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その後、父母とタイラント、レブロン、ルイーゼで食事をした。
料理長が腕を振るった料理ではあったが、場の気まずさは拭えず、ギクシャクとした昼食であった。
食事を終えた後、父母とタイラントは不自然に用事があると言い出した。
食後の茶も飲まぬうちに退室し、あっという間にレブロンとルイーゼ二人きりになってしまった。
黙って茶を啜る時間がいたたまれず、ルイーゼから口火を切った。
「陛下、本日は一体どのようなご用件があったのですか?」
ルイーゼの直接的な質問にレブロンは二、三度咳払いをした後、話出した。
「君に意見を聞きたい事があるんだ」
レブロンから出た意外な言葉だった。
どうせフィリックの事についてとやかく言われると思ってばかりいたルイーゼは面食らった。
「私などが分かる話でしょうか?」
「まあ、一度聞いてくれ。北東の位置にあるベルゼア国とシルフィア帝国は知っているな?」
ベルゼアとシルフィアといえば最近余り良い噂を聞かないニ国だ。
「ええ、存じております。何やらシルフィア帝国が古い書物を引っ張り出してベルゼアの近海にあるカルタ島が自国の領土だと主張しているようですね」
元々、ベルゼアはシルフィア帝国の一部であったと言われている。
しかし、二百五十程前にシルフィア帝国に隣接していたインガ帝国と領土争いに負け、ベルゼアはインガ帝国の一部となった。
それから百年程時が経つにつれ、次第にインガ帝国の力が弱まり、瓦解し、帝国そのものはインガという小さな国になった。
その過程でベルゼアは小さな国となったのだ。
「そのベルゼアから支援を求められている」
「支援する事自体に悩んでらっしゃる訳ではないんですよね?」
「そうだ。戦況自体はシルフィア帝国の優位だ。どちらに支援するべきか悩んでいる」
ルイーゼは戦況を整理した。
元々インガ帝国であった場所はベルゼアとインガ国含め五つの国に瓦解した。
一番シルフィア帝国と隣接しているのはベルゼアであるが、そのベルゼア自体が崩れてしまうと、残りの四つの国自体もよろしくない事態になる。
更に、カルタ島が航路に関わる国は大小併せると数十にも及ぶ。
非常に重要な場所であるとも言える。
「他国にも同じくベルゼアから要請は行っていますね?どの程度の支援をするのか、どの国も様子を見ているんでしょうね」
「そうだ。だが、シルフィア帝国だけが今回の戦犯という訳でも無いだろう?」
確かにそうなのだ。
今回の軍事進行は一見シルフィア帝国の独断で起こした不易な戦争に思える。
しかし、先代のベルゼア王の際には上手く均衡を保ってシルフィア帝国とやり取りをしていた事も事実だ。
それが今代の王になってから変わったのだ。
シルフィア帝国は厳しい寒さの寒冷地だ。
作物の育ちも悪く、冬になると非常に厳しい立地だ。
これまでは広大な土地から産出される鉱物などを他国へ売り払ったり、類稀な加工技術や寒さや害虫に強い稲科の栽培を研究した技術力を提供して成り立っていた国だ。
他国との密な貿易によって財を為していた。
その際に要となるのが、カルタ島や港を有するベルゼアだった。
内陸で海が無く、背後を標高の高い山々に囲まれたシルフィア帝国にとってベルゼアは貿易の要とも言える場所だった。
そのベルゼア国が今代王に代わってからシルフィア帝国からの輸入品に高い税を取り始めた事だ。
十数年に渡ってじわじわと上げられた税に、シルフィア帝国も限界だったのだろう。
「半端な支援では両国共に無駄な削り合いになりますね」
「我が国の議会でもベルゼア側とシルフィア側、中立派で割れている」
「陛下のお考えは?」
「停戦協定が開ければと考えている。今の戦争はどこにも益がない」
「ベルゼア側が税率を下げ、かつシルフィア側がカルタ島を手にするより得にならなければいけませんね。そしてベルゼアが税を下げてもダメージの無い形でないと。でないと両国共に納得しないでしょうね」
「難しい問題だ」
「すぐに妙案が浮かばずに申し訳ありません」
ルイーゼがそう言って頭を下げると、レブロンは笑った。
「いいや、ルイーゼに聞いてもらって整理が出来た。また話しに来ても良いか?」
レブロンの言葉にルイーゼは大袈裟に頷いた。
本当にいつ振りだろうか。
それくらい自然に会話が出来た事を心の底から嬉しく思った。