第31話
倒れた時に潰れた胸から肺に骨が刺さって、息が変なところからも出来るようになったような、ヒューヒューとした音が漏れる。
徐々に肺を満たす血が俺の息を細くしていく。
ここは地上なのに水の中に沈んでいくような、そんな時間とともに強くなっていく苦しさだ。
「全く手こずらせおって雑魚ガァァァッ!
見たか、吾の強さ、すばらしいだろうガァァァッ!」
勝ち誇りゆっくり俺に近づいてくる金メッキの顔も、それを聞いているシロの顔も、俺のゆがんだ視界にはまともに映らない。
胸郭が壊れると肺が上手く動かない。
「これで邪魔者はすべて死んだガァァァッ!
ガァァァッ!
ガァァァッ!」
まぁ死んだも同然だが、時間の問題か(まだ死んでない)。
金メッキの喜びの雄たけびが処刑場に響く。
これだけ視界が歪んでもお前の安そうな金メッキは目立つなぁ。
「……」
「愉快だガァァァッ!
お前!吾の女になるガァッ!」
「……」
おいおいこんな状態でもう次の女のことかよ。
ドヤァてしやがって懲りねぇ奴だな…
「どうした、吾の言いつけガァッ!
返事をするガァッ!」
「イヤデス…」
「なにぃ?
何故だガァ!」
「アナタハ、ワタシヲ、ホシイイイマシタ。
デモ、アナタ、ホカニモ、ホシガル」
「アナタ、エモノ、スクナケレバ、ゼンブ、ジブンノモノ。
アナタ、エモノガ、ナケレバ、ナカマカラ、ウバウ」
「それがどうした、
そんなことは当たり前だガァァ!」
「ドンナニ、エモノ、スクナイトキデモ」
「ハタラキ、ワルイモノ、イタトシテモ」
「ジブンノブン、ヘラシテ、ナカマニ、エモノワケ」
「ムレ、ソダテルモノト、トモニイタイ」
「そんなことガァ
許されるガァァァッ!」
「ダカラ、アナタノモノ、ナラナイ」
<リザードマン・アゼツライトがPtを離脱しました>
視界は歪むがログは歪まず表示されている。
俺の目の前にボウッと白い光が現れる。
これは…
「なぁ!何をするガァァァッ!」
<スプライトLv4の回復魔法!
リザードマン・オブシディアンが回復した。
HP 2/456→13/456>
「お前も!
お前も!
お前もお前も!
吾の邪魔をするのガァァ!」
シロが俺を回復してくれた。
ホッとしたような顔をしているのが
何となく…
判る気がする…
おいやめろ、やめてくれ。
お前に対して俺は良いことをした覚えなんかない。
アオもアカももういないんだぞ。
お前だけでも生き残れるなら、それでいいじゃないか。
それが当たり前なんだよ。
わざわざ死ぬ方向に行くなんて馬鹿げてる。
俺だって自分が生き残る為にお前達をさんざん利用してきたんだぞ。
「ならばお前も死ぬガァァァッ!」
回復が効いて少しだけはっきり見えるようになった俺の視界に真っ先に入ったのは、後ろから金メッキに斧で攻撃され腰から真っ二つにされるシロの姿だった。
金の攻撃で吹き飛ばされ、俺と抱き合うような形で倒れこんだシロは、あのクリクリした瞳で俺の顔を嬉しそうに見つめ、
「私はずっと前からあなたと共に在りたいと思っていましたよ」
流暢な言葉使いでそう言った。
そして舌を噛み切ると、口移しで俺にそれを食べさせた。
やめろよ、やめてくれよ。
まずお前が生きろよ。
余計なことするなよ。
お前らは、俺たちは、本能で生きる種族じゃないか。
<貪食が発動!
HP、SPを回復!>
<リザードマン・アゼツライト
HP 0/94>
「アアアアァァァァァッアアアア!」
<Exスキル カンパニーマンLiz
新条件解放!>
<Exスキル カンパニーマンLiz
第3段階解放!>
<スキル解放に伴いHP、SPを回復!
一時的にグレードが上昇します>
シロが最後に俺を見た眼を忘れない。
そして今なら。
金メッキのすべての強化が無くなった今ならば。
俺は先ほど手に入れた武器で金を攻撃する。
俺の攻撃など散々食らって大したことなどないと舐めてかかった金の胸に思い切りそいつを突き刺してやる!
その武器の名は『ポイズンワイバーンの牙』!
ポイズンワイバーンの牙は本体から切り離されてもその毒はなおも健在だ。
これを扱うのに<片手武器>のスキルを持つ俺ほどの適任者はいない。
自らの手で回復要員であるシロを討った金がその毒から逃れるには、俺を倒し戦闘に区切りをつけるしかない。
そして毒を食らって焦る金の攻撃を捌き続けるのは難しいが、できなくはない。
金に毒が回るのを待つだけの簡単なお仕事です。
毒が回りきって金が死ぬまで、刺さったポイズンワイバーンの牙を抜かせる暇を与えないように、息もつかせぬ攻撃を加える。
どんどん体色が黒紫になっていくゴルドー。
「クゥッ!逃げ回るのだけが能の臆病者風情にこうも邪魔をされるとガァァァッ!」
「俺がなぜ戦いを避けるか考えが及ばないお前には理解できまいよ!」
「最後までお前ガァァァッ!お前ガァァァッ!邪魔をするガァァァッ!」
口と目から出血する当たりだいぶ効果が高い毒のようだ…
アカはもうちょっと長時間持った気がする。
毒耐性が高くなるようなことはしていないはずだがこの差は何だろうと考えた。
あれか…やっぱり半分毒みたいな扱いなのか、あのダンジョンレーション!
