6.異形の翼を止める声
「さて、一分稼いでくれって事だけど……もちろん、出来ないなんて言わないよね、皆」
《ミヅチ》のコックピットで、一対の操縦桿をカタカタと震わせながら呟く蛇瑰龍。
通信機越しにも分かる、有無を言わせぬ威圧感。あるいは狂信者にも通じる強引さが聞くモノの心へぬるりと侵入する。
蛇瑰龍はメインモニターに『フェイクニス』を映しながら、サブモニターに映る《ヴレイオン3》を見つめていた。その瞳には、抑えられない祝福と歓喜の色が浮かんでいる。
まさしくそれは、神の御使いにでも向けられるような代物だった。
『わ、わわ、わかっ……分かった! やる、や、やっ、やってみりゅっ……みる!』
初めに帰ってきたのはドラグノテミナルの少年、ウピオルだ。種族柄臆病な彼に高圧的な物言いをするのは辛かったが、蛇瑰龍は心を鬼にして言った。
何故なら、
『黙れジャパニーズ。貴様の指図は受けない』
並みの人間なら恐怖か(稀に)興奮によって従わざるを得ない彼の言葉に、待ったをかける人間がいたからだ。
『我も同じだぞ、蛇瑰龍よ。そもそもあの『プレゼント』は我の夕餉なんだ。我自身が仕留めねば意味がないであろ?』
――ほんっと言うこと聞かないね、この二人は。
これで何度目になるか分からない苦みのある溜め息を吐いた蛇瑰龍は、尚も語気を強めて命令しようとした。
『待ちたまえ』
ところが、蛇瑰龍の指示に待ったをかける人間がいた。
成人男性特有の低さと青年らしい若々しさを兼ね備えたその声に、蛇瑰龍へ反論した少年が一人背筋を固く伸ばした。
『ラウルス様?』
『随分と面倒で面白い展開になっているようだね、『巫覡』君』
「いや、まったく面白くはないですよ? 歓迎すべき事象は起こりましたが」
少年――ビムクィッドの声を無視したラウルスと呼ばれた男に言葉を返した蛇瑰龍は、戦闘中、滅多に声をかけてこない自身の顧問に困惑し、「何か用でしょうか?」と告げる。
『人は無益であろうとコミュニケーションを取りたがる生き物だよ。とはいえ、無駄話ばかりでは優雅に欠ける。『進化部』の部員としてやってほしい事があるんだ』
『なんなりとお申し付けください』
部隊長である蛇瑰龍に先んじて答えるビムクィッド。彼の盲目的な姿勢に再び溜め息を吐いた蛇瑰龍はミヅチにライフルを構えさせ、ラウルスに応えた。
『要件は手短にお願いします。確実に一分、時間を稼ぐと約束しましたか、らっ!』
一息吸ってライフルの引き金を引く蛇瑰龍。銃口の先にいた『フェイクニス』は動きを止めた《ヴレイオン3》への攻撃を変更し、憎々しげな光を宿した目で《ミヅチ》を睨んだ。
『ああ、把握しているとも。スカーレットの装甲を持つ異形の機体……《ヴレイオン3》といったかな。彼が『プレゼント』をどうにかしてくれるんだったね』
『ええ! ですから! 僕一人じゃ! ミヅチッ、《ミヅチノミコト》! バージョンでも! もたない! んですよ!』
次々と迫る風刃と硬質化した羽根の嵐を巧みなSVR捌きで躱しながら苦言を呈す蛇瑰龍。いかなカスタム機(しかも妙な力によって強化されている)とはいえ、『プレゼント』をたった一機で押しとどめるなど不可能なのだ。
なお既に協力を約束していたウピオルだが、ミヅチに放たれた羽根が次々と変化した小鷲の群れの対処に追われ、加勢する事が出来ないでいた。
『見苦しい言葉でラウルス様の御耳を汚すな』
「ああもう五月蠅いなぁ! 飛べない人は黙っててくれる!?」
煽っているようにしか聞こえないビムクィッドの言葉に蛇瑰龍は我慢ならず怒鳴りつけた。
『『猛獣』君、巫覡君。喧嘩は人の話を聞き終えてからするように』
