第22話
~デ・ラッツアの酒保旅籠
営業中
BGM:Town03 今宵はお楽しみですね~
<デ・ラッツアの酒保旅籠>
<ノステディア王国の首都バサルトンにある冒険者ギルド併設の酒場兼旅館。
デ・ラッツアは帝都にある中堅規模と目されている冒険者ギルドの中では優秀なギルドであると言われている>
その日、篠突く雨が降り、今日は仕事にならぬとギルド所属の冒険者たちは酒食を食らいつつ愚痴ともつかないことを話していた。
「最近は勇者様のご活躍で景気も良いってか、俺には良かったことなんざこれっぱかしも無ぇけどな」
「まぁこんな稼業でやってりゃそんなもんだろうよ。」
命を懸け、ちょっとした当りを得ては酒食に変えてしまう場当たり的な生き方を送る冒険者。
そういう職業が一時的に稼いだ金は、合計すると駆け出し職人やひよっこ商売人よりも確かに大きいかもしれない。
だが彼らの享楽的で刹那的な生き方では報酬はは彼らの上を通り過ぎるだけで、駆け出しやひよっこが取れた他の職人や商売人の人生のように、収入を得てそれなりの財産が築けるようにはならない。
それが一般的な冒険者である。
持ち物は一振りの剣と防具一揃いくらいで、あとは酒や食べ物、精々娼館に行って、予算目いっぱいの快楽を得るくらいしかない。
一時は剣一本でぜいたくな暮らしを送れたかもしれないが、その力も歳とともに衰えていくと、身を持ち崩して日銭を稼いで何とか食いつないで行くしかなかった。
まず、「雨が降ってるから今日は稼ぎに行きたくねぇ」と朝から酒を飲んでいるのは立派な人間の言であろう。
銅級冒険者ダニロもまた、ダメな先達を見ながら、「あぁはなるまい」と思っていた人間に自分がなりつつあるのを、残念に思いながら酒を飲んでいる男の一人だった。
「今日は雨が激しく降っているから仕事ができない。
ほらちゃんとした理由があるだろう?
だから俺はあいつらとは違う」
雨が降ったら水路の見回りなど、雨降りの日しかない依頼があったりもするのだが、そんな仕事は駆け出しのひよっこの受け持つべきもので、銅級冒険者たる自分には相応しくない。
冒険者のランクは冒険者ギルド協会が認定する階級である。
一番下の鉄級は、ギルドの冒険者として初めて認められた駆け出しが居る階級である。
彼らはまずこのランクとなり、採集や街の中での便利仕事(配達とかの雑用など)や、パーティの遠征についていき、雑用などをすることで見習いとしての実績を積む。
採集依頼でも、対象が根絶されないように採取数は協会に管理されており勝手に採ってはならない。
群生地を見つけたからといって報告なしに乱獲すれば懲罰対象となる。
採集物はいつどこで何をどの位取ったかを報告する義務がある。
もし、管理外の採取が報告されれば、以後採取依頼の請負不可などのペナルティが課せられる。
ちなみに鉄級の在籍期間は最大で2年、この時点で見込みがないものは適性が無いとみなされ、転職を勧告される。
銅級冒険者として昇格し冒険者を続けるか、廃業の2択をしてもらうことになる訳だ。
また、鉄級冒険者単独で、もしくは鉄級だけで編成されたPtは屋外でのモンスター討伐依頼は請け負うことができない。
近辺のモンスター生息数は協会が大体把握しており、増えすぎたら討伐する形となっている。
襲われた場合の緊急時に戦うことは禁止されていないが勝手に狩れば処罰対象である。
鉄級は、モンスターを討伐した報告より発見した報告の方が高評価となる仕組みさえある。
銅級は一般の冒険者のほとんどが収まる階級である。
あるいは冒険者とは銅級のことを呼ぶものも居るほどである。
普通、冒険者として見なされるのはほとんどこの階級であり、それは比率的に間違っていない。
冒険者として生きていくことが出来ると協会から認定された実力を持つ。
幅広い依頼に対応するため、彼らは群れる。
冒険者ギルドに所属してPtを組むことで対応力を上げていくのが普通だ。
銅級の上の銀級は、銅級冒険者の中でも優れたものと認定された者が成るランクで、全体の1割程度がこのランクに居るとされている。
今ここにはいないが銀級に認定された冒険者はデ・ラッツアにも1Ptが所属している。
さらに金級ともなれば、一国家を束ねる協会が認める、国中でも指折りの冒険者といえるだろう。
ノステディア全体だと金級冒険者が所属する冒険者ギルドは幾つかあるが、残念ながらデ・ラッツアには所属しているものが居ない。
マスターはいつか育つことを楽しみに、そして目標にしているが、まだまだ時間はかかるだろう。
さらにその上のミスリル級は貴族にもまさる生活が送れるだろう。
伝説といわれるような龍や魔物を倒すことのみならず、複数の協会から推薦を受けた金級冒険者が成ることが出来る。
アダマン級は冒険者ギルド認定の最上位。
ここに到達するのは伝説とされ、冒険者の王と呼ばれる存在となる。
雨に濡れて風邪を引いた中年に片足突っ込んだ独身男の世話など、誰もしたくはないし、そんなことをしてくれる誰かの心当たりもない。
つくづく若さってなんだと怨嗟の念が沸き上がる。
ダニロはどこかで大きく稼いだら、田舎に引っ込んで慎ましい生活を送るのが幸せかもな、などと思いつつ、今日も酸っぱくなってしまって値段が最低に安い酒をチビチビ飲んで、時間が過ぎるのを待っているばかりであった。
雨の中であってもを出入りする者はそれなりに居るものであるが、酒保旅籠の入り口を壊す勢いで入ってきたその2人が立てた激しい音に驚き、眉をしかめると誰何するようにを目を細めて眺め、知り合いであることに気が付いた。
「ウーログにチムールじゃねぇか、一体何ごとだい。
お前らはゴブリン村の発見が目的の依頼を受けてたんじゃねぇか」
ダニロの他にも2人に話しかける冒険者達だったが、2人は雑多な問いに付き合わず声を上げた。
「大変だ!ゴブリン村がリザードマンの群れに襲われて壊滅した!
