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第35話

価値が判らないものを貰っても喜べない…

価値が高いものだから喜ぶわけでもないだろうが。


「まぁ、これでお主が願えば妾のもとへ飛んでくる、転移まがいのことが出来るようになったぞ。

 どんなに離れていてもお主は妾の元に戻ることが出来るようになった訳じゃ。

 妾がそなたの所に行くことも出来るしのぅ」


ほう、瞬間で移動ができるならば帰りは楽だな。


「では…光栄です、感謝します」


「意味を知らんのは真のようじゃのう…まぁよいわ。

 意味を知って驚きたまげるがよいわ」


「え、そんな大変な意味があったりするんですか、コレ?

 教えてくださいこれにどんな意味が?」

 

「いやじゃ教えぬ。

 さっさと怪我を治して方々聞いて回るがよい」


ぷいすという態度でそう言ったレンゼティアの含みのありそうな顔を見る。

レンゼティアの側近として、先ほど目をむいたことなどなかったように平静な様子を取り戻したレーラさんに目を向けたが、それに気づいた彼女は首を横にフルフルとしただけだった。


レーラさんはレンゼティアさんに絶対服従に見える。


いや、何となく、本当に何となく意味に見当はつくのだ。


「分ってるくせにぃウリウリ」


ってされても


「お…おぅ」


と答えるくらいには分かってはいるのだ。

だが、なぜそうなったのか全く見当がつかないので、口に出す勇気が出る訳もなく。

色々問題がある事案は一旦保留だ。




俺が体力を回復しながら日を送りつつ、何となく今後の身の振り方を考えながら過ごしていたある日。

レンゼティアが自分と仲の良いDMと集まるということで外出していった。

レーラも連れず単独で。


留守を預かる総責任者はレーラが勤めることになっていて、それに誰も文句は言わないし、その指示には素直に従っている。

こちらに指示を貰いに来た連中に値踏みのまなざしを向けられたり、胡乱げな表情をされていた俺だった。


レーラも幾ら下半身が蛇のラミアといえど、より大きなユニットも多数いる中あれこれと指示出し、指示された方も素直に聞いているのもなかなかに興味深い眺めだった。


と、そんなこんなでやっていれば仕事も尽きる物、それも一段落ついて手すきになったらしい。

健全な労働、いいなぁ。


遠い目をしてそんなことを考えていたら、何かが彼女に通じたのかこちらに目を向けると、スルスルと下半身をくねらせながら近付いてきて俺に声をかけてきた。


「ユート様、お暇でしたら手合わせでもいかがでしょう?」


「ここに来てからずっと療養していますし、今貴方がどのくらいの動きが出来るか、色々な効果が貴方にもたらされた結果が、どれほどのものか確認したくないですか?」


「今のこの状態が完治しているかどうか、どの程度の力を備えているか図ろうというわけですね?

 しかし、自分と貴女では大分実力に差があるように思われますが?」


「もちろんこちらは手加減致しますし、もし万が一怪我などなさったとしても私の治療魔術の腕はご存じでしょう?」


大怪我をしてそれから回復もした、療養と称してあまり動き回ったりしない生活だった。


そして、まぁまともな食事ができた。

塩気はないけど新鮮な果物に魚介類が食べ放題だ。

今の俺の舌だと悪くないみたいだ。

まぁこっちの世界に来てから碌なものを食ってないのが大きいのだが、懐かしくも忌まわしいアレとか。


「そうですね、そろそろ動き回っても大丈夫な感じしますよね。

 いいですよ、やってみましょう。

 でもほんとに手加減してくださいね?」


俺がこれから元の世界に戻る方法を求めて、ダンジョンの外を探索するに当たって問題がある。


『俺が弱い件』


(コモン)にしてはLvが高いかもしれない、UC(アンコモン)に会ったら何とか逃げられる、しかし(レア)クラスに当たったら逃げることもできず、あっさり討伐されてしまうだろう。


(コモン)モンスターが(レア)クラスに見つかる=狩られる。


チヒロさんを上回るステータスの相手が本気で向ってきたらプチっといかれるのは間違いない。

だが奴は、チヒロさんのステータスをすら上回っている可能性が高い。

仮にレーラさんとチヒロさんがやり合ったとして、その戦いは俺にとって雲の上で何かがぶつかっているような感じがするだけであろう。


身体能力が上がる要素と下がる要素は色々で、今俺がどのくらい動けるかは全く分からない。

日々を大人しく過ごす療養の日々でなまった体を目覚めさせるきっかけとなるかもしれない。

俺はそう思いレーラさんの申し出を受けることにした。


とはいえ武器の一つも持たない俺は、レーラさんから色借りてみることで適性を見ながら手合わせに臨むことにした。

レーラさんいわく、適性のある武器を持つと『分かる』んだそうだ。

まぁ俺には片手武器のスキルがあるからこのあたりを参考に選ぶことになるだろう。


いつもレンゼティアの後ろに静かにたたずみ、伏し目がちで長い前髪をした彼女が、顔を上げ武装をしてこちらを真剣な目で見てくるのは、凛とした美しさがあった。


シンプルなデザインの胸甲はただ事ではない金属の輝きを発し、手に持った三叉の槍はさらに輝き、いかにも銘品といった趣である。


さらに腰の後ろに二本の剣を装備したのがレーラさんのフル装備状態のようだ。


普段から上半身の体の線が極力出ない格好、メイド服を身にまとっているとはいえ、女性らしいしなやかなラインを鎧をまとった姿から想像することが出来る。


しかしメイド服の上に鎧を着るのはどうなんだろうな、似合ってるけど。


似合っているしダンジョンのポジション的にもその恰好はふさわしいのだが、着替えとかどうしているのだろう。


いや純粋な興味であってそれ以上の意味はないがな、ホントだぞ?


