第36話
しばらく俺の攻撃を受けていた彼女が
「少し、昔話をしましょう」
いや余裕たっぷりだなぁ…
こっちは必死で攻撃しているのに、槍を片手で俺の攻撃をさばきながら、無駄話をする余裕があるんだもんなぁ。
さっきの自信はどこ行った、全然通じないじゃねぇか。
「私はほんの幼いころ、両親と、一緒に幸せに、暮らしていました。
今でも、夢に見ることが、あります、優しかった、父と母のことを…」
「そんな、ある日の、ことでした、私達の、集落が、襲われました」
「同一種族が、暮らす、集落を、襲うのは、集落にいる、自分達とは、違う種族に、決まっています」
「あの時、私達の、集落を、襲ったのは、どんな種族だったのでしょう」
「人間族か、それとも、ほかのモンスター種族か…」
「ひょっとしたら、貴方たちのような、リザードマン、だったのかも、しれませんね」
話の合間にレーラさんの攻撃をかいくぐろうと目いっぱい伏せた態勢で突撃しようとした俺だったが、ピキンと俺の持つ棒をはねのけ、喉元に槍を突き付けられる。
「ちょ!刺さる刺さる!むしろちょっと刺さってる刺さってる!」
「父は、村の戦士だったのでしょう武器を持って戦いに出ました。
それっきり会っていません。
多分、死んだものと思われます。
あ、もちろん今のは姫様の鱗は外していますよ?ふふ…」
微笑みながら俺の喉元から槍を外し、
「さてそれではこちらから攻撃しますので。
もちろん目いっぱい手加減をして差し上げますよ」
「でも受け損なったり避けきれなかったら当然怪我をしてしまいますね」
「そうですね安全の為、私も木製の武器に換えることにしましょう」
「槍と剣とどちらが良いですかねぇ」
「こちらの槍なんかよさそうですねぇ」
「よろしいですか?では参ります!」
歌うように独り言を言いながら木槍を選んだその語尾に、重ねるように小さな気合を乗せたその一撃に俺は全く反応できなかった。
見えるところから見えない攻撃をされた時、俺は硬直して動けなかった…
これを何とかしないとならないのか、俺死んじゃいそうなんですが。
「今のは反応できませんでしたね?
少しずつ難易度を下げていきます」
「反応できるようになったら今度は徐々に難易度を上げて行って、最後は今の攻撃に反応できるように致しましょう」
「では参ります、怪我はさせないつもりですが気を付けて」
話の通り徐々に難易度が下がっているんだろうが、俺にはあんまり差があるようには見えなかった。
しばらくレーラさんの攻撃を寸止めで受けていたがやっと、本当にやっと一撃受け止めることが出来た。
まぁ彼女が言うにはここがスタートらしいがそれでもちょっとうれしかった。
こうして何回か同じくらいの難易度の攻撃をちゃんと受けられるようになると、
「よろしいですね、1段階上げます」
の声とともに少し攻撃の難易度が上がって行く。
「そういえば、先ほどの話の続きですが、集落を、追われ、傷ついた母親と、小さな女の子の、二人は、あてど無く、彷徨うことになります」
「食べ物に、ありつくことさえできず、人間、異種族、の両方に、追われる、立場と、なった私達、母子。
私たちは、どうすれば、よかったのでしょう…」
「そして、ついに、破滅の時が、来ます。
どちらかが、どちらかを、犠牲にする事で生きながらえる。
そんな、絶体絶命の瞬間です」
「衰弱していた二人、体が大きい所為で、衰弱の、仕方が、激しい母親は、本来の、力であれば、私など、一撃で、殺して、食らうことが、出来たでしょう」
あの、攻撃の度、息が切れて喋るのが途切れ途切れになるのは分かるんですが手加減の方どうなっていますか?どうぞー?
