第40話
ある程度街から外れて人目につかない小島に着いたのを確認して泥の海から上がる。
水の精霊にきれいな水を出して貰い身体についた泥を流した。
身づくろいをしてしばらくすると、最近聞きなれた馬車の音が聞こえてきて、なぜか荷台からここにいないはずの人物の声が響いた。
「あーーーーー!」
何と『勇者ミサキ チヒロ』がシュティーナの馬車から飛び出してきたのだ。
「チヒロさん!どうしてここに?
あ、そうそう君のおかげで生き残ることが出来たよ、ありがとう」
「生きてた!トカゲさん生きてたよ!」
飛び上がって首にぶら下がってはしゃぐチヒロさんの頭をなでながら尋ねる。
「あれ?言葉が通じる、どうなってる?」
「うん、色々冒険とか調べものして何とかした!」
何とかした…そんなんで何とかなるものなんだろうか…さすが勇者…
「ナビちゃんはおだまり」
何か無理してそうだ、あまり聞かない方が良いのかな。
あと、聖剣との関係も相変わらずのようだ。
「いやぁアルスークの古迷宮で爆発みたいな音がしたって聞いて、嫌な感じがして調査に行ったら、ダンジョンが消し飛んでるの見てすっごい心配したんだからね。
というか死んだと思ってたわ、あははははは、よかったよぅ、心配したんだぞ。
心配…した…ふえ~ん」
笑い泣きしながら抱きついてくるチヒロさんと、お互いの最近の事情を話す。
チヒロさんは崩壊したダンジョンの調査隊に混ざっていたようだ。
俺の姿が見つからなかったので、範囲を広げて(ちょっと広げすぎな気がする)捜索していたらしい。
シュティーナがすごいジト目でこっちを見てくる。
「とりあえず自由行動はできるのね、それで情報収集にあちこち回ると。
それ当然アタシもついて行っていいんだよね?」
「そうだな、ダンジョン攻略が主な行動になるから力を貸してくれるとありがたい」
「よっし、まっかせなさ~い、そうと決まったら色々準備しないと」
「ところでアタシ自分の能力の詳細知らないんだけど、トカゲさんの能力と併せて教えて?」
耳に口を寄せてコッソリと言うチヒロさんはくすくす笑いで「内緒だからね」と以前Exスキルに関しては漏らさないと約束したことを覚えているアピールをした。
そして寄せられた口元が耳元から離れるときペロリといたずらのように顔をなめていった。
「忘れんといて~うちもいるんよ~
秘密のご注文の品のお届けやでぇ~」
シュティーナに俺が頼んでいたもの、それは実はパンツだ…
獣人なんかも普通にいるこの世界、尻の真ん中に穴が開いたパンツも珍しいものではないらしい。
なんということだ…!
腰巻?ふんどし?ふんどしの四隅に紐があって片方はしっぽに結び付けて反対側の一組を腰に結び付けて余った布を前に垂らして局部を隠す造りになっている。
「履き方が判らんでも困るやろう(ニヤニヤ)」
というのはむかつくが分かる、だがしかし!
お前絶対分かってやってたろう。
チヒロさん、今まで平気だったろーが!
