天使のラッパ
天使には一つの仕事があった、人を幸せにする事だ。すべての天使は生まれた時にこのラッパを渡され神様にこう言われる。
「君が必要だと思った時にこれを吹きなさい。これは人を幸せにするラッパだ。下界を見て助けが必要だと思う人、かわいそうな人がいればこれを吹くんだよ」
そう言われる。しかし他の天使はあまり吹くことは無い、どうしてだろうか。自分は一番の下っ端なので聞くことはできないが皆んな下界を覗いてはたまにラッパを吹く事しかしない。生まれたての天使は下界を覗く小さな子が飴を落としたり、お年寄りが転んだり、女の子が降られたり。些細な事かもしれないが悲しいことが沢山起きている。もちろん戦争や飢餓、それに災害のような大きな不幸だって起きる。なぜ他の皆は吹かないのだろう、生まれたての天使は試しに飴を落とした子供に向かってラッパを吹いた。すると、時間が戻ったかのように飴は地面に落ちる前に子供の手のひらに収まった、飴を落としそうになった子供は笑って飴を口の中に入れた。天使もうれしくなってニッコリと笑った。
次にお年寄りに向かって吹くと転びそうになったお年寄りの前に青年が現れ、倒れそうになったお年寄りを支えた。お年寄りはけがをすることなく、青年にお礼を言って立ち去った。
天使はそれが嬉しかった。このラッパを吹くだけで多くの人が助かる、「幸せになれる」そう思った。
しばらく、その天使は多くの人を助けるためにラッパを吹き続けた。天使は疲れる事はあっても眠る事はない。その為、天使は吹いては休み吹いては休みを切り返した。しかし、他の天使は彼の姿を見てもラッパを吹く様子は無かった。少し迷惑そうな顔をしたり、微笑んだり、または懐かしい物を見るようなそんな顔をするのだ。
しばらくたったある日、天使は一組の男女を見つけた。女の子が男の子に告白しているところのようだ。しかし、それは上手くいかなかった様で女の子は男の子に振られてしまった。天使はそれが悲しい事だと思い、彼女にラッパを吹いた。するとしばらくして、告白をした女の子は男の子と付き合うことが出来たようで仲睦まじく歩いている様子がうかがえた。しかし、天使がそれを叶えると彼と前に付き合っていた女の子が泣いてしまった。天使は困ってしまった。片方を選べばもう片方が悲しんでしまう、どうすればいいのか分からない。天使は悩んだ結果、両方を幸せにしてあげればいいと考えた。
天使はまず最初に女の子の方から幸せにした。すると次の日、彼女は男の子と手をつないで学校に来ていた。その手はとても強く握られていた。天使はその光景を見るととても嬉しく思い、次は男の子を幸せにするためにその子の元へ飛んだ。しかしそこには誰もいなかった。辺りを見回してもいない。どこに行ってしまったのだろうか?そう考えていると後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにはあの男の子がいた。
天使は彼に言った。
どうして昨日来なかったんですか? 彼は答えた。彼女が出来たことが恥ずかしかったからさ。
天使は喜んだ。
それじゃあ今度からはもっと多くの人を助けないといけませんね! 天使は笑顔で言った。
彼も笑顔で答える。そうだな、でももう大丈夫だろ。だって俺たちはもうお互い好きな人と結ばれたんだから。
そう言われて天使は初めて気づいた。自分が一人の人間しか助けていなかったことに。そして、自分のした事はただの自己満足に過ぎなかった事に。
天使は泣いた。涙を流す機能は無いが、心の中で涙を流した。