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おっさんの魔法少女学  作者: ツナミ
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おっさんと魔法少女

仁志は目の前に現れた『魔法少女』の手を取ろうとするが、先に吹き飛ばされた狼男が吠えながら立ち上がり、再び仁志に襲いかかろうとする。




「あ! ご免なさいちょっと待ってて下さい!」




 魔法少女は取りかかった仁志の手を一旦離すと手にステッキのような物を持ち狼男に向かっていく。




 それからの仁志の目には異様な光景が写った。フリフリのドレスを着た可愛げな少女がステッキ片手に狼男と激しく戦い合う。少女は豪快にステッキで殴り、対する狼男はその鋭い牙で噛みつき、爪で引っ掻きドレスの袖を破り少女の柔肌に傷を付け、血が飛び散る。




「……なんじゃこりゃ、なんかムカムカしてきた」




 その光景を見た仁志には胸の内側から込み上げて来る物があった。


 それは壮絶な戦いを、血を見た事による嫌悪感等では無い。自分よりも幼い子供が傷付いている事への怒り、戦っている事への怒り。


 それらがふつふつと胸の内側から込み上げ、仁志は自分でも知らず知らずの内にすっくと立ち上りその場から駆け出していた。




「……こんのボケェェェェ!」




「え、ええ!? ちょっとおじさん!?」




 そして、狼男の横っ面にビンタ一発。


 その光景に少女は驚きの声をあげ、ビンタを一発食らった狼男も何が起きたのか分からず短い間隔で唸り声をあげる。




「さっきは突然やったから面食らったけどなぁ……お前何女の子に傷付けとんねん! 生来なんかあったらどうすんねや! ボケ! カス! オラァ!」




 そして仁志は怒りに身を任せ狼男にストンピングキックを連発する。


 狼男はそれまで獲物として捉えてた筈の男が逆に己を追い詰めている現状を理解しきれて無いのかやられるがままになり踏みつけられる度に苦悶の声をあげる。




「……何がどうなっているの……」




 そして少女も自分が助けた力無きおじさんがまさかこんな事をしでかす等と考えもしていなかったせいかその光景を唖然とした表情で見ていた。




「……はっ、ちょっとおじさん! 危ないですよ! さがってて下さい!」




 我に返り少女は仁志を狼男から遠ざけようと声をかけるが、それに反応した仁志は少女にギラついた獣のような目を見せ少女は蛇に睨まれた蛙のような気分になる。




「何言うてんねん! 君かて大ケガしとるやないかい! そのステッキ寄越せ!」




「は、はい!」




 その威圧するような目と声に本能的に従ってしまい少女は仁志にステッキを渡す。


 仁志はそのステッキで狼男をただひたすらに殴り付け狼男はとうとう悲鳴の鳴き声を出していた。




「……あれぇ? どうしてこうなったの?」




 その光景はまるでリンチである。弱肉強食など無い。少女は自分が助けたおじさん《仁志》こそが狼男よりもよっぽど『化け物』だと思った。




 そして仁志は疲れたのか一旦狼男から離れる。狼男はすっかり怯えた様子でその場から走り去っていく。するとそれまで拡がっていたサイケデリックな光景消え失せ街灯が照らす元の夜道に戻っていた。




「なんや逃げよった……あんのボケ……」




「あっ逃げられちゃった……どうしよう」




 狼男を倒しきれ無かった事が余程まずい事なのか少女はオロオロとしだす。




「おい、お嬢ちゃん大丈夫か?」




 そんな少女を見た仁志は戦いの最中負った怪我を心配し声をかけようとした瞬間、見覚えのあるモノを見つけた。




「やぁ仁志、災難だったね」




「……あぁ? お前……!」




 それは今朝、アパートを訪れた珍客。白い一頭身の生き物メビィ。メビィはフヨフヨと仁志に近づいて行くがそれを見た仁志は手を上げる。そして――




「なんじゃコラァ!」




「むにゅッ!?」




 まだ狼男を殴り、踏みつけていた興奮が抜けきって無いのかメビィを叩き落とし、メビィは悲鳴を上げた。






 ◆






「私、『源本 かなめ』って言います。……さっきはどうも」




 仁志達はまずは落ち着く為に先程戦いがあった夜道の近くにあった小さな公園に移動した。魔法少女のかなめは自分の名前を名乗ると仁志のやり過ぎな攻撃を見たせいかお礼半分怯え半分でお辞儀をする。




