第52話 エピローグ
緊張しまくりながらマンションの入り口呼び鈴を押す。
ガチャリと受話器を取る音がして、
「はい?」
懐かしい声がするインターフォンに俺は呼びかける。
「あの、自分、戸影といいまして以前こちらの方に大変お世話になった者です」
「申し訳ないですがもう…」
「あの、亡くなられたと人づてに聞きまして、あの、突然押しかけて申し訳ないんですけど、位牌とかあるようだったら、手を合わさせて頂けないものかと思いまして」
「あの、ご無理でしたら全然かまいません、断っていただいて結構です」
あのばっかり言ってる俺、はずか死にたい。
向こう側のインターフォンのモニターに映っているだろう、自覚してる自分の怪しさと心臓の激しい動悸で爆発しそうだ。
……
…
だ、だめか…
「どうぞ…」
「ありがとうございます!あの、??階の??号室でよかったですよね」
「そうです、どうぞ」
「あのではまたそちらに着きましたら、はい」
ガーっと聞きなれた音を立ててマンション(賃貸)の自動ドアが開く。
エレベータに乗り込み目的の階に到着、部屋番号を再度確認して、今度は部屋の呼び鈴を押す。
「トカゲです」
「どうぞ、鍵開けましたから」
「失礼します」
ドアを開けて室内に入る。
「初めまして戸影です」
顔を見る、あぁ君はストレスで食べる人でしたね。
顔パッツパツになってますよ、外からは分かりませんが。
どれだけストレス貯めこんだんですか、申し訳ないな。
見慣れた玄関からここでは嗅ぎなれない香りが漂ってくる。
「あの、早速なんですが」
鼻の奥がキーンとして涙が盛り上がってくる。
ごまかす為にも急ごう。
「こっちです」
そうかここに位牌置いてくれたのか…
ありがとう。
「失礼します。
ではお時間いただきます」
菓子折りをそなえ、線香に火をつけて手を合わせる。
涙があふれる。
いろんな記憶がグルグルして頭の中収拾がつかない。
目と鼻と口からあふれ出る液体を手持ちのハンドタオルに吸わせる。
みっともない唸りにも似た音がよだれと一緒に口からほとばしる。
どのくらいたっただろう、涙と鼻水とよだれはやっと引っ込んだ。
ポケットに戻すにはためらわれる物体となった、ハンドタオルをしまう。
辞去しようと挨拶をするとお茶を出される。
今の俺と自分との設定をごく簡単に説明する。
「いや、ウチのの知り合いには珍しいタイプだなとは思って。
そっかそっか、仕事のつながりか」
「大分後になっちゃって申し訳ありません。
色々あって知ったのごく最近だったものですから」
「いや結構あなたのような人多いですよ」
「ホントですか、僕の知ってる方も結構(多分全員)来てるかもしれませんね」
静かに久しぶりのお茶を飲み、ぽつぽつとお互いの近況を話す。
「では…その…この辺で。
あの、また来てもよいでしょうか?」
「えぇどうぞ」
ではまた3日くらいあけて、また来ます。
勝負は始まったばかりです。
1回死んだ位じゃあきらめないから覚悟するように。
マンションを出ると二人の女性が待ち構えていた。
一人はショートヘアの少女、知り合った当時はずっと彼女の学校の制服だったが、今日は初めて見る私服姿である。
やたら活動的な格好をしているが、全体的に引き締まった中にも柔らかな曲線が制服時代には感じられなかった彼女のスタイルの良さを浮きだたせていた。
もう一人は作業着っぽい恰好をうまく気崩してカジュアルな格好をしている。
「終わったー?しかし物好きというかなんというか…」
「元々の身体で奥さんだったから会いたいって今のその体は全然違うモンやないか?」
「元の奥さんだってトカゲさんの事は過去の人になるんじゃないの?」
「そうだな、でも俺は別れた覚えはないからなぁ。
彼女にもほかの誰かも居ないみたいだし、何ならもう1回選び、選ばれても良いんじゃないかと思ってね」
「うーん、やっぱり物好きとしか言いようがないわ」
「そうだな」
「でもそこがいいところでもあるよねぇ」
「はいはい」
「軽いわねーレンさんだってそう思ってると思うで。
多分そこは一緒や」
「いいんだよ、俺の普通はこれなんだ」
「チヒロさんもオジサンからかってないで折角元の世界に戻ったんだから自由にしたらいいんじゃないか?」
「トカゲさんこっちの世界の身体は新品だから、オジサンって見かけじゃないけどね。
なんか高性能っぽいし?詫びチートでも貰った?
あとワタシは!好きでトカゲさんのそばにいるの!
