞いていると、いずれ誰かが「それは正しい」と彼女に感化されて、「巨神兵を燃やそう」と同調するかもしれない。いや、だんだんそうなっていくだろう。
彼女は実際に正しいのだから。
しかし彼女の言説を認めると、自分たちが“悪”であると、自分から自主的に認めることになってしまいます。
私は、巨神兵に魂を売った、残酷な愚か者なのだと。
だからラステルを尋問したトルメキア軍人は、怒りにかられたのでしょう。
極悪人ばかりの犯罪集団の中に一人の聖女が歩み入って、「悪事をやめて悔い改めましょう」と説諭し、正義へ導こうとするようなものです。
聖女が正しいことは、誰だってわかる。
悪人たちだって、彼女が正しいことは、内心では認めるしかない。
しかし、聖女の正しさを認めることは、自分の愚かさを認める事だ。
それは絶対にできない。
悪人であればあるほど、反省など自発的にできないものです。
だから悪事を生業としているわけで。
すると悪人たちは、ヒステリックなサディストに豹変します。聖女をいたぶり、傷つけ犯し、ボロボロにして堕落させる事で、自分たちのニセモノの“正しさ”を実証しようとするのです。
最後は聖女を殺すことでしか、自分たちの正義を主張できなくなる。
火刑に処されたジャンヌ・ダルクがそうですね。
彼女がやったことは正しいと絶対に認められない聖職者たちは、無実の彼女を魔女として断罪した。
アニメ『チ。…地球の運動について…』(2024)もそうですね。
地動説は正しいかもしれない。しかしそれを正しいと認めれば、天動説を信奉する我々の正義は崩れ去り、我々はただの無知なお馬鹿に堕とされてしまう……そんな恐怖が、異端審問官をして拷問と処刑のマニアに変貌させていきます。
ラステルは、そのような被害者の立場に陥ったのではないでしょうか。
正しい、それだけのことで虐待される。
21世紀の現代でも、専制国家で人権を主張しただけで投獄、拷問されたという事例は引きも切らず……ではないでしょうか。
だからラステルは「正しい」という理由だけで虐待され、正義に殉教したということでしょう。
正しい者は虐げられる。
だから、理由もなく虐げられている人たちは、正しい考えを持っている。
ゆえなく虐げられている人のことばに、私たちは耳を傾けましょう。
そうすることで、日々、世界中で殺されていくラステルを一人でも二人でも、救うことができるかもしれませんね。
『風の谷のナウシカ』で、ナウシカがラステルの臨終を看取る、ほんの十数秒の場面が、実に多くの大切なことを語ってくれている……。
驚きとともに、感動し敬服させられる時間なのです。
*
●アスベルの出撃と戦闘
さて、大型船はなんとかペジテ市を離陸したものの、船内では侵入した蟲たちとの戦いが続き、操縦室まで混乱が及ぶと、飛行の安定が失われて、機体は迷走していきます。
クシャナが率いるコルベットとバカガラス編隊は、大型船を護衛しながら、トルメキア前進基地まで、星座に頼る天測航法で進路を誘導するつもりでした。
しかし大型船はふらついて自分の機位を見失い、闇の中に黒々と横たわる雲海に落ちてしまいます。クシャナたちの目からはぐれてしまったのです。
そして、作品の物語前半に見る通り、風の谷へ迷い込んで墜落してしまいました。
大型船は重量物を抱えたフラフラの飛行で、くねくねと蛇行しながら、夕食時から明け方の前の時刻まで六、七時間ほど滞空したと思われます。
墜落寸前のノロノロ飛行となりますので時速150キロほどだったのではないでしょうか。(『魔女の宅急便』に登場するプロペラ旅客機ハンドレページH.P.45は巡航速度が150~170 kmとされます)
ダッチロール的な蛇行飛行であったと考えますと、風の谷とペジテ市の直線距離は大型機の飛行距離の半分程度、500㎞ほどではないかと考えます。
そこには腐海も横たわっており、地上の移動で頻繁に交易できる距離ではなかったのですね。
だから航空機を使わないと、行き来出来なかったことがわかります。
ということで、ペジテ市長の目算は外れました。
巨神兵と、その復活に必要な孵化プラント(仮称)は、クシャナによって空の彼方へ持ち去られてしまったのです。
ただし、無音飛行が可能な飛行ガメが全力で大型船を追跡していました。
重たい荷物を抱えた大型船はフラフラの低速飛行、なので、飛行ガメが全速を出せば、追尾することができたのですね。
だから、大型船が風の谷に墜落するのを目撃した飛行ガメは、直ちに最短距離でペジテ市方面へ取って返し、夜明けの後、たぶん正午までにペジテ市長のブリッグに合流し、報告したのです。
「トルメキア大型船は巨神兵とともに風の谷へ不時着炎上。ラステル王女の安否は不明」と。
そこで思い立ったのはアスベルです。
大型船炎上の報を受けたのは、蟲の襲撃で混乱するペジテ市をブリッグで脱出し、山岳地帯か荒野にひっそりと隠された、貴族専用の避難シェルターに到着して間もなくのことでした。
ラステルは大型船に乗せられたまま、風の谷に墜ちたという。
一刻も早く助けに行かなくては!