「おおこっちこそどうも……ってか君挨拶してる場合か? 滅茶ケガしとるやん」




「あ、それなら大丈夫です。こう……」




 仁志が怪我の具合を心配するとかなめは目の前に魔方陣を生み出す。その魔方陣動かし体に潜らせると一瞬で傷がふさがり破れたドレスも新品の如く綺麗な状態に戻った。




「魔法少女になると『魔力』っていう力が出来て、体も頑丈になるし傷も塞がるようになるんです」




「……便利やな。でも見ててええモンでも無いな。てか君何であんな事してんの?」




「それは僕から説明するよ!」




 そう良いながらメビィが仁志とかなめの間にひょっこりと現れる。




 元はと言えばメビィが今朝現れたせいで先程狼男に襲われたのでは、と逆恨みそのものな思いを抱き、メビィをまた叩いてやろうと思う気持ちを抑えつつ仁志は眉を潜め舌打ちをすると公園のベンチに座った。




「元々僕はこの世界とは違う世界から来たんだ。人間の世界で言うところのパラレルワールドって解釈だよ。僕の世界からこの人間の世界に大量の『マイナスエネルギー』が流れ込んでしまったんだよ。そのマイナスエネルギーはこの世界の人間の恨み、妬み、嫉みや怒りに反応してさっきのような怪物を生み出す。だから僕はマイナスエネルギーを打ち消せる、プラスの力『魔力』を使える人を探し、それを与えて協力してもらってるんだよ」




「……なんかファンタジーなのかSFなのかよう分からんわ。つまりあれか? そのプラスのなんたらを使える人間が……」




「この世界の人間だと所謂、少女に多いんだよプラスの力を使える資格者が。まぁ仁志はかなり特別な例だけどね。だから君にも協力……」




「もう黙れ」




 メビィが最後まで説明しきる前に仁志はメビィを叩き落とす。地面に落下したメビィはなんでさ、とくぐもった声で呟いた。




「気に入らんわぁ……お前の世界の不始末物を別の世界の人間わしらが何で片付けなアカンねん?」




「僕は人間に魔力を与える事は出来ても自分で使う事は出来ないんだよ」




「兵站を現地調達かい……しょうもない」




 仁志は頭をかきながらかなめに目を向ける。そしてかなめに目線を合わせ質問をし始める。




「君もこのメビィ《ドマンジュウ》にのせられた口か?」




「え……はい。私も最初は信じられなかったけどその後実際に怪物に襲われて……襲われるのは私達だしなんとかしないと、って」




「もう止めとき。あんな怖い目に合うってのはもう分かってるでしょ? 何かあったら君の親が泣くで。信じたり助けようと思うのはええ事やけどよう考えてやらんと取り返しのつかない事になるよ? ……助けてくれた事には礼を言うとく。どうもありがとう。もう夜遅いから早よお帰り」




「待って仁志、まだ魔力の説明や魔法少女がどういうのか具体的な説明を……」




「やかましいねんアホ! 女の子にあんな事させて恥ずかしいと思わんかい! ……ってか何でお前一頭身やねん! 内臓どこや!」




 説明を続けようと地面から浮こうとするメビィを生態の疑問をぶつけつつも踏みつけて仁志は公園から去っていく。かなめはそんな仁志の背中をただじっと見つめていた。




「……メビィに聞かされてこの辺りを張ってたけど、何かすごい人だね……まだ魔力をもらってないのに怪物叩いちゃうし……」




「実に力がある。今までで一番かも知れない。これで理不尽ささえ無ければ……」



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