ご心配なく」
レンゼティアとチヒロさん、シュティーナはいつの間にか仲良くなってレンゼティアのことをレンさん呼ばわりである。
特にこっちではそうで、レーラさんも「レン様」と呼ばされている。
仲が良いのは結構なことだがナビゲイルが口を濁すところを見ると、なにか不純な協定を結んだ気がして仕方がない。
聞いてみてもとぼけ切るのは分かっているので聞きはしないが。
憤然とするチヒロさんに頭をかいてごまかす。
「新しい身体、高性能は良いんだがアオアカシロみんな連れてるから見た目いかついよなぁ…」
…何を言う、我らを置いて、行かせない…
…そろそろ腹が減ったぞご飯はまだか?…
…いつでも、いつまでも一緒、とりあえずはそれでいい…
20代半ば位の男性で190㎝近い身長に、太って見えさえする筋肉量、両腕にある赤と青の文様はまるっきり刺青だし、頭も前から後ろにかけて白髪になって辛うじてサイドが黒で残っているため余計に色黒の肌と相まって大変な格好になっていた。
ようはとてもじゃないが堅気の格好じゃない。
「そうそう、あのDMキリア、垢BANのうえ、降格だって!」
「そうか…」
「あらら反応薄い、もう恨み忘れちゃった?」
「そうだな…やられたことは忘れちゃいけないし、許せないとやっぱり思うよ。
俺が奴にやられたことは俺にとってはひどいことだ。
感情が折り合いつかないのは当たり前だろ。」
「でもな、話が付いた件を蒸し返しちゃいけない。
奴の不正に巻き込まれた件の個人的なケジメはつけたから、あとは公式にお任せさ。
そっちの方でも処分があったみたいだし俺に関してはこの件はおしまい」
「ふーん、そんなもんか、まぁトカゲさんがそういうならそれでいいけどさ」
「大体俺はこれからどうしようか考えるのに手いっぱいだ。
恨み辛み言ってる暇なんかないんだよ」
「そうねーアタシとトカゲさんの未来の方が大事よね」
その未来はあんまり考えていないと言う訳にもいかないだろう。
「あ、用事終わったからレンさんこっちに来るってメール来てたで」
「あ、そういえばこっちにも遊びに来たいって言ってたね」
「あー俺にもそんなメール来てたな、いつ来るかまでは聞いてないが」
「今じゃよ、出迎えご苦労」
人が居ないはずの空間にいきなりピンクの髪をくるくるさせたゴージャスな美女が湧い…ゲフンゲフン現れた。
足首まで届くロングスカートの黒髪メイドを従えて…いやいや出迎えも何も絶対ここ狙って転移してきたでしょう。
「ふむ、我が背の君が居るところ目掛けて跳んだからの、出迎えられるは当然じゃな」
レンゼティアが胸を張り、揺れる乳房にドキリとするが、その彼女の胸元に黒い爪大の物が光っている。
もちろん俺の首元にはピンク色の似たようなものがくっついている。
「で、ユートの新しい雌漁りは上手く行ったのかのぅ」
「新しいって人聞き悪い…あっちが一番古いの!大体俺は誰にも手出ししてないでしょうが」
「魂があの世界でリザードマンになったからには生まれ変わったということじゃよ。
こっちの世界では元々のお主の身体は弔われておるからには戻すすべはないのは明らかじゃ。
心置きなく新しい人生を歩めばよいと思うぞ?」
ほら見なさい、と言わんばかりの顔をしてフンスと息をするチヒロさんを横目にしつつ
「まぁ好きにさせてもらってるのはありがたいけどね…」
元々の力関係考えれば俺の行動の自由はレンゼティアが認めてこそだ。
例え元の世界に戻ったとしてもそれは変わらない。
『この際じゃから妾と釣り合う格に作り替えるかのぅ』
とかいって、今の俺の身体はかなり高性能になったようだ。
見た目だけは人間だけど中身はリザードマンに変身できるし(実はこっちが正体)、Lv引継ぎボーナスやら、取ってきた俺の身体の材料が高性能だったりでとてもじゃないけど普通の人間とはいえなくなっている。
「正妻が度量を示すのは当たり前じゃ、お主はお主の好きにすればよいのじゃ」
「そうそう好きにしていいのよ?」
「うん、ありがとう」
2人からくる好意は純粋にとてもありがたいと思う。
何故俺なんだ?とは思うが。
「率直な賛辞は快いのぅ。
では何かうまいものが食える場所に連れて行くがよいぞ」
「あ、アタシもアタシも!」
「ウチもいきたい~」
「たまには給仕されるのも悪くないでしょう。
では参りましょう」
まぁそんなことならお易い御用だ、元のウチの近所でも評判の洋食屋に連れて行くことにした。
「そうそう、お主の新しい仕事じゃがの、妾が忙しくなってきた分、妾の代わりにダンジョンの管理人をしてほしいのじゃ。
あっちとこっちを行ったり来たりになるがの」
「あ、ワタシはトカゲさんの補佐でいいよ」
「それ、俺が管理する必要あるか?」
勇者がDM代行するのは別に問題ないのだろう?アレは半分以上神様みたいなものだし。
「いやいや組織の運営ってことに関しては、絶対トカゲさんの方が適正あるよ!
ていうかワタシに運営とかムリムリ。
気軽にお手伝いが相応だって自覚してまーす」
「まぁ報酬としてこっちの生活に十分な金銭を渡す口実だと思ってくれてよい」
「そういうことか、じゃあ仕方ない、というかありがたい、その話受けます」
「まぁウチは優良運営が売りじゃからの、心配はいらんぞカンパニーマン」
「そこは信頼しているさ、じゃあ今後ともよろしく」
生まれ変わって元の世界に戻ってきても社畜はやめられないっぽい。