アタシたちはそいつらをつけて、森に入ろうとしているのを見届けたところで見つかっちまったのさ」
「なんだって!じゃあルドルフたちは…!」
「アタシの旦那も含めて他は皆仲良くトカゲ共の腹の中さ!
あいつ等…絶対許さない…!」
「ボクはもう怖いの嫌です!この報酬貰ったら廃業しようと思ってついてきました」
ギルドマスターには見慣れた、折れた冒険者の瞳をしてチムールは俯いたままブツブツとつぶやいている。
報告者としてはウーログを当てにするしかない。
「とりあえずギルドマスター、(冒険者)協会に連絡を頼むよ、またいつあいつらが出てくるか分かったもんじゃない」
カウンターの中にいたギルドマスターもこの話を聞いて出てきた。
「分った、ご苦労だったな。
もう大丈夫だ。
少し休むといい。
報酬の話は俺が帰ってきてからでいいな?」
ウーログが頷くのを確認し(チムールは嫌そうだったが、やれやれ)、ギルドマスターはシャツの上から剣帯を嵌めるとマントを羽織り、つばの広い帽子をかぶった。
「行ってくる。2人に部屋を取って休ませてやってくれ」
ギルドマスターはカウンターに居るバーテンにそう声をかけると協会に向かった。
ダニロはさっきの話を聞いて、そして部屋で休みながらギルドマスターの帰りを待つウーログとチムールの様子を見て。
「こりゃぁ大変なことになったぞ」
知ってるやつらの不幸に胸を痛める時期はこんな稼業じゃ毎度のことだ。
もうすっかり慣れてマヒした感覚は、廃業するといっていた若い翼人に対し、ちょっとした羨望と苛立ちをもたらした。
この騒ぎが大きな仕事になって舞い込んでくるという期待にダニロは胸を膨らませるのだった。
とはいっても雨が上がるまでは何もできない。
ダニロはバーテンに安酒のお湯割りを頼むのだった。
<ノステディア王国首都バサルトン冒険者協会>
<ノステディア王国首都の本部協会らしく王国中全ての冒険者と冒険者ギルドの元締め>
~冒険者協会
営業中
BGM:Town04 依頼の話をしようじゃないか…~
雨の中現れたデ・ラッツアのギルドマスターは冒険者協会の窓口に立つと。
「アルスーク山岳地帯にリザードマンの集団が出現し、ゴブリンの集落を壊滅させたようだ。
ゴブリンの集落の偵察任務中のウチの傘下のPtが半壊して情報を仕入れてくれた。
本件についての確認の必要があると認め、よろしく協会で処理願いたい」
「かしこまりました。
ちなみに半壊したPtのリーダー名の報告をお願いします」
事態の異常さに窓口の受付担当も緊張にキリリとまなじりを決して応対する。
「ルドルフの率いる銅級冒険者Ptだ。
俺は戻って生き残りから子細の聞き取りをする。
後で伝令を寄越してくれ」
「おうおう、本当なら一大事だなぁ」
カウンターの奥、ひときわ大きな机で事務作業をしていた筋肉の良く発達した男がギルドマスターのデ・ラッツアに話しかけてきた。
「冗談でPt半壊させた報告もしないもんだがね、協会長さんよ」
「よし、それならこのバサルトン冒険者協会会長さまが直々にお話伺おうじゃないか。
じゃあちょっと出てくる。
副ギルド長は代行として協会長職案件の処理をよろしく」
「ほれどうしたさっさと行くぞ」
眼から怪光線が出そうな表情でこっちを見ているのが1名いるが、気にしてはダメだ。
ギルドマスターが出向くことで、ちゃんとした伝令を送ってもらえるように箔をつけてやろうと直接出向いたのが功を奏した形だ。
まさか仕事から逃避したかった協会長が釣れるとは思わなかったが。
まぁ話が早いのは良いことだろう。
酒保旅籠に戻ってウーログの話を聞いた2人は、冒険者協会から王国への報告と、傘下ギルドへの調査ミッションを出すのだった。