幸い、シェルターの近くの地下格納庫には、単座の小型ガンシップが隠されていました。埃を被っていましたが、アスベルは大至急で整備します。
さすが技術王国の王子、機械修理の腕前は超一流です。
翌日の夜、ナウシカと一緒に腐海の底の清浄な世界で一泊した際には、彼女のメーヴェを見つけてきた彼が、一人で機体の修理と整備をこなす場面がありますね。
単座ガンシップは整備できましたが、今から飛び立っても、風の谷に到着するのは夜になり、そうなると地表の状態が見えず、着陸は困難です。
アスベルは翌朝の夜明け前、まだ暗いうちに離陸して、昼頃までに風の谷へ到着しようと考えます。
そして飛び立ちました。
父親には、胚に入った巨神兵がどうなったか、状況を偵察すると告げていましたが、アスベルの最優先の目的は、何よりもラステルの救出だったのです。
そして、風の谷を出発してペジテ市へ向かう、クシャナが指揮するコルベットとバカガラス四機の編隊に遭遇したのでした。
アスベルの瞳に怒りの炎が燃え立ちます。
ペジテ市を侵略した奴等だ、しかもペジテの方へ向かっている。
今ここで殺らなければ、父さんたちが危なくなる。
仇を討つぞ!
攻撃し、バカガラス全機を血祭りにあげます。
しかしバカガラスの旗艦に立ちあがったナウシカを目撃して戦意喪失。コルベットに撃墜されて腐海の底へ落ち、蟲に襲われてさらに落下したところでナウシカに救われます。
*
●なんでクシャナはコルベットに乗らなかった?
ここでひとつの謎が。
アスベルのガンシップに攻撃され、一機また一機と墜落してゆくバカガラス編隊。
城オジのミトが「なんちゅう脆い船じゃ」と驚くほどの脆弱さです。
しかしこうしたバカガラスの欠陥は、事前に十分わかっていたはず。
なのにクシャナはどうして、装甲したコルベットに乗らなかったのでしょうか?
敢えて、危険なバカガラスに座乗したのには、理由がありそうです。
たぶん、クシャナ麾下のバカガラス五機(ただし一機は途中でトラブルにより、風の谷に引き返したと思われます)に乗組んでいたトルメキア兵は、クシャナ殿下の直卒護衛に任じる親衛隊であり、常にクシャナ殿下の“最も御傍”に付き従うのを旨としていたのでしょう。
そしてコルベットは、親衛隊よりも格下であり、バカガラスの親衛隊を空中で護衛する……というタテマエになっていたのですね。
だから、クシャナは立場上、身辺護衛の一団とともに、バカガラスの一番艦に座乗し、そこに将旗を翻すしかなかったのです。内心は気が進まなかったでしょうが。
そうせずにコルベットの方に乗ってしまえば、バカガラスの親衛隊長は“クシャナ殿下を守る傍付きの価値無し”とばかりに面目が潰れて、士気に関わるという事情だったのでは、と推測します。
そんなわけで、アスベルのガンシップに撃たれてコクピット内が死屍累々になっても、クシャナは顔色一つ変えず、平然として勇将の器を示したのでしょう。
しかし……
内心では歯噛みして地団駄踏んでいたでしょうね。
「チッ、こんなことなら最初からコルベットに乗ってりゃよかった!」
そりゃあ、鉄面皮のクシャナだって、命は惜しいですよね。
だからナウシカが、バカガラスに積載していた風の谷のガンシップに乗ったとき、ひょっこりと偶然みたいに現れたのです。「どれどれ、わちきも乗せておくんなまし」と顔に書いてありましたが……
*
●ラステルの安否すら無関心なペジテ市長
翌朝、ナウシカのメーヴェに同乗して腐海の底の清浄な世界から飛び立ち、ペジテ市へ還ったアスベルでしたが、そこに見たものは……