「よろしいですね、1段階上げます」
「答えは、私が、ここにいることで、お判りでしょう」
「幼い、私は、母の骸を、引きずりながら、また彷徨い始めます」
「腐ったところは、虫が食べてくれます、私は、比較的ましなところを、口にすることで、幾日かを過ごします」
「やはり、あてどなく、さまようには、大変な苦労があります、数日たつと、母の躯も、大きな鳥に、襲われ奪われます」
「荒野を、さまよい幾日たった、ことでしょう」
「よろしいですね、1段階上げます」
「やっとの、思いで、たどり着いたのは、荒野のど真ん中とは、思えないほど、清涼な水をたたえた泉でした」
「私は、その泉に突っ伏し、貪るように水を飲み、満足した途端、失神するように、眠りに落ちました」
「偶然ですが、発生したばかりの、ダンジョンに行き合わせ、初代制覇者となった私は、莫大な力を、手に入れることになります」
「よろしいですね、1段階上げます」
「気が付いた時、私は姫様から、介抱を、受けていました」
「姫様の、介抱は、私が、最初に、受けたのです」
「姫様は、傷つき死に瀕したもの、行き場をなくして、さすらっているものを拾い、介護するのがお好きなようです」
「幾体もの、モンスターが傷つき、ここで癒されて、住むことになり、泉はどんどん、領域を、広げていきます」
「そうして、いつの間にか、ここは『常春の花乱れ咲く森の迷宮』、等と呼ばれるように、なりました」
「よろしいですね、1段階上げます」
「全快状態で、自分の強さを見せつけ、自分をアピールする、はずの、DM間のトレードで、傷だらけで、息も絶え絶えな、様子の貴方を、放っておけなかった、の、でしょう。
姫様は、即決の、価格で、貴方を、引き取り、ました」
「そしてそれからはすべての業務を放り投げて貴方を介護します。
過去、例になかった程、手厚くです」
「あまつさえ快方に向かった貴方と首の鱗まで交換する…いいえここから先は貴方が自分で調べることですね、手合わせに集中いたしましょう、よろしいですね、1段階上げます」
集中も何もアナタ俺の防御ギリギリを攻撃し続けながら一人で喋ってただけじゃないか。
逆に集中された方が細かい力加減に注力できてよりギリギリの攻撃が俺を襲うってか?
冗談じゃないが、今は俺も集中して防御に徹するしかない。
「よろしいですね、1段階上げます」
何度聞いただろう…
体温が上がって動きが鈍くなるかと思ったが、レーラさんの魔法で身体を冷却するとまた訓練を続けた。
この後ひたすら特訓し、よっぽどの相手が来なければ倒すか逃げるか出来るんじゃないかというところまで錬成した。
レーラさんが使う搦め手の対応の練習がかなりきつかった。
途中で俺が水の力を使ったら、レーラさんは冷却魔法をかけてくれなくなったし。
ガッ!と音を立ててレーラさんの攻撃を受け止めた俺に
「よろしいでしょう、本日はここまでにしたいと思います」
拙いながら左腕をフル回転させ頭部で風をまといひたすらに攻防したので、気力切れ寸前と運動による体温上昇で息も絶え絶えとなった俺は、湯気を上げてその場で突っ伏した。
技名エアコンに開眼しそうな勢いで水と風を巡らせ何とかしのぎ切った。
おかげで体力気力共にカッツカツになった俺に、体力回復と冷却の魔法をかけてくれたレーラさんは背を向けると、
「それでは最後に今の私の最大威力攻撃をご覧ください」
「いずれ貴方はこれ以上の攻撃にさらされることがると思われます」
「私がこのダンジョンを守る為の一助となれるよう、必死になって習得した一撃」
「これを避けるか受け止めるか、どうにかして防がなければ貴方の命はそれまでとなるでしょう」
そして俺はレーラさんの技の一つを見せてもらった。
周辺の地形が変わりかねなかったであろうその一撃は、木でできた槍が砕け散ったことによって不発に終わったが見ただけで分かるヤバさだった。
あんなのくらったら、俺は消し飛んでしまうに違いない。
あれを受け止めるか躱すかしろってか。
いずれ訪れることになる必ず立ち向かわなければならない試練の時。
その備えとして、最後の最後の一撃が出来る力を身に着けるため、厳しく練磨をしなければいけないと感じる。
ただなぁ、俺には武の才はないらしいんだよな、困ったことに。
だいたいにして俺に適合する武器はこの棒だしなぁ…
でも、いい棒なんだよな、これ。
俺の手にしっくりなじむ良い棒だ…




