決戦のはじまり
その日は朝から太陽が燦燦と照らしていて清々しい朝だった。
その前日の夜に、偵察に出ていた獣人から公爵と大勢の集団がこちらに向かっていると報告をうけて、村の全員が戦う覚悟を決めていた。奴らの襲撃はほとんど朝に行われていた。暗くなって視界が悪くなれば人間と夜目や気配を感じることが上手い獣人では分が悪いのだ。そのうえ場所は相手の庭といってもいいような場所、集団で襲うので昼のほうが有利になることはなくても一方的に不利な状況ではないのだ。
「来たぞー。」
俺が道の先を見るとかろうじて動くそれを見ることができた。ここに来るまではまだ時間がかかるだろう。しかし、その間にも獣人たちは戦いの配置につく。
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公爵にとってこの戦いで完全に獣人たちの村をつぶすしかなかった。傭兵として雇った者たちだけであれば公爵からの依頼ということで何とか安い金でも雇うことができる者もいる。しかし、正規に軍を動かすとなるとそのたびに金がかかる。
しかし、それだけが理由でもない。今の皇帝に反旗を翻すために金を稼がなくてはならないにも関わらず村を消せないせいで出費ばかりだ。栽培するための植物を買うだけで金がかかったうえ、役人を買収して密輸するのにも金がかかる。そのうえ、年に一度の帝国戦では多額の出費を強制される。そもそもこの帝国戦自体が貴族たちに金を使わせることによって財力を削り反乱を起こさせないようにしようということから皇帝が始めたものなのだ。そして最近では食料や油など必要なものばかりが無くなっていく。治癒魔法師たちについてはもうあきらめた。どれだけの死人が出ようがあの村さえどうにかできればすべてうまくいく。そんな考えで自身を奮い立たせながら道を突き進んでいた。
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姿を現した公爵の軍勢。先制を決めたのはこちら側だ。森を背後にして陣形を整える公爵の軍勢に対して後ろから蜂の巣を投げつける。鎧を着ていない傭兵たちはもちろんのこと鎧を着た公爵軍の兵士たちの兜の中にも蜂が入り込む。
「ええい。小癪な。」
毒はないとはいえ、次々と刺されていく兵士や馬たちは逃げまどい、剣を振り、整えたばかりの陣形が乱れていく。獣人たちには刺されても大丈夫なように毛皮を来てもらっているとはいえ近づく必要もない。ある程度の距離を取り、薪を立方体のような形に切り直した塊を投げつけていく。盾で防がれてしまえばそれまでだが、頭に当たれば兜をしていてもかなりのダメージを負うはずだ。
それから五分は完全に一方的な状況が続いた。傭兵たちは公爵軍の陣形など無視して、こちらに突っ込んでくるが、薪を頭に食らったうえにいくつも追い打ちのごとく投げつけられて動かなくなった。こうして250人ほどいた軍勢ももはや200人ほどの公爵の軍だけである。こちらの戦力が50人と考えるとまだ多いが、全員が手負いの上こちらにはまだ秘策もある。
蜂もまばらになり、態勢を整える前にさらなる追い打ちをかける。正面と後方、森の中に隠れていた獣人たちが一斉に公爵の軍に襲い掛かる。そしてここで次の作戦が行われる。
バシャ!
獣人と軍勢の間で真っ赤な血しぶきが上がる。これはどちらの血しぶきでもなく村の近くで仕留めた獣の血だ。獣の血に浸した布を同じく獣の血で浸した布で覆う。これを勢いよく振れば血をまき散らすことができ、運が良ければ相手の視力を奪うこともできるのだ。ある意味これは経験談だ。俺が重鎧を着ているときに汗が目に入って苦戦することも多かった。それをこれで再現しようというだけなのだが、思ったよりも効果を上げているようだ。軍勢の兜は横一直線に穴が開いたタイプだ。俺が被っていた格子状の兜とは違い、横に飛ばされる血が目元に入りやすいようだ。
しかし、そんな中でもただ一人動じない男がいた。ベン公爵だ。まるでレースのような薄いマントを羽織っていて、蜂が飛び回る中でも暴れる馬から降りて視界を確保しつつ指示を出していった。対応力の高さ、暴れる馬から降り立つ身のこなしに厄介な相手だと直感的に感じる。