蟲の死骸と兵士や市民の遺体が山をなして、煙に包まれるペジテの市街地。
一昨日の夜に実施された蟲作戦(仮称)の効果は甚大でした。
トルメキアのペジテ侵攻軍は城の外で全滅。
しかし城内は炎上し、センタードームは王蟲によって破壊され、そこに集まっていた一般市民も全滅です。
戦慄するアスベルとナウシカ。
そこにペジテのブリッグが着陸、降りてきたペジテ市長は「アスベル、生きていたか!」と息子を労いますが、アスベルからナウシカを紹介され、風の谷の王女と知って、やや狼狽します。
ペジテ市長はすでに王蟲暴走作戦(仮称)を発動していたのですね。
そのことを隠そうとしますが、アスベルが作戦の正体をバラします。
王蟲の大群を暴走させて、風の谷へ突入させるのだと。
そうなると風の谷の住民は全滅しますが、そこに駐留するトルメキア部隊も全滅させて、巨神兵を奪還できればそれでよしと、ペジテ市長はあっさり割り切っていたのですね。
王族である自分たちが生きていればそれでオッケー、一般庶民がどれだけ死んでも意に介さない人物であることがわかります。
しかも男尊女卑のアナクロオッサンです。女性たちの生命も眼中にありません。
本来、ナウシカを紹介されたときに「王女のラステルを知りませんか!」と真っ先に娘の安否を尋ねるべきであるのに、全く考えていなかったようです。
王蟲暴走作戦(仮称)の事で頭がいっぱいで、ラステルの命の心配は吹き飛んでいたのですね。
表情はにこやかで喋り口は冷静沈着に見えますが、ペジテ市長の心の中の正体は冷酷無比。
巨神兵の奪還しか考えていないクレージーな指導者だったのです。
*
●ペジテ王家の女たち、その賢明な決断は、“戦争との戦い”。
しかし、監禁されたナウシカに救いの手が差し伸べられます。
「ラステルの母です」と自己紹介するご婦人(すっかり毒が抜けて温厚化したモンスリー女史を思わせます)が、ナウシカの“身代わり”となる少女を連れて現れます。
このご婦人、アスベルとラステルの母なので、ペジテ市長夫人、すなわち王妃ですね。
彼女の立場としては、王である市長に従い、巨神兵の奪還に協力すべきでしょう。
しかし彼女の思いを真逆に変えさせたのは、アスベルから報告された、ラステルの死でした。
娘の死を看取ってくれた恩人のナウシカを逮捕監禁し、王蟲暴走作戦(仮称)にまで踏み込んでしまった。
このままでは、ナウシカの故郷の国まで滅んでしまう。
いや、私たちペジテ市が、罪のない人々を犠牲にしようとしているのだ!
戦争に関係の無い第三国を巻き込み、平然と滅ぼそうとしていることに気づき、王妃は夫を止めることはできないかと、立ちあがったのですね。
「巨神兵を燃やして!」と主張したラステルこそ、正しかった。
巨神兵を発掘した時に胚ごと破壊しておけば、ペジテ市は滅亡せずに済んだのだ。
なのに巨神兵に執着し、戦争を呼び込み、多くの人々が殺されてしまった。
結果的にラステルを死に追いやったのは巨神兵に魅せられた父王、ペジテ市長自身ではないか。そして私はラステルを見殺しにしてしまった……
王妃は、そのように自責の念を抱いたのだと思います。
しかし、父王をいさめる力はありません。巨神兵に狂った挙句、ペジテ市すら犠牲にしてしまい、その報復のためには、何としても巨神兵を奪還するしかないと思い込んだ男です。
ペジテ市長はもはや、説得は不可能。
馬鹿につけるクスリは無い……とか申しますが、彼はまさにそうなのです。
ならば、できることは一つ。
ナウシカを脱出させる。
