闘技場の戦い
石材を運んだ翌日、俺は通常通りに試合に出されていた。剣闘士と奴隷、決闘形式の戦いだ。俺は真っ黒な洋服を着たうえに革でできた鎧を身に着け、顔は布で巻いて隠す。その姿は忍者が革鎧を着たような姿であるが、顔を布だけで隠すのは相手との実力差から俺の顔がばれるような危険性はないと考えたからだ。
相手は中堅レベルになったばかりの冒険者の男だ。だが、今まで何度も有名なベテラン剣闘士に殺され、対等以上に戦えるまでになった俺からすれば新人に毛が生えたようなものだ。こういった軽装の時は一番的のでかい上半身を狙ってくるのが多い。この男も例外なく、俺の胴体を狙ってくるが、次から次へと俺めがけて繰り出される剣を俺は軽々と避ける。軌道さえ見えてしまえば体を前後左右に動かすことで簡単に避けることができる。
それにしても上半身だけの攻撃しかできないようなのが中堅になるとは、相手によっては新人でもしゃがみながらスイングで攻撃をしてくるのもいるのだ。こうなったらこっちは下半身に攻撃してやろう。
俺は突き出された剣の横を通って距離を詰め、横をすり抜けるようにしつつ奴のひざ下を掬い上げるように蹴り上げた。男は顔面から地面に倒れるが、俺はすかさずガラ空きとなった背中を踏みつけて剣を振りあげる。それと同時に観客たちが歓声を上げたが俺にとってこれは振りでしかない。たかが冒険者が片手間にやるような剣闘士を殺しても何の意味もないのだ。
「まいった。降参だ!」
剣闘士の特権というべきだろうか、俺のような戦わされる奴隷にはない降参という手段によって試合は終了した。
・・・・・
俺は出てきた門から中へと戻る。ほかの奴隷がいる牢屋の区画とは逆、武器庫や物置の部屋があるさらに奥に俺の部屋がある。途中武器を職員に預け、手前にある部屋で服を着替える。そして部屋に戻り、次の日に備える。これが俺の日常である。
しかし、俺はこれでいいと思っている。あの男がさらに強くなって俺に挑んでくるのを待つのだ。何度も死にながら戦い続けていた俺は、何度も戦った相手であれば十分に戦えるだけの技量を得ることができるようになった。そこで俺は数多くの剣闘士たちと戦い、その技術を盗み、さらに強くなってやる。そして、ここでさらに強い剣闘士たちを待とうと考えたのだ。
それから俺はただ、自分の強さと強い相手と戦うことだけを望んだ。強くなることを目標として生き、それを俺の生きがいとしたのだ。今ではこちらの攻撃を全く当てることもできず、ただ殺されるだけだった時が懐かしいぐらいだ。