第39話
~~~~~~~シュティーナ
いやぁもうかった!もうかった!
ちょうど不足物資を納入出来たらしく納品した荷物は2割増しで買い取ってもらえたし兄さんが倒したワニ、聞いたこともないような高値が付いたわ。
なんせ皮に傷一つないもんなぁ、素手であんなん絞め殺せるなんてどんだけやねん。
肉にも変な傷がついてないからこれもびっくりするような値段がついた。
この都市は沼地に囲まれているから魚はよう採れるが、動物の肉が常に不足している。
そこに最高級のワニの肉が投げ込まれたらどうなるか。
まぁ軽くパニックやな。
自分達で使う分を確保する手続きをとると入札しようのなんのは面倒極まりないのでギルドにさっさと売買権を譲る。
「ほんじゃあ後よろしく~精々儲けたりやー」
「おいおい、いいのかよ。
軽く倍にはなるぞ」
ギルドのマスターはそう言ったが振り返りもせず引き替所を後にする。
マスターは戦闘経験も豊富な冒険者上がりだと聞いていたがこういう状況に陥ったことがないのだろうか?
「よう姐ちゃん大分景気がいいようじゃないか、俺達にもおこぼれくれねぇかなぁ?」
「こんな大通りで仕掛けてくるなんてねぇ…」
兄さんの装備品を誂えていい気分で軽く祝杯をあげようと酒場に食事に行ったその時だ。
ウチはつけられていたんやろう。
身を持ち崩した冒険者風の男に囲まれた。
全員手入れの悪い装備で一応身を固めている。
「こんな大きな通りで本気で強盗騒ぎを起こす気かいな?」
もうめったに使わないウチの武器を取り出す。
<スパークウイップ
電撃で相手に追加ダメージを与えるレア級の武器>
「この人数差だ。
バレたってどうってこたぁねぇ!やっちまえ!」
バッカやねぇ、この馬車はウチの城やで?
複数の敵に囲まれても対応できるような隠し武器の1つや2つくらいあるに決まってるやろ。
それにまずはカーゴのフレームを広げて動き回ればまぁ近寄れはせんわなぁ。
取り囲んで一気に襲い掛かってくるのはこっちはウチ一人で対応せないかんから取りつきに来てるんやろうけどなぁ。
御者席にあるレバーを操作して対多人数用の棘やブレードを操りながら敵を近づけないようにする。
「あぁ、こんな時トカゲの兄さんがいてくれたらなぁ」
こぼした瞬間見慣れない格好の人族の女の子が加勢に来てくれた。
「ありがとう、助かる……った…?」
厚手のマントの下は見慣れない服装だったがやたらと派手な剣を持った女の子だった。
加勢の礼を言い終わる前に賊は全員のされていた。
ご丁寧に得物も破壊してある。
腕のたつ奴は世の中居るもんやねぇ…
「ありがとさん、人数多くて往生してたんよ」
「あぁ、大した腕のやつもいなかったからいいよ、気にしないで」
「で、今の話ちょっと教えて欲しいんだけど?いいかな?貴女言ったわよね、トカゲの兄さんって」
「ええとな、これあんまり大きな声で言える話やないんやけど…」
「アタシ探しているのよね、トカゲの兄さんってどんなトカゲかしら」
「いやーただでは話せんなぁ、敵だったりしたら兄さん恩人やから話したりせんし」
「仇じゃないから大丈夫よ」
それにしてはなんか鬼気迫るモノが感じられるのは気のせいやろうか。
「おっけーじゃあ情報には対価で報いるわ、そこの茶屋に入ろ……ただしウソは許さないからね?」
賊の方は警備隊に任せてウチらは放免になった。
なんとこのチンマリとしたお姐ちゃん勇者なんやて!
探していた相手を早々に見つけて嬉しいけどなぁ…
ウン、うちの計画に全くかかわらないことを祈るわぁ。
そんなこんなで
辻の馬番に馬車を預けて茶店に行くことになった。
個室があり密談もできる高級茶店はある程度の大きさの店ならあるものである。
追加料金こみの金を姐ちゃんがポンと払い個室に入ったウチやが、ここ一番いい部屋やないやろうか?
部屋の扉を閉め席に着くと。
「で、あなたの言うトカゲの兄さんとはどんな人?」
…うーわ、すっごいプレッシャー…なに?あの兄さん勇者様の特別な人!?
いやでも首元に誰かの鱗ついてたしなぁ、あれも新しかったで怪しいなぁ~
「兄さんとの出会いはな。
この街に来る途中で、でっかいワニのモンスターに襲われてな、そこを助けてもろうたんよ」
「ふむふむ、体色とか体型はどんなだった」
「体色は黒、オブシディアンやな多分。
ウチはリザードマンにはちょっと詳しいんや。
手から腕に文様が入っていて身長はのウチの頭3つ上くらい?
