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おっさんの魔法少女学  作者: ツナミ
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おっさんと化け物

「はぁ、なんやったんあの白いの……」


 午後4時頃、仁志は自分が勤めるコンビニに出勤し商品の並び替えをしつつアパートに訪れたメビィの事を考えていた。


 あの後布団に潜り込み次に目を覚ましたのはお昼頃。最初は夢かと思っていたが手にはマシュマロのような弾力を掴んだ感覚が残っており、更に新聞を取りに玄関を開けたら隣の部屋の住人から朝に何を騒いでたんだ、と文句を言われた。


「……あれかな、テレビの一般人をターゲットにしたドッキリか?」


 よく暇潰しに見るテレビのドッキリ企画を思い出し自分はそれに引っ掛かったのでは? と考える。だとするならばどこかでカメラが回っていて自分が怒鳴り散らし放屁までした所を撮られた事になる。

 それを考えると急に恥ずかしくなり仁志はガックリと肩を落とす。その時眼鏡をかけた若い男が入店してきた。


「お疲れっす……あれ、どうしたんですか浜本さん」


「おうお疲れ……なんか妙な物見てな」


 コンビニに来たのは大学生のアルバイト、木原。仁志よりも後に入ってきた後輩であった。

 木原は制服に着替えると仁志の横に立ち商品の並び替えを手伝いつつ肩を落とす仁志に何があったのかを聞き始める。


「なんですかいつもはだらしなくやってるのに今日は特にだらしないじゃ無いですか」


「いやな、なんか朝っぱらに白い変な玩具みたいなモノが来てな。なんかのドッキリやと思うけど」


「え、浜本さんテレビ出るんですか? こんなおじさん出したって需要ないでしょ?」


「最後まで聞けって! でな、なんか……魔法少女になれって言われたんよ」


「……はい? もう一度言ってくれません?」


 今朝の仁志のように木原も我が耳を疑い聞き返す。木原には良い歳した大の男から『魔法少女』というファンシーな言葉が出てきた事が信じられずにいた。


「いやだから、魔法少女になれって……」


「いやいやそんなのおかしいでしょ。浜本さん、おっさんでしょ? 何をどうしたら少女になるんですか?」


「せやねん。わしもそれをツッコんだんねんけどさぁ」


「仮にそれマジだったらもう犯罪レベルでしょ。いや法が許したとしても歴史が許さないでしょ」


「……そんなに言う?」


「浜本さんがいかにもそれっぽいフリフリした衣装着たら気持ち悪さでバイオハザード起きますよ」


「フフッ、何やねんそれ!」


 木原の例えに少し笑いをこぼしつつも浜本は木原の頭を軽く叩く。叩かれた木原だがそんなに痛くはなのかけろっとした様子で文句を言い出した。


「もう……パワハラですよパワハラ。オーナーの親戚じゃ無かったらクビですよ」


「お前が変な例えをするからやろ。わしだってどうしようも無いって思ってんのよ。何が魔法少女やねんって」


 そう答える浜本だが、商品の並び替えを終えてその場を離れようとした瞬間店の中にも関わらずまたもや放屁をする。それに気づいた木原は鼻をつまみ浜本から少し離れた。


「もう何してるんですか人間性の欠片も無い……たとえ浜本さんが若くて女だったとしても魔法少女なんてあり得ない話ですよ」


「屁はしゃあない屁は出るもん。生理現象やねんから。そんなん言い出したらわしらトイレとかどうしたらええねん?」


「そんな屁理屈捏ねてる店員、全世界で浜本さんだけっすよ。今まで良く生きてこれましたね」


「ナッハッハッハ! やかましいわ」




 ◆




 午後10時頃、シフトを終えた浜本は帰路についていた。すっかり夜も更け、辺りは真っ暗になり道路の脇にある街灯や電柱に備え付けられた電灯だけが夜道を照らしていた。


「……何?」


 仁志はふと足を止めて辺りを見回す。何か唸り声のような物が聞こえた気がした為耳を澄ますが今聞こえてくるのは夜風の吹くビュー、という音とそれによりカランコロンと空き缶が転がる音だけだった。


「……どこかで野良犬でも吠えたか。なんか朝っぱらにあんな物見たらなんか知らんけど警戒してまうな」


 仁志は耳を指でほじると再び歩き出す。だが仁志の目の前にはいつの間にか暗い夜道では無く黒と紫のドロドロとしたサイケデリックな空間が拡がっていた。


「ああ? おかしいなわし今日はシラフぞ?」


 頭を叩き、目を擦るがそのサイケデリックな空間は変わらずにいた。そしてまた唸り声が響き渡り仁志の目の前に獣の顔付きに鋭い牙を持ち所々爛れた皮膚を持つ『狼男』を連想させる化け物が現れた。


「うわっ! 何やねんコイツ!」


 その狼男のような化け物を見た仁志は驚き、腰を抜かしてしまう。

 狼男は口から涎を垂らし仁志を捕食せんとする勢いで仁志に飛びかかる。


「うわわわわわ! これもドッキリか?」


 仁志はその線を疑うがすぐにそれは違うと確信する。それまで歩いていた夜道から突然切り離されたように拡がるサイケデリックな空間、着ぐるみの類いとは思えぬ狼男のグロテスクさ。


 そしてそれは朝に現れたメビィの存在をテレビの仕込みや玩具では無い《《現実の》》の物では、と仁志の頭にその考えがよぎる。


「うわぁアカンアカンアカン! 堪忍やで!」


 腰を抜かしその場から動けない仁志が両手を×の字に組み顔を隠したその時だった。

 鮮やかな桃色の光が飛びかかった狼男を吹き飛ばし、仁志の周囲にキラキラとした光の残留がきらめくと目の前にフリフリとしたドレスを身に纏った少女が降り立った。


「あの……大丈夫ですか?」


「……なんやのんこれ……」


 仁志の目の前に現れた少女は腰を抜かす仁志に手を差し伸べる。

 その姿を見て仁志は頭と心にこう例えた。


『魔法少女』だと。


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