『ハッ。失礼いたしました、我が君』
ラウルスが口調に合わない面白がるような声音で二人に注意すると、ビムクィッドはスイッチを切り替えたようにラウルスへ阿り、蛇瑰龍は密度を増した『フェイクニス』の攻撃を避けるのに精一杯で返事が出来なかった。
『よろしい。さて、先生からの要求だが……君たち『進化部』は《ヴレイオン3》と協力し、『プレゼント』の撃破に当たってくれたまえ』
わざわざ言われるまでもない。蛇瑰龍はそう言い返そうとしたが、すぐにラウルスの意図を悟って口を閉じる。
その成果はすぐに表れた。
『イエス・マイデューク』
先ほどまでマイペース(飛行能力を持たず、カプトゥスに依存するしかなかった)に『フェイクニス』へ攻撃を仕掛け、足場たるカプトゥスが小鷲の相手で手いっぱいになってからは静観を決め込んでいたビムクィッドが、自衛から迎撃へと姿勢を変化させた。
かぎ爪……鈍くくすんだ群青色のきめ細かい鱗に覆われた分厚い指から伸びる、ジャパニーズニンジャが用いる鉄鋼鉤のような歪曲した自然の刃を持って小鷲を引き裂いていく。彼の姿は爬人と呼ばれる爬虫類の特徴を持った獣人の近縁種、その中でも蜥蜴に近いものであった。
あの分ではすぐさま小鷲の群れを全滅させ、ミヅチの援護に向かえるだろう。
『チッ、どのみちカプトゥスが燃やし尽くしてしまえば鳥肉として使えぬか』
己の不利を悟った少女、ディーオが緑青色の髪を苛立たし気に振り回し、何度か細腕を『フェイクニス』へ振るう。しかし状況に変化はなく、苛立ちが増しただけだった。
『『女王』君にはご褒美になるかな。さっき『猛獣』君が切り落とした翼やヒースタリア学園の敷地内に落ちた『フェイクニス』の眷属の死骸の回収を行っているんだけど、可食部の全てを君たち『進化部』へ譲ろうかと思っている』
『それを早く言うのだ! 高位人間たる我が力、とくと見るがよい!!』
ラウルスの言葉は気怠く落ちたディーオの心に火を付けた。
先ほどと同じように細腕を振るう。一度、二度は何も起こらなかったが、三度目になって彼女の右手を中心に青い魔法陣が浮かび上がった。ルーン文字と様々な図形が絡み合った複雑な魔法陣は一瞬だけ強く輝いたかと思うと、直後に長大な氷の槍を生み出した。
ディーオは右腕を軽く調節すると、引き延ばされた菱形の氷槍を『フェイクニス』へ向け、発射した。
大気を唸らせながら走った氷槍はミヅチへ迫撃をかけようとしていた『フェイクニス』の背に着弾し、大穴を開けた。灰色の怪鳥は身体に刺さった凍てつく槍に苦悶の鳴き声を漏らし、ジタバタと暴れながらその高度を下げた。
蛇瑰龍はそのまま着水するだろうと思ったが、ギリギリのところで『フェイクニス』は腹と背を入れ替え、全身に青みがかった薄い炎を纏った。炎によって溶けた氷から摩擦が失われていき、その半身を赤黒い血に染めた氷槍は盛大な水しぶきを上げながら海へ落ちた。
『フェイクニス』自身はすんでのところで落水を回避し、再び上空へ戻ろうとして、
『食らうがよい!』
いつの間にか『フェイクニス』のすぐそばまで移動していたディーオの、赤い魔法陣より放たれた爆発球によってその身を舐めるように焼かれた。爆音にかき消された音無き悲鳴を上げ、『フェイクニス』は呆気なく海へと落ちていった。
『ふむ……やはり美味そうな匂いを漂わせているな。焼き鳥にして食い殺すというのもアリであろ』
『フェイクニス』に続いて海へ落ちていくディーオ。しかしやたら通りの良いフィンガースナップが海上に響き渡ると、上空へ向かってその身が跳ね上がった。
