第45話
「シュティーナーーーー!!
お前が連れてきた伴侶ってのはこいつか!」
感慨に浸っているといきなり後ろからどつかれそうになった。
誰だか知らんがその程度の不意打ちレーラさんの特訓を潜り抜けた俺に通じると思うなよ。
レーラさん正面に立っているのに後ろから打撃とか平気でやるからな、どういう理屈かわからない攻撃って怖いよな。
まぁこの程度で俺は倒せないってことだ、ある程度以上の強さの相手だと俺の攻撃力不足がたたって持久力勝負になるんだが。
こいつは倒せる、シュティーナはびっくりした顔をしているし水の主のDMは静観の構えかニマニマしているだけだし。
殺しはしない体術発動、しめ落として終了だ。
で、こいつ誰な訳?シュティーナにいい寄ってる男の一人って訳か?
大人しくなった白いリザードマン?を眺めているとやっと声が出るようになったシュティーナが声をかける。
「おとん!いきなり何するんや!
その上あっさりのされよって格好悪い」
ん~ひょっとして見届けてから声をかけたのかな?
まぁシュティーナらしい。
それにしても白いリザードマンが父親とはどういうことだ?
などと俺が考えていると。
バタバタと鱗人の女が走って来た。
「ん、もう折角娘が男の人連れてきたっていうのに、話聞いた途端走っていきよって!
ってあらら伸びてるわ。
えらい強いんやねぇシュティーナの旦那は」
「旦那と違いますが貴女は彼女の母親か何かでしょうか?
それとこの方が父親?」
「そうよ~旦那と違うんなら何なんやろ、アンタうちの娘とどんな関係やのん?」
「なるほど、シュティーナはリザードマンと鱗人の番の子ということですか」
「そうや、だからウチが兄さんを気に入ったとしても何の不思議もないんや」
シュティーナがイヤに抵抗感なく俺に好意を示してくると思ったがそういう訳か。
シュティーナの母親が水魔法を唱えて父親に水をぶっかけると目を覚ました父親が俺をみて、
「よくぞ俺を倒したな、シュティーナと番になること認めてやる、皆の衆もそれでよいな?」
と後ろにゾロゾロといたシュティーナ目当てであろう男衆と、野次馬の物見高い女衆が何事か言いながら散っていった。
全員ざっと見ただけで野次馬の中にはそれほどずば抜けて強いのはいないみたいだった。
背中にはDMの強烈な気配に紛れて何体か手練れがいるような感じがするが。
「あんな体術で絞め落とされるなんて珍しい」
「黒くて素晴らしい身体をしているけど、首元にもうピンク色の鱗が嵌っているみたいだけど?」
「キャーやぁだ略奪して旦那にするの?それとも身体だけの関係キャー?」
「やぁねそんなことしないわよ、だからそんな顔しないでシュティーナ」
そう言った声を聴いたところでシュティーナに顔を向けた時に一瞬だけ見せた表情は嚇怒の表情だった、コエー。
賑やかな野次馬の群れが去って俺と水の主、そしてシュティーナ親子が残された。
「ふぉふぉ、そういえばあの方の伴侶のお披露目にここに寄ると聞いたが、連れてきたのは我が愛し子よな、両方でも構わん構わん、強い子をウチのダンジョンに授けてくれるならなぁんも言うことはないわえ」
度量が広いようなこと言われたけれど、種族によっては多夫多妻だったりもするから何とも言えないよなぁ、困惑しきりの俺に、
「あとは家族水入らずで話でもするがいいわぃ。
明日くらいにもぉ一度寄っておくれ、使いの品を渡すでなぁ」
ということで、シュティーナの両親が主に使っている居住窟に案内された。
居住窟というのは洞窟内の大広間の壁面に許す限りの横穴を開け、家族単位で暮らせるスペースを作ったものである。
その中の一つに俺は案内されたのであった。
「いやぁ強い強い!参ったわ。
さすが我が娘が連れてきた男なだけあるわい!
俺はテアローゼ、このダンジョンの百士長をしている。
そしてこっちがヨメのシアロール、子がシュティーナだ」
「ユートリアです。
今回はこちらのダンジョンマスターに依頼の書簡を届けに参りまs」
「よぉし今晩は呑むぞぅ、シアロールいいよな?」
家長の席であろう奥まった場所に半座りすると、
「おとん声大きい、それに結婚とかそういうのはこの人がまだその気になっていない」
とたん半目になったテアローゼが
「おい俺の娘の何が不満だ。コラ」
まだ一滴も飲んでないうちから絡んできた。
全く、この親父は娘を嫁に行かせたいのか、行かせたくないのかはっきりしろよ、まぁ父親の気持ちってのもわからなくはないんだが。
「娘の行商に付き合って一緒に旅をするくらいの仲ってことは少なくともお前はその気なんでしょう?シュティーナ」
お茶の支度をして席に着いた母親に、
「そうなんよー。
ま、待ってるのもこれはこれで楽しいんやけどな~」
「まぁウチの娘ったらすっかり大人になって、おほほほ」
あれぇお母さんからもプレッシャーを感じる、なぜだ?
その晩のテアローゼ家の食卓にはシアロールの心づくしの料理が並んだ。
一家は娘の帰郷と、誤解ながらその婿取りをを喜んだ、誤解だからな。
もっとも俺は酔っぱらったテアローゼにずいぶんと絡まれたが。
接待の宴席じゃないんだからとも思うが、好意でからんでくる相手を邪険に扱うのもなかなか難しいものである。
それでも俺は久しぶりの一家の団らんに混じり、泣きそうなほどの感動に目を潤ませたのだった。
気が付かれていないといいけれど…
翌日飲みすぎて朝寝を決め込んだテアローゼを放っておいて、俺達は依頼の品を手に『名もなき森と川の平原の洞窟』を後にした。