「さてユート様、貴方はこれから転送の術を使うとはいえ世の様々を見て回ることになるでしょう。

 そこには危険な生き物や人間も含まれます。

 ユート様、貴方がこれらの危険にさらされたとき如何なさいますか?」


美しい人間の上半身と蛇の下半身を持ったレーラは俺にそう尋ねてきた。


「基本は危険からは離れる、要は逃げの一手なんだけど、今回みたいに情報収集が目的だとそうも言ってられない時があるかもしれないのか、う~ん…」


「そうですね、安全に旅を続けるのが目的なら、何かあったら脇目もふらず逃げるのが最善でしょうが…」


考え込みつつレーラは武器が山ほど入った籠を持ってくると


「ユート様がどのくらい武器を使えるのか、まず確認してみようと思います」


「うわ全然自信ないんだけど」


「まずは素手からいってみましょうか、ではどこからでもどうぞ」


レーラさんは軽く半身の構えになると拳を握りこう言った。


「今回私は足技は使いません。

 特に私のは特殊な技になってしまいますからね」


うん、多分そこまでいかない、ところでラミアの足技って何?。


「一旦今の実力を確認して徐々に難易度を上げていきましょう」


アオ、アカ、シロの4人でPtを組んでいた時も俺の役目はシロの護衛とか敵の攻撃の受け止め、足止めがメインで牽制メインで本気で攻撃する機会はほとんどなかった。


素手での格闘も元の世界でつかみ合いくらいしか経験がない。


「あれ?レーラさんも素手でよいんですか?」


「ユート様が何を持たれようと私の脅威とはなりえません。

 どうぞご存分にかかって参られますように」


ん~あからさまに挑発してくるってことはメンタル面のチェックも入ってるな。

まぁその手に乗ったふりしてどうだいってみるか。


肉が肉を打つパンパンという音と手足が空を切る音があたりに響く。

俺の攻撃は当たってもパンパン言ってるだけで効果が見られないが、レーラさんの攻撃はドゥムン…と俺の体の芯にまで響く。


何発か食らって予想外の長さで攻撃を仕掛けてくる俺に驚いたのだろう。

レーラさんの目つきが一瞬きつくなったと思ったら、


「おぐぅふ」


打撃の衝撃で肺から空気が無くなり、一瞬意識が飛んで膝をつく。


「ふむ、挑発されて激高するでもなく、奇手で裏をかこうとするでもなく、真っ当に攻撃をする。

 悪くない、悪くないですよ…姫様が鱗を授けていなければ…」


ブツブツとつぶやくレーラさんを見ていると、ちょっとなにか変なスイッチ入ったんじゃないかと思い不安になってきた。


「レーラさんレーラさん、特訓の続きを!ぜひ!」


「あ、あぁはい、やる気があって結構なことです。

 では今度は、武器を持った相手に対した時の応じ方を訓練しましょう」


武器なしの格闘はまぁまぁだ、体術スキルのおかげだろう。


次は俺の持つ武器の選択だ。


レーラさんは木槍を持って俺はいろいろな武器との相性を試すことにした。


スキル的に両手持ちの武器は使えない可能性が高いので、あらかじめ外してもらい色々な武器を試してみた。


「片手剣…不可

 斧…不可

 片手槍…不可

 弓…論外

 槍…なぜまっすぐ刺すことが出来ないのか…

 ハンマー…まっすぐ下に落とすだけなのですが…」


「ユート様、大変申し上げにくいのですが、武器を使った戦いに関する才能の持ち合わせはございませんようで…」


「ですよねー」


 何しろまともな運動なんて学生以来だ。

 あとは精々飲み会の後で行くボウリングかバッティングセンターくらいのものだからなぁ…


武芸が一通り(パワーレベリング)身についた(付かなかった)あとに思った。

 本当に俺に使える武器は他人には多分武器扱いされないものなんじゃないかと思う。


 試す武器試す武器全然ピンとこない、いい加減頭にきてその辺で拾った棒を握って見た。


「これだ…」


「え?それですか?ただの枝が落ちた棒ではないですか?」


「いやこれだ、これが俺の持つべき武器だ」


『分かる』とはこういうことか!


手ごろな枝がちょうどいい長さの棒になって手になじむ感じはいいよね。

俺の田舎じゃ活発な男の子は皆手ごろな長さの棒を何本か持っていたものだ。

次の段階で木刀の制作に入るけどな。


「彼方がそこまでおっしゃるのならばそれでよろしいのですが…

 ではその()で私を攻撃してみてください」


俺は棒を片手に持ってレーラさんを攻撃することになった。


なんかレーラさんに笑われた気がするが、多分気のせい、気のせいったら気のせい。


この棒ならばなぜか戦えるという自信が漲ってくる。


「ようし、レーラさんいつでもいいですよ」


俺が言うと、


「わかりました、もし余裕があればこちらに攻撃をしてもかまいませんよ」


よかろう俺に最適な棒を手にした今、レーラさんにどこまで対抗できるかやって見せようじゃないか。




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