跳ね上がりの繰り返しで元いた高度に戻る。その頃にはまた両腕を交互に振り回し、今度は緑に光る魔法陣を組み上げて待機した。
「……あー、お手数おかけしました、ラウルス先生」
あまりにもアッサリと癖の強い部員を使役してしまった顧問に、苦みと自嘲と感謝が混ざった言葉を告げる蛇瑰龍。それに対しラウルスは『今後の課題だね』と楽しそうに返した。
『この分だと今までの『プレゼント』戦よりスムーズに終わりそうだけど、念のためしばらくは認識阻害結界とジャミングを張っておくよ。いざという時は存分に力を発揮するといい』
「分かりました。お心遣いに感謝します……ところで」
海面から顔を出した『フェイクニス』に容赦なくライフル弾を叩き込みながら、蛇瑰龍は気になっていた事を口にした。
「あの《ヴレイオン3》という機体は一体なんなのですか? 空間の歪みから突如として現れましたし、既存のSVRやゴーレムとは一線を画す……下手をしたら僕らの真の機体に匹敵する程の性能を有しているように見えるのはハッキリ言って異常です。またパイロットは日本人のAIを名乗り、自らの機体を最終殺戮兵器と呼称しました。おまけに同時に現れた飛行箒……いえ、恐らくは別の技術が使われた飛行装置まで付随しています。これだけでも信じられませんが……」
『『対アナヴェグル』。この言葉がひっかかっているんだね?』
自分の疑問に先んじて次の句を告げたラウルスに蛇瑰龍は一つ頷いて肯定の意を呟く。
「もしやアレは、新たな人類の脅威に立ち向かうための機体なのですか?」
『いや、恐らくは違うだろうね』
蛇瑰龍が口にした突拍子もない発想に、ラウルスは即座に否を突き付けた。
『少なくとも、人類の版図に限れば新手の脅威は確認されていないよ。ハワイ公国及びロシア以東、ヨーロッパ及びアフリカ大陸以西の大陸で発生していれば確認のしようはないけどね』
その言葉を受け、蛇瑰龍は安堵を抱くとともに更なる疑念を持つ。
今は一学園の教師にすぎないラウルスだが、それでもれっきとした公爵位を持つ貴族だ。
世界的に見れば凡庸な国の貴族ではあるが、一国の長の次に権力を持ち、また国連に対して幾らかの影響力を有している。そんな彼がいないと断言するのなら、高い確率でいないのだろう。
だが、ならば何故《ヴレイオン3》などという機体が開発されたのか。
異世界よりの来訪者であるとは露も知らない蛇瑰龍は、戦闘を続行しながらも不可思議な疑念を抑えることが出来なかった。
『先生も驚いてるんだ。何しろ魔法道具の権威であるギリシャですら未だ実用に至っていない空間転移装置を使ってヒースタリア学園近海に現れ、再生力に特化しているとはいえ素の強度がG級上位に相当する『フェイクニス』を真っ二つにしてしまう程の攻撃力を持っているんだからね。それに……』
一度言葉を切ったラウルスは何かに悩むように唸り、蛇瑰龍の手を止め、唖然とする程の言葉を放った。
『どうもあの機体、魔力を一切使っていないみたいなんだ』
「なっ……そんなバカな!? 科学技術の結晶であるSVRですら、燃料は人工アダマンタイトなんですよ!? 魔力無しにあれだけの機体を動かせる訳がない!」
あまりの驚愕に操縦桿が震え、ライフルの照準が狂う。引き金から手を引いた蛇瑰龍は必死に呼吸を落ち着かせ、不安定となっていた機体の出力を元に戻した。
『けど、事実としてあの機体からは魔力が検出されていない。長い人生を歩んだとはとても言えないけれど、駆動に魔力を使わない機動兵器を見たのは初めてだよ』
「そんな事が……」
『ま、話は聞かせてもらえるみたいだし、今は戦闘に集中しよう。そろそろ指定の一分が経つ頃じゃないかな?』
