魔力と魔法
「それで、ここに呼んだのはどういうわけなんだ。」
ここに呼ばれた以上、面倒な話なのは最初から分かっている。それを思い出すと少しイライラするが、とにかくさっさとそれを終わらしてしまおう。
「ああ、それなんだが・・・。」
俺に任されたのは資材置き場に置かれている石材を闘技場の屋上の台まで運ぶことだった。これは先日行われた闘技場主催のトーナメント戦で優勝した剣闘士の像を造るためであり、運搬中に壊れることのないように、石を上にあげてから作り上げるのが普通なのだ。
「お前だったら、身体強化魔法を使えば一気に運べるし、疲れも出ないだろ。それじゃ、今日の夜やってくれ。」
身体強化魔法。これは再生能力とともに俺に身についた能力の一つであるが、この異世界においてはどんな生物でも持っている魔力というものを使ってできる能力の一つでありこれといった特別なものではない。そのため誰でも使うことができるが、効率よく使いこなすというのとはまた別で、体内にある魔力は限られているため使い切ってしまうと気絶してしまうなど身体強化魔法は諸刃の剣だ。つまり魔力というのはあくまで体内にあるエネルギーであり、魔力を大量に持っている者か身体強化魔法を使った戦いに慣れている者でないと十分に発揮できるものではないのだ。
そして、この魔力であるが俺にとってはほぼ無限にあるといっても差し支えがなかった。何せ魔力が減った先から回復していくので普通なら気絶するぐらい一気に身体強化をしたとしても問題ないのだ。そのため、もともと持っている以上の威力で魔法を使うことはできないが、常に最大限の身体強化行うことができるのだ。
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そもそも、ここが異世界にも関わらず言葉の壁がないのは魔法のおかげだ。話は神話までさかのぼるとこの世界ではかつて魔力を使って属性魔法を使うことが可能だったといわれている。その魔法は火や水、木、風など多くの属性があり魔法文明として栄えたが、その魔法によって多くの戦争が行われたという。
それを見た神はこの世界から属性魔法を奪い、代わりにあらゆる言葉を統一して、身体強化魔法と治癒魔法を残した結果今の世界が出来上がったのだという。
これが真実なのが俺にはわからない。しかし異世界であろうと言葉の壁がなく、身体強化魔法以外が使えないというのは事実である。
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とにかく、俺であれば身体強化魔法で休むことなく重い石材を運ぶことできるし、俺の再生能力はケガや死以外では常時発揮されているので、汗をかいても脱水症状なることもないし、体力だって減らないし、疲労だって溜まらない。そもそも俺に拒否権はないのだ。夜になれば俺の思考は石材を運ぶだけになるだろう。