そうすることで、せめて風の谷に暮らしている無辜の人々が殺されるのだけは、防ぎましょう……と。
だから「本当にごめんなさい、私たちのしたことはみんな間違いです」と、ペジテ市の王妃はナウシカを抱きしめて謝罪します。
“発掘した巨神兵の復活”に魅せられ、運命を狂わされた一家の女性たちは、家長であるペジテ市長に唯々諾々と従うことをやめ、戦火拡大の防止に向けて行動しようと決めたわけです。
彼女たちは“戦争との戦い”に立ちあがったのですね。
それはまた、このブリッグに生き残ったペジテの女たちの総意でもあることが、ナウシカを優しく見守る女性集団の態度から察せられます。
もう一人、ナウシカに詫びる女性がいましたね。
「ひどい仕打ちを許しておくれ」と声をかける、高齢女性。
頭巾のラインが二本で、ネックレスもしているので、かなり高位の老婦人。
このお婆ちゃん、ひょっとするとペジテ市長の母親、階級は“王母”ではないでしょうか。
「ひどい仕打ちを許しておくれ」というセリフは、ペジテの女性貴族たちを代表して、「私たちペジテが悪かった」と責任を認めたことを意味します。
これは個人の謝罪でなく、ペジテ市としての“国家の公式な謝罪”なのですね。
このような発言ができる人物となると、やはり“王母”と考えてよろしいのでは。
*
●“身代わり美少女”の正体
ところで、“身代わり美少女”の正体ですが……
たぶん、第一王女。
王妃の長女、アスベルとラステルの姉ではないかと思います。
まず、赤い衣装の胸に、特徴的なエンブレムが刺繍されていること。
他の女性たちの衣装には見られませんので、ペジテ王家の特別な正装の一種ではないかと思います。
若い貴族女子の集団の中で、最も社会的地位が高いとなると……
これは“第一王女”を示す紋章ではないでしょうか。
そして「あの子は……」と訊ねるナウシカに「大丈夫、心配しないで」と王妃は請け合います。
というのは、ナウシカの逃亡を手助けしたとあっては、後で男たちに捕まってキツく処罰される事が考えられるからですね。
厳しい身分制の階級社会です。ナウシカの身代わりが王家一族以外の普通貴族の娘だったら、周囲への見せしめもあって鞭打ちなどの体罰を加えられるかもしれませんし、何よりも王妃自身が立場上、“処罰する”側に立たなくてはなりません。
とすると、ナウシカの身代わりになるのは王妃の長女、“第一王女”が最適任となります。
王女の中でも最高位となるので、かなりの範囲で“自己免責特権”を持っているのではないでしょうか。一般人なら罪になる行為でも、自分で自分を恩赦できる権力ですね。
ほら、現実の21世紀社会だって、本来なら逮捕されるはずなのに在宅の任意捜査で、いつの間にか不起訴で無罪放免されている人って、いやしませんか? あのような立場です。
ペジテ市長の長女“第一王女”こそ、最も処罰されにくく、されても処罰する主体は王妃自身ですから、綿棒でお尻ペンペンくらいの形式的な罰で済ませる事ができるでしょう。
この“身代わり美少女”さん、繰返し述べますが、典型的な“宮崎美少女”なのですね。
アスベルと同じ黒髪が淑やかですが、コルベットの特殊部隊に攻め込まれて一室に閉じ込められた時には銃も構えていて、武道もたしなむ長女格とお見受けします。年齢はナウシカよりも二つほど上で、18歳くらいではないでしょうか。
彼女、赤い服でナウシカの前に現れたとき、赤いイヤリングをしています。
そしてナウシカの青い服を着て銃を持った彼女は、ちゃんと青いイヤリングに付け替えているのです。
オッシャレー!