言われてはっとする蛇瑰龍。戦場に意識を向け直すと、ペンギンのような挙動で海から飛び出した『フェイクニス』がカプトゥスへ嘴を突き出していた所だった。
いかなドラグノ、それも蛇瑰龍の知る限り非常に希少な特性を持つカプトゥスといえど、硬質で鋭い槍がついた大質量を真正面から受けてノーダメージという訳にはいかない。カプトゥスは襲い来る『フェイクニス』の嘴から逃れる為に横転し、大きく広げた翼で空を薙いだ。
世界最強の生物を串刺しにせんとした一撃は文字通り空を切り、変わりに『フェイクニス』の空中戦復帰を許した。
『それじゃあ先生はこの辺で失礼するよ。また部室で会おうね、巫覡君。もちろん、彼らも連れてね』
「了解です」
通信機のシグナルが一つ消え、コックピット内に静寂が戻る。
蛇瑰龍は一度魔獣の革で作った座席に背を預けると、すぐに跳ね起きて操縦桿を握った。
「行こう、ミヅチ。六番目の同胞を迎え入れる為に」
短く呟き、カプトゥスの背に乗る真白い人影に魔法を打ち込もうとした『フェイクニス』へ鉛の弾丸を叩き込む。
蛇瑰龍の視界の隅。そこでは見たことも無い正四角形を模る白灰色の魔法陣を浮かべた、緋色に輝く《ヴレイオン3》の姿がサブモニターに映っていた。
『いよぉし! 格闘用《Dディヴ》蓄熱率89%! 制御用《Dディヴ》及び《Cレイカ》の展開正常! 余剰熱量を《スカーレットDCウイング》へ移行! カッコ良く右腕を伸ばし、照準を付けるように『フェイクニス』へカギ爪を見せる……グゥゥレイトゥ!』
本当に何を言っているのか分からなかったが、どうやら必殺技の準備が整ったみたいだ。
「蛇瑰龍さん! 用意ができたみたいです!」
茹るような興奮で狂った優樹に代わり、蛇瑰龍さんへ伝える。それほど間を開けずに『了解だよ! 皆、最後の一当てで全力離脱! 《ヴレイオン3》の邪魔はしないように!』という答えと共に、唐突な斬撃と謎の電撃とドラグノのブレスとグレネード弾が『フェイクニス』に炸裂した。
またしても片翼を切り落とされ、羽毛の一本一本まで焼き焦がすかのような雷撃に苛まれ、自然界で最も熱いと言われるブレスを身に受けた肉と骨が溶け崩れ、科学の砲撃が残った骸をバラバラに吹き飛ばす。
そこまでしても、『フェイクニス』の肉体を完全に破壊することは出来なかった。切断された翼はそのまま海へ落ちていったが、翼以外の散り散りになった肉片から細かな触手が伸びて絡まり、黒く焼け焦げた細胞は新鮮さを取り戻して生まれ変わり、見るも無残に溶解していた骨肉は不気味な粘土細工のように元の姿へ戻っていった。
直後、蜘蛛の子を散らすように離脱するドラグノと《ミヅチ》。その肩にチラっと人のような何かが映ったのだが、見間違えじゃなければ二人分あったような……しかもドラグノの背にもう一人いた気がする。
あれだけデカい『フェイクニス』に三人も生身の人間が立ち向かっていたなんて、にわかには信じがたい。そりゃあ超凄腕のハンディアとか、大国の騎士団長とかならまだ分かるが、あのドラグノに乗っているのはヒースタリア『学園』に所属する『学徒候補生』だ。
俺と五つも離れていない、人間なんだ。
「なんだよ、それ……」
ある種《ヴレイオン3》よりあり得ないような存在に、俺は正気を失いかけ――
『各種調整完了! ゴーサインは任せたぜ、相棒!』
それどころじゃない、と我に帰った。
「いるのかそれ!? あ、いや、その……ぶ、ぶちかませ! 《ヴレイオン3》!」
『合点承知! うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