大体指の間ばっちりあいてるじゃねーか。
若い女性に俺は着替えを鑑賞されるという辱めを受けた後、太いベルトで両脇に振り分けた鞄を腰に付ける。
ワニ革の大型の鞄を腰の左右につける丁寧な仕事の一品は短時間なら水もはじくだろう。
あとはフード付きのマント、フードがちょっと使いにくいが、俺の顔は前に長いからな。
むやみに他人を驚かすこともないだろう。
布製の軽めの素材でできたそれは足元まで隠す。
「悪役っぽい…」
「まぁまぁええんとちゃう?」
とは二人の弁だった。
最後に約束の地図とこまごました物を受け取って取引終了。
俺に見えるステータスをチヒロさんと自分の強化無しの素の状態の分を申告した結果。
「ちょっとトカゲさん弱すぎぃ。
まぁまずは装備で何とかしてみようか…」
「本気出せば割といけるんだけどな」
「それ油断してやられるパターンよ?気をつけなさい」
ですよねぇ~
「ちょ、ちょうと、そんなことウチの前で喋ってしもうてよかったんか?」
「ふむ…俺達の言葉が判るものというのはどのくらいいるんだ?」
さすがに街の外だし俺達の他に聞いてるものはいないだろう。
「色々事情があってトカゲ語が判るのは鱗人には結構いるで?」
「全く、使い方を間違えなければ大金持ちになれるスキルかもしれんけど…」
「下手したら監禁されて薬漬けにされてるで、ホンマ気ぃつけや!」
「という割にはなんか顔がほころんでるのはなんでだろうな?」
「やかまし!これからのこと考えて興奮したからや!」
まぁいいですけどね、それならそれで。
UCとLR格差ありすぎ問題。
ホント、並みとチート比較したらダメだよなぁ
マッパからパンイチになったといえ、防御力が不足してるし武器も棒しか持ってないのは不安だ。
シュティーナだって護身用のナイフと鞭を持っている。
俺の装備品が大分不足しているということで、とりあえず街に戻ることにした。
「俺、人里に真っ当に入ったことないけどどうするんだ?」
「ウン、ウチもどうやって入ったもんか思いつかなかったんよ」
「だぁ~いじょうぶ!任せなさい!正面から堂々と入って見せるわ」
いよいよ街に入る段になってチヒロさんはおれの背負ってるバックキャリアに乗ると肩に足をかけてくる、いわゆる肩車の体勢を取って乗ってくる。
「はい、トカゲさん上体倒して、肩車してお馬さんやって~」
そして俺が高速移動形態体勢をとると蜥蜴騎兵の出来上がりだ。
「なるほど、騎獣扱いで入ってしまうのか」
「どうせトカゲさんトカゲ語で話してれば普通の人には判らないからそういう扱いで。
宿は何とかアタシの部屋に入れちゃうから」
「そういうことなら馬小屋でもいいぞ?どうせ長居しないだろうし」
「ウチの部屋でのんびりしててもええんやで?」
「そんなのだめに決まってる」
「もうまた言い合いしてー、今は仲良くしなきゃだめなのと違う?」
「え?アタシと一緒の部屋が嫌だってこと?」
「そんなことは言ってないだろうが。
大体宿屋の方は俺を部屋に入れるって言って入れてもらえるのか?」
「じゃあ大丈夫だったら一緒の部屋で決定~」
自信ありげにムフフと笑うチヒロさんに、まぁ協力者との仲が悪いよりはいいよなと思いなおした。
「あぁ、まぁ、うんありがとう、こっちに来て初めて人並みで休めるよ」
滞在中、宿屋では変わりばんこに枕にされたとだけ言っておく。
久しぶりにちゃんとした食事をし、寝床で休めた俺は調子が上向いている。
ちゃんとした料理を食べたのもこの世界に来て初めてだ、塩気は偉大だ、うん。
「まぁこっちの人並みって元の世界に比べると…って感じだけどねぇ」
「そうなのか」
「そうねぇ、魔術がある分こっちの方が快適な部分がない訳じゃないけど、全体的にはね、かなり昔の感覚かも」
チャッチャッと石畳を爪でかく音を立てる俺の背にまたがったチヒロさんはフムフムと頷きながら、
「あれだね、これ鞍何とかしたらかなり快適な予感…装備品で作っちゃってもいい感じ?」