「アガァァ…このような結末が許されるはずガァア!」
「誰かの思惑だったとしてもお前はここで死ね…」
<リザードマン・ゴルドー
HP 18/3049→0/3049>
金メッキを迎え入れるために開いたままだった出口に飛び込み地獄を抜け出す。
休んでいた生き残りの合格者が慌てて、逃げ出したエサを殺そうと追いかけてくる。
シロの能力をもらっても使い方が俺には判らない。
今は素早く移動するのが先だ。
回復するためには落ちた肉だろうが、敵だろうが食らうしかない。
それがたとえ昔からの仲間だったとしても。
忘れない、ここは地獄だ。
許さない、俺たちをもてあそぶように、飽きたおもちゃを捨てるようにした神(笑)。
そして仲間を食らってでも生きたい俺の卑しい性根も。
なぁ、
なぁ、知ってるか、
仲間が死んでも、
仲間を喰らっているその時でも、
ピンチを脱して喜んでいる自分が、
絶対に俺の心のどこかにいるんだぜ。
俺は身も心もモンスターになってしまったんだろうか?
それとも元々俺の本性はこんな醜いものを飼っていたんだろうか。
なぁ、
なぁ、お前らは俺に生き残って欲しかったのかもしれないけどな。
俺はお前たちと生き残りたかったんだよ。
誰かを助けたかったら自分が生き残ってからにしろよ。
生かすために死ぬなんてふざけるんじゃねぇよ。
俺なんか死んでしまえばいいんだ。
でも絶対に生き残ってやる。
畜生!
畜生!畜生!
「シャギャアアアアァァァァァッァアアアア!」
吠えた。
死力を尽くして暴れる俺。
落ちてる物を拾いまくって闘う。
しかし俺には武術の素養はない。
剣も槍も盾も<片手武器>のスキルのおかげで振り回すくらいはできるがそれまでだ。
本式のスキル持ちの奴の動きにはとてもついていけない。
何とか使える片手で使える武器を拾って使いつぶしながら戦ったが、今度は貧弱な武器が強度的に持たない。
木の棒は折れる、
石は割れる、
爪がはがれる。
だけど。
だけど、RもSR関係あるか、何を使っても逃げ回って生き延びてやる。
そして瀕死になりながらたどり着いた目的地エネルギー変換炉!
ここで腰袋から取り出す勇者から譲ってもらった奥の手!
グランドレイクの魔核!
こいつをを握りしめて老朽化したダンジョンのエネルギー変換炉の投入口に放り込む。
老朽化した、
エネルギーを精製して密度・純度を高める施設に、
高純度・高密度のエネルギーが、
大量に、
短時間に、
流れ込んだらどうなると思う?
答えはやってみないと俺にもわからない!だ。
変換炉のエネルギー素材投入口にグランドレイクの魔核をポイと放り込む。
<想定外の高エネルギー体がエネルギー変換炉に投入されました>
<臨界まであと126秒>
<総員退避してください>
あとは出口まで走り抜けるだけだ!
<SP 0/51>
<SPが0になりました。
強化スキルが使用不能になりました。
上昇していたグレード及び能力が復旧されます>
<エネルギー変換炉が臨界しました>
<総員退避してください>
<総員退避してください>
エネルギー変換炉から溢れるエネルギー衝撃波から逃げ切るように洞窟を走り抜ける。
あふれかえるエネルギーはダンジョンの全てを崩壊させて、そこにある全てのユニットも施設も殲滅した。
ワーカーもレアモンスターも間一髪洞窟から脱出した俺以外、一切生き残らなかった。
中には自分が貯めこんだエネルギーで誘爆した施設や個体もあり、連鎖するエネルギーの渦は洞窟のすべてを飲み込み、押しつぶしていった。
ダンジョンの出入り口目掛けて走る、走る。
「逃げ…切っ…たっ!」
ギリギリで崩壊するダンジョンから脱出したと思った瞬間、横なぎの衝撃が俺を襲う!
グレード LR
所属 キリア
名前 ルトール
種族/Lv デュラハン
職業/Lv 暗黒騎士Lv10
階級 Dガーディアン
HP/MaxHP 5350/5350
SP/MaxSP 3328/3328
スキル01 キリア流細剣術Lv08+3
スキル02 エルテ流鞭術Lv07+2
スキル03 キリア流漆位暗黒魔法Lv07+3
スキル04 補佐(軍団級)
スキル05 分身(蝙蝠・狼)
スキル06 聖術弱点
スキル07 魔法神キリアの祝福
装備品① 血涙の細剣
装備品② 破砕の鞭
装備品③ 暗闇のマント
なんだ…強い…LR…
所属は神(笑)。
どこまでも奴の掌の上ってことか。
チヒロさんすまない、約束は果たせそうにない…
全身を拘束されて俺はあっさりつかまり意識を失った。