蛇瑰龍さん達の攻撃を受けてフラついていた『フェイクニス』目掛け、四角い魔法陣を右手の先に展開した《ヴレイオン3》が炸裂した爆炎魔法のような音を上げながら突撃していく。
あの魔法陣が、再生し続ける『フェイクニス』を消し去る必殺技なのか。
一体どんな魔法なのか気になるが、俺は本職の魔法使いじゃない。聞いたところで理解なんてできないだろう。
『ピュィィィィィ!』
『フェイクニス』も《ヴレイオン3》の猛進を察知したようで、甲高い鳴き声を上げながら突進を躱そうと翼を動かした。
しかし、『フェイクニス』が翼で風を紡ぐよりも速く、蛇瑰龍さん達が援護の一撃を加えるより早く、《ヴレイオン3》は飛んだ。
緋色の右手に浮かんだ白い魔法陣が、『フェイクニス』の目と鼻の先に迫った……その時。
俺は二つの叫び声を聞いた。
『ククク、クハハ、クハハハハハハハッ!! この攻撃は理論上、《Dディヴ》以外の全てを焼き滅ぼす絶対の熱量必滅技! 汝が罪を焼き焦がし、汝の身を荼毘に伏すであろう! 今こそ、深淵より導かれし大いなる緋色の御使いが天誅を下す! 雷の名は! 【メギド・ソーラ
『だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
優樹の口上を押しのけて響いたのは、悲痛に染まった少女の声だった。
それと同時に《ヴレイオン3》の翼から歪みが失せる。のみならず、既に接触し、《フェイクニス》の身体を押し潰すかのように消滅させていた白い魔法陣までが消え失せてしまった。
尾羽だけを残して消え去った『フェイクニス』と、放物線を描きながら海へ落ちていく《ヴレイオン3》。
俺はただ目の前の光景に唖然として、《クエレブレ》に突っ伏すことしかできなかった。
『――不味いっ! カプトゥス! ディーオ! 『フェイクニス』の残骸に総攻撃! あんなになってもまだ再生しようとしているッッ!!』
通信機から聞こえる鋭い声に、ハッとして《ヴレイオン3》から目を引き剥がす。
生々しい扇と化した『フェイクニス』の尾羽の断面から物凄い勢いで肉塊が盛り上がり、脂のような血のような、はたまた工業用オイルのような液体がボタボタと垂れ落ちている。
あまりにも悍ましい生への執着。
咄嗟に下を向いた俺は、必死になって吐き気を抑えた。
直後、爆音の嵐が鳴り響く。
何処からともなく現れた雷撃が肉の塊を打ち据え、火薬と鉛の衝撃が尾羽を削り、ドラグノが放った火炎の息吹が跡形もなく焼き尽くす。オーバーキルにも程がある攻撃が、『フェイクニス』だった物へと容赦なく降り注いだ。
赤い炎のカーテンが消え失せてしばらく。常軌を逸した再生能力を持つ魔獣は、ついにこの世から消失した。
『ふぅ……お疲れさま。皆は先に帰還して……って、もういないし』
蛇瑰龍さんが何か言う前に浮遊島へ戻っていったドラグノ。相変わらず自儘な人たちだよ、と諦念染みた声でぼやいた蛇瑰龍さんも機体を浮遊島方面へ向け、徐々に高度を落としていった。
『暁君』
「……はい」
このままスルーされないかなと思っていた俺に何処か楽しそうな様子の蛇瑰龍さんが声をかけてきた。
『そう構えないで。結果的にであっても、『プレゼント』の討伐が出来たのは君たちのお陰なんだから。それより《ヴレイオン3》と合流したら、君と優樹君とで一緒に『修練の棟』第四地下室まで来てもらえるかな?』
「了解しました」
気まずさから飾りっ気のない無骨な返事になってしまう。蛇瑰龍さんは小さく苦笑しながら通信を切り、ミヅチが纏っていた緑色のエネルギーを解除してヒースタリア学園へと走り去っていった。