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#2 その名は人力機関

「あ、あわわわ……」


目の前の状況を前にして、大河悠はただただ立ち尽くすしかなかった。


話は一旦、公演の直後に遡る。


◆◇


「あ、あれ? く、口紅が!」


悠は鞄を探るが、やはり見当たらない。

落としたとするならば、恐らく劇場か。


しかし。


「ああー……どうしよう! ……仕方ないか、こうなれば。」


口紅を落とすなど、トップスタァらから何と言われるか分かったもんじゃない。


深夜に忍び込むしかないと、悠は心に決めた。


◆◇


そうして劇場に来てみれば、このザマという訳だ。


「!? ……阿多名会長?」


人が入って来た気配がし、舞台の幕の影に隠れた悠はそっと覗く。


すると、阿多名商会会長の恩蔵だった。

何やら、取引がどうのと言っている。


いや、今夜の客は彼だけではなかった。


「……手を上げてもらおうか。」

「(なっ……!? 何なの!)」


恩蔵の頭に銃を突きつけるのは、何やらシルクハットとマントの男だ。


やがて、その間にも。


「なるほど……それが今日、設計図を横流しする予定だった新型爆炎機関銃ばくえんマシンガンか!」

「ははは! その拳銃でどこまで太刀打ちできるかな? ……いや。」


恩蔵は鞄から弾丸を放ち続けたまま、劇場を離脱する。


「待て!」

「(……いや、あんたたちこそ待って!)」


急に始まったドンパチに、悠は身体を震わせる。

しかし、悠は肝が据わっている。


「……これは、乗りかかった船ね!」


まだ足は震えるが、悠はこっそりと二人の後を尾ける。


◆◇


「さあて、もやしっ子! あたしらをここまで待たせた借りはどう返してくれんの? 」

「はあ、脳筋その1! そもそもあんたらは出る幕じゃなかったんだよ!」

「そんなこと言って、この今の体たらくは何なんだい!」


暗号名(コードネーム)・脳筋その1(ただの悪口にしか聞こえないが)は暗号名・もやしっ子(ただの悪口にしかry)こと郁夫に恨み節を漏らすが、郁夫は反論する。


しかし。


「呑気におしゃべりとは、優雅だな!」

「おっと! ……分かったよ、脳筋共! この借りは」


敵大絡繰人形からは機関銃による銃撃が来る。

智炎はたちまち身を屈め、頭を前方に向けて突進体勢にて走り出す。


「石頭で、返してやるよ!」

「うわっと! ちょっと、危ないでしょ!」


郁夫の乗る頭部は敵機の弾幕を受けながらも押し切って行く。


脳筋その1からは、いきなり機体が無理な動きをすることに対する文句が返って来る。


「脳筋その4、その5! 両足の出力を上げ続けるんだ。脳筋その1、もっと全体出力を! 上げられるだろ?」

「り、了解!」

「言われなくても、分かってるって! もやしっ子、死んだらぶっ殺すから!」


暗号名・脳筋その4、その5。

両足出力担当の二人に、そして全体出力担当である脳筋その1――いずれも、女性だ――に、郁夫は命じる。


脳筋その1からは果たして悪態が返ってくる。


「そりゃあ、死に切れないってやつだな!」


郁夫は脳筋その1に返す。

そして。


「何を、戯れてんだ!」

「ぐっ! ……おっ、出力来たな!」


敵機から飛んで来る弾丸と罵声を、郁夫は尚も自身が乗る智炎の石頭でもって受け止める。


「後は……近づくだけだ! ……さあ、脳筋その2!」

「ふん!」

「なっ……ぐっ!」


弾を避けて間合いを詰めた智炎は、敵機の機関銃を右腕の太刀で斬りふせる。


敵機はたちまち、地に倒れた。


右腕担当の女性、暗号名・脳筋その2の技である。


「さあ! 武装を解除して出て来い。」

「くっ……ん?」

「!? な?」


恩蔵に要求する郁夫だが、彼が驚いたことに。

倒れた敵機の近くに、何やら女性が。


女性は無論、悠である。


「!? ち、ちょっともやしっ子!」

「くそっ!」


脳筋その1が叫び、郁夫は智炎の手を伸ばすが。


「ははは……人質にはもって来いだな!」

「き、きゃああ!」


恩蔵も機体の左腕を伸ばし、悠を確保しようとする。


「くっ! 止めろ」


郁夫が止めようとするが、間に合わない――

しかしその時、信じられない光景が。


「きゃあああ、えい!」

「なっ……ぐうう!」


なんと伸ばされた恩蔵の機体の腕は、そのまま掴みかかった悠によってねじ切られてしまったのだ。


「……え?」

「おおお! あたしたちと同じだね♡」


郁夫はこの出来事に呆け、脳筋その1は笑う。


「……痛た……ん!?」

「出ろ、売国奴!」

「ぐわっ!」


壊れた機体の頭部を強引にこじ開け、恩蔵は引き立てられる。


「これは、さっき劇場内で付けた吸引器だな? 一体何故こんなものを……まあいい。」


郁夫は、尚も恩蔵がつけていた吸引器に首を捻りながらも、それを外し彼を捕縛する。


「くっ!」

「さあ、色々聞きたいなあ。」

「くっ、誰が……ぐっ、う、うええ!」

「!? な、何だ!」


恩蔵の胸倉を掴む郁夫だが、急に恩蔵は苦しみ出す。

そしてそのまま、がくりと首を倒す。


「ちょっと、もやしっ子それ……」

「わ、分からない……急に……ん!」


その時である。

何やら壊れた敵機から、カチカチと音が――


「脳筋共、離れろ! あんたもこっちだ!」

「えっ……へ!?」

「応!」

「う、うわああ!!」


郁夫は左腕で胸倉を掴んでいる恩蔵の身体をそのまま左腕に、そして今右腕で悠の身体を、それぞれ抱えて離脱する。


智炎も中の女性たちの操縦により、離脱する。


その刹那、敵機は爆破した。


「……もやしっ子、やっと死んでくれたかい?」

「馬鹿言うな! 死人には口ねえよ!」


無事離脱した智炎の中からの脳筋その1の軽口に対し、郁夫が軽口で返す。


両腕には二名を、しっかりと抱え込んでいる。


「……しっかし。あの爆発じゃあ、もう跡形もなく証拠はなくなったか。」


今も煙が上がる機体を見て、郁夫は悔しげに顔を歪める。


「さあて、あんた。……おや。」


右腕の悠に声をかける郁夫だが、悠はすでに気を失っていた。


「……やれやれ、せっかくこのお姉ちゃんからも名乗り代、頂こうとしたのにな……さてと。」


やがて郁夫は、左腕の恩蔵に目を移す。

すでに事切れている。


先ほどの戦闘でも、斬りふせたのは機関銃だ。

では一体。


「吸引器か?」


郁夫は考えるが、それ以上は何も浮かばない。



◆◇


「……教授。始末は上々です。」

「ああ、でかした。……高良(こうら)大佐。」


現場を見る高良大佐は、電信機越しに"教授"に報告している。


◆◇


「う、うーん……」

「おほん! ……大河さん?」

「!? は、はい!」


悠は眠りから覚める。

もう、朝になっていた。


目の前には、劇場支配人が。


「し、支配人! げ、劇場で撃ち合いが……あれ?」

「撃ち合い? 何のことです。」


悠は話しながら劇場内を見て、驚く。

弾の跡など、どこにもなかったのだ。

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