「そうだな、リザードマンが居ることが一般的でないなら騎獣として誰かの管理下にあるとアピールするのが手っ取り早いだろうな。
管理しているのが勇者ならば申し分ない…か。
いいよ、任せる」
「やたっ!じゃあ馬装扱ってる店にも寄らなくちゃ」
なんだかすごいやる気に満ちている。
そんなに俺の背中が快適なんだろうか。
街の中に入ってあまりにも俺の装備が貧弱なので、鍛冶屋や職人の所を回ってチヒロさんが特急料金を払って3日で誂えたのがこの装備だ。
さすが勇者。
<聖銀の額あて
額から内側に寄った菱形の装甲を付けた兜。
直立時と高速移動形態時両方で支障が出ないように額あての部分に工夫を凝らした一品>
<蜥蜴騎兵の胴鎧型鞍
騎乗されるリザードマンの胸部分に振り分け式の鞄がぶら下がっている。
直立時と高速移動形態時、両方で騎乗しやすいように、鞄のついたベルトと鐙の配置に工夫が見える>
<聖銀の丸盾
丸い形をした使いやすい盾。
盾裏のグリップから3本爪が出ていて武器としても扱える>
鞍の完成に、チヒロさんも大喜びで練習と称して俺の背にまたがって走り回らせた。
こいつは俺が直立していても、高速移動形態になったとしても、肩車した騎手が鐙を使って離れないような仕組みになっている。
特にチヒロさんは運動能力が高い為、芸人顔負けの聖剣の取り回しを見せた。
俺も武器の習熟に努め、対手をやってくれた勇者のおかげでぼこぼこにされた(強化も使ったけどダメだったよ、なんだあのバケモノ)。
チヒロさんと二人でコンビネーションの練習をしたりもした。
おかげで気合入れれば泥の上でも走れるようになった。
もちろん足が止まると沈むけどな。
新しいスキル、それもExスキルを習得した。
<Exスキル リンカー
異世界からの転移者2体が一定の信頼関係に達すると取得することが出来る。
片方の特徴がもう片方に作用することが出来る>
「おぉいろんな色の丸とかマークが見える」
これを叩いたりよけたりする訳だ。
これは便利だ、勇者が強いのもよくわかる。
「うわあったかいのとか冷たいのとかが見える、これはすごいわ」
「ほうこれは凄いのう、新しい奏者が入るとこんな効果があるとは。
全天周マークだらけじゃ」
ん?聞いたことのない声が聞こえるぞ。
「誰だ?もう一人声が聞こえる?」
「ん?まさか儂の声が聞こえるのかのう…?」
「もしかしてナビゲイルさんなのか…?」
「やや!ワシの声が聞こえるようになったか、これはこれは!
ナビゲイルという剣神の端くれじゃ、よろしゅうな。
主ともどもよろしく頼むぞ」
「初めましてユートリアです。
今後ともよろしく」
「おぅこれはご丁寧に、痛み入る。
まあ、積もる話もないではないが今は能力を使いこなせるようになるが肝要。
さぁこれからは主とともに参ろうぞ」
装備が出来て、武装の習熟も一通りこなすことが出来た。
さぁ一旦レンゼティアの所に帰ることにしよう。
「なんか珍しい素材が取れそうな予感がするからうちも連れてってぇな」
シュティーナが仲間入りを希望してくる。
「それは俺たちの仲間になるってことでいいのかな?」
「そうや、ウチを仲間に入れてください」
「俺たちには秘密にしなきゃならないことが多い。
今から説明することがその入り口になると思う。
ここから先に踏み込んだら戻れないと思うけどいいのかい?」
正直彼女が仲間になってくれるのはうれしい。
実際は俺の子種が欲しいとは聞いてもいるけれど。
愛情とはまた違った求愛だと本人も言っていた。
それは好意も多分に含まれた気持ちではあるだろう、ただ気持ちははうれしいが彼女たちと男女の関係になる気は今のところない。
「その気になったらいつでも言ってや~待っとるでな」
シュティーナはそういって俺たちの仲間になってくれた。
チヒロさんとナビさんはもうとっくにお互い仲間だと思っていたっぽい。
「一緒に帰る約束だし」
「ワシは主の居るところが居場所じゃからの」