もうちょっとあったかな、あと額から首くらいまでが白なってる?」
「むぅ…若干違う気がするが、類似点が多い。期待していいレベル」
「ただ次会えるのは3日後やで」
「どうしてよ!ここまで来てお預けを食らうの!?」
ゴーンと効果音が聞こえそうなほど落ち込む勇者。
「あの兄さんに頼まれた装備品が仕上がるのがが3日後やねん。
そのままこの町入れんからそれが出来上がるまで兄さん隠れてるんや。
あちこちひっくり返して大騒ぎにしたら、出てこれんようになるで」
「なるほど、あの風体ではそうなっちゃうわね」
「せやで、兄さん約束破る人やなさそうやし期日まで待ちいや」
ウチはニンマリ笑って、
「3日後に約束してるんやから、ここは折角や。
女として色々磨いてみたらええんちゃうかな?」
と、こうたき付けた。
「なるほど彼に会うに当たって一番美しいアタシを見せる訳ね」
「そうそう風呂に入って磨きこんで香油塗りこんだり、いや待てよ。
あの兄さん匂いのきついのだめかもしれんな。
多分機能的でちゃんと手入れしたものが好きなんやないかしら」
「何故そう思うの、聞いた感じだと何日かしか一緒に居なかったはず」
…こわいこわい!プレッシャー半端ない!…
「装備品の趣味というか志向というか飾りより実用性を重要視してる感じだったで」
「なるほど、そこから自分の分は地味でも機能的なものを選ぶと…」
「そうそう」
「ありがとう、とても為になった。
これはお礼、取っておいて」
そう言うと勇者は金貨を1枚ウチの前に置いた。
うわーさすが『勇者様、支払いは金貨でどうぞ』っていう格言は偽りなしね。
「それでは頼みがあるの。
3日後出発の時はアタシも、連れて行って欲しいの。
護衛でも何でもいいわ。
むしろ同行の礼も支払うわ」
「いやそんな話がありますかい。
勇者が護衛してくれるなんていい話だったら便乗する商人が出そうやし、出来れば他に人がいないって状況で合流したいんで、荷台に隠れて貰うってことになると思います」
「そうか、それならよろしく頼みます。
名乗り遅れたがアタシの名前はミサキ・チヒロ。
面倒だしチヒロでいい」
「っとウチも名乗ってなかったわなウチの名前はシュティーナ。
流しの商人をしてますんや」
「うん!出発までよろしく頼むわね」
「アタシこっちの流行とか分らないし服の見立てとか期待してるから」
いやー話初めのプレッシャーは正直ちびりそうなくらいびびったんやけど、
名乗ってからは顔つきも柔らかくなってまずは若い娘さんらしいものに変わった。
まず服屋、流行りの服でそう派手でない装いの一着を選ぶ。
質素かつ目利きが見ればわかる素材をふんだんに使った一品。
動き易さも抜群である。
洗濯屋、さっきの服屋の隣にあるその店に、着替えた珍妙な服とマントを預ける。
これで一日が終わり。
チヒロさんのおごりということでこの街の最高級旅館に泊まる。
置いてある花瓶だけでウチの商い2年分は吹っ飛ぶんやけど、さっすが最高級宿、調度品に安物がない。
ウチの目利きが上がった気がする。
翌日、まずサウナに行く。
チヒロさんは十分に汗をかいてあかすりで全身を磨き上げる。
店のばぁさんに金握らしてピッカピッカにしといて~と頼んでいたから大丈夫やろ。
ウチは次の街での交易品の購入や。
塩やらなにやら調味料を一通り買ってきてくれとか兄さんは言ってたけどな。
ウチの馬車の簡易キッチンで料理するんやろか。
ところでこれで兄さんの胃袋掴んだら子種の一つも貰えんやろか。
あの強さのリザードマンはありえへん。
絶対なんか隠してるに違いない。
その力を受け継げばきっと強い子を孕むことが出来るはずや。
我が一族は産めよ増やせよ溢れ出よがモットーなんや。
ウチはまだ一回も産んだことないけどな。
夕方までかけて全身を磨き上げて昨日買ったおしゃれ着を着たチヒロさんにはナンパがブンブン寄ってきてうっとおしい。
ウチには一切よって来やしまへんけど、面倒がなくてええこっちゃ、まぁ鱗族の中ではこれでもなかなかのものなんやで?
チヒロさん怒ると眼力めちゃめちゃ強いんで、寄ってきたナンパ衆も軒並み退散していったわ、ざまぁ。
洗濯屋に預けた服もいい具合に乾いていた。
いよいよ明日出発や。
まともなベッドに寝るのはしばらくお預けになるんやからちゃんと寝とかんとな。
最高級のマットを使った寝床はウチみたいな根っからの市民には余計疲れそうやけど根性で寝る、おやすみなさい。
3日目、いよいよ完成した兄さんの装備品を積み込んで出発や。
人通りが出ないうちの早朝に出かける。
装備品の店にはちゃんと断りを入れて早めに取りに行く連絡入れてあったからスムーズに受け取れたで。