非常時にあっても服の色に合わせてコーデするこの贅沢なセンスは、やはり王族、第一王女と考えてよろしいのではないでしょうか。とはいえ自分でやったのでなく、担当侍女がついていて、要領よく付け替えてあげたのでしょう。
一方ナウシカは田舎育ちのしっかり者で、肉体労働派です。
なので、年齢設定はアスベルやラステルと同じ16歳というのに、画面では男性のアスベルよりも少し背が高く、ガタイの良い骨格と筋肉で、そのうえ客観的にもたわわなる豊胸です。年齢を18歳から20歳としても通用する、“母ちゃん姉ちゃん”タイプなのですね。
なので、二歳ほど年上ではないかと思われる“身代わり美少女”さんと入れ替わっても、体格的にも雰囲気的にも合致したのではないでしょうか。
ただし、誤魔化しようがないのはバストサイズです。
たぶん、ナウシカの方が二回りほど豊かで……
監禁室の衛兵が、服を着替えて出ていくナウシカのバストをジロジロ見たら、きっと別人とバレていたでしょうね。しかし第一王女相手にそんなセクハラは死刑ものですし、服の胸の大きなエンブレムで視覚的に誤魔化したものと思われます。
入れ替わって監禁室に残った“身代わり美少女”さんはうずくまった姿勢で顔と胸を隠しました。
いや、よくできていますね。
でも“身代わり美少女”さん、そのあとナウシカの服のフィット感を確かめて「この服、胸が余る……」と、ちょっとしたコンプレックスを気にかけたのではないでしょうか。
なお、作品の終わり近く、エンドロールのカットで、風車井戸を建設し、子供たちと“凧遊び”を楽しみ、ユパとアスベルを見送るナウシカは、最初に着ていた青い飛行服を着用しています。
“身代わり美少女”さんが、返してくれたのですね。
「ちょっと、胸のサイズが大きすぎて」と言い添えたかどうかは知りませんが、かなり汗っぽかったのでペジテブランドの高性能洗剤で、ありえーるなクリーニングをしてくれたことと思います。
きっとナウシカも、王蟲の体液で青く染まった服を、せっせとアイロンかけて“身代わり美少女”さんに丁重に返却したことでしょう。ちょっと胸が窮屈だったはずですから。
それがきっかけで二人の仲は近づき、仄かに百合な友情を結んだことと思います。
ナウシカにはやはり、外国籍の女の子の友達が必要と思うのです。風の谷の人たちとは、どうしても領主と領民の関係が付きまといますから。
そんなことで、入れ替わった経験のある少女二人、意気投合してトルメキア首都の名門の中高等学校に貧乏留学して、ナウシカは周囲のお嬢様たちから「ド田舎の芋娘」といじめられても、のびのびと生きて、ときどき “身代わり美少女”さんが入れ替わっていじめっ子のお嬢様にビシバシとリベンジしたり、言い寄る美男子は片っ端からテトの引っ掻き噛みつき攻撃の犠牲になり、そのうち女子野球の監督にスカウトされて部活を開始、仲間を集めて九人チームを結成、女人禁制だった硬式高校野球に殴り込みをかけて、トルメキア甲子園を目指していただきたいものです。
渦巻きフルスイングの“王蟲返し”打法でカッ飛ばすナウシカ。
バットを打ち砕く魔球“コルベット墜とし”で完全試合のナウシカ。
バットを片手持ちでジャンプ、敬遠球すら場外へ打ち返す真剣無双ナウシカ。
万能の天才二刀流少女は、鎧袖一触の快進撃で地区大会をゴボウ抜き!
あ、これは『プリンセスナイン 如月女子高野球部』(1998)の受け売りです。
偶然観て、途端にナニコレメチャクチャオモロイ!!
今、ハマってるんです。WBCよりもずっと楽しく笑えて明るい女子野球!
で、やはり、『学園ナウシカ』を2クール26話でぜひ! ジブリ様!
*
●“戦争と戦う”には、“戦争の被害を防止する”ことだ。
ペジテ王家の女性たちが、“戦争と戦う”決意に傾いた経緯を推測しますと……
狂ったように巨神兵の復活に終着し、いかなる犠牲も顧みず、もう手が付けられないペジテ市長のオッサンに対して、まずは娘ラステルが反対し、ラステルの死を受けてアスベルも考えを改め、王妃が、第一王女が、そして王母が……と、ペジテ市長一家の女性たちが立ちあがって、ナウシカの救出作戦を実施したわけです。
ただし、あからさまに反旗を翻すことはできません。
王家の女性たちに、王が政策決定した戦争をやめさせる力はないからです。
そこで選択したのは、ナウシカを救出、解放することで、“戦争による、これ以上の被害拡大を防ぐ”ことでした。
私たちに戦争をやめさせる力はない、そのかわり、戦争に起因する被害を可能な限り防止しよう。
このような選択がなされたのだと思います。
ペジテ王家の女たちが目覚めた、最も賢明な選択。
できないことから、できることへと、発想が転換されました。
これが、作品のストーリーラインを180度とはいかなくても、90度ほど転回する重要なターニングポイントになったと思います。
“戦争と戦う”には、“戦争の被害を防止する”ことだ……と。
そもそも、ナウシカがペジテのブリッグから脱出できたことで、風の谷の人々の生命が守られたのですから。
【次章へ続きます】




