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ガイア  作者: 知舘美衣
なぜ人は苦しまねばならないのか
17/19

第二章 第十一話 その後

【作者より】

ここからの話は、私のサイトには載せていない部分です。


初めてこの作品で感想を頂きました。ありがとうございます。

こんな下手な文に付き合ってくださり本当に感謝感謝です><


この物語はまだまだ続きます。頑張って執筆しますので

よろしくお願い致します。

どのくらいの時間が流れたのか、何回岬へと行ったのか、そんなことももはや考えることもなく、ただひたすらに水晶に向かって歩く日々が永遠に続くかと思われた。ここから抜け出したい気持ちはあったが、どうすれば抜け出せるのかもいまだ見出せないまま、時間だけが流れていくようだった。いや、ここではもしかすると時間さえも止まっているのかもしれない。昼もなく、夜もなく、食事も睡眠も取ることなく水も欲しいとも思わず、ただひたすら歩くだけの日々。確実なのは私の素足に刺さるささくれ立った地面の棘の痛みと、目の前を同じように歩いているひとりの女性の存在、ただそれだけだった。


ある時、私は長い時間をかけてようやく何百回目かの水晶の前に来た。あの女性も一緒に。目の前では後に続くものと立ち塞がる二人の男が激しく争っていた。岬は、先へいけば行くほど狭くなり、ふたりの男が立ちはだかっている場所には僅かな隙間しかなく、両側は断崖になり、断崖の下にはまるで私達に手招きするかのような業火がたぎっていた。私達は争うことに夢中になっている大男達に気付かれないようになるべく身を低くして近付いた。そして女性に囁いた。

「きっと君なら、あの大男達の隙をついて向こうへ行ける。援護するから、俺が合図したらあの隙間から向こうへ行くんだ。」

女性はその言葉を聴いて、信じられないといった表情をし、それから首を横に振り、目に涙を溜めながら言った。

「ダメ・・・・。あなたが行かなきゃ。ずっと私を助けてくれたあなたがあの水晶を取らなきゃいけないわ。今度は私があなたを助ける番よ。私がなんとかしてあのふたりを離れさせるから、あなたが行って。」

私は女性にわざと厳しい顔つきを作って言った。

「それはダメだ。下手すれば、君はあの業火へ投げ込まれてしまうよ。そうなったら二度と這い上がることは出来なくなる。それに見てごらん。あの大男の股座またぐらの辺りに隙間がある。あそこは俺では通れない。君しか行けないんだよ。」

そこまで言うと、すぐ後ろでも熾烈な争いが始まったため、私はなんとか前の男の股座辺りに彼女を押し出した。


チャンスは来た。私達の後ろで争う者達に気を取られた目の前の大男は、身を低くしながら大男の足元近くまで来ていた私達を通り越し、後ろの争う者達をなぎ払おうと大きく振りかぶったその瞬間を見計らい、彼女を大男の股座に空いた隙間から向こうへ押し出すことに成功した。


彼女は水晶へ向かって走り出した。大男はやっと女性の存在に気が付き、彼女を掴もうと手を伸ばそうとしたが、それを私が阻止した。

「早く行くんだ!行って水晶を手に入れるんだ!」

そう叫んだ瞬間、今度は私が大男に捕まれてしまった。必死に抵抗したが、大男の方が私よりも遥かに力が強かった。首を鷲づかみにされ、息が出来ないと思った時、女性は私を助けようとするかのように踝を返してこちらへ向かってきた。私は戻って来た彼女に襲い掛かろうとしたもう一人の男を蹴り倒し、首をすごい力で握っている男の手を振りほどこうと力の限り男のありとあらゆる場所にパンチを入れた。大男が怒りの形相になった。そして・・・・。



私の体は宙に浮き、遠くには先ほどまでいた岬が見えた。女性が私を見てなにやら叫んでいる。大男は女性を掴んだままで勝ち誇ったように大笑いしている。


私の体は、大男によって業火へと投げ込まれてしまったのだ。だが私はそんなことはお構いなしに女性に向けて叫んでいた。

「どうして!どうして水晶を手に入れなかったんだ!俺のことなど構わず、水晶を手に入れていればよかったのに!!俺を助けようとなんてしなければよかったのに!!」

私は、悔しかった。あと少しであの女性は水晶を手にいれることが出来た。それなのに。結局私はなにひとつやり遂げることが出来ぬまま死んでしまうのだ。しかも今回は完全なる魂の死。もう蘇ることも何も出来ない。この世から抹消されてしまうのだ。地上に於いてもこの深い地の底でも、結局私は大切な人になにひとつしてあげることが出来ぬままで終わるのだ。


業火が私の背に届くかどうかと言う時、突然私の体は光に包まれ、宙に浮いた。そしてゆっくりゆっくりと上昇していった。どこからか声が響いた。

「お前は自分のことを顧みず、他人を助けようとした。その心に免じて、生前の罪を許そう。」

ウリエルの声だ。そうか、私は死なずに済んだのか。ほっと安堵の息が漏れた。自分の身は助かったようだが、彼女は・・・。急に岬のことが気になり目をやった。

私の罪が許され、光に包まれて上って行く様を見、そしてウリエルの声を聞き取った岬にいた大男は、その手に掴んでいた女性を放し、道を譲って女性を水晶に導いてくれた。女性が水晶に手を触れた瞬間、道を譲ってくれた人間達も皆光に包まれ、罪を許されて天に召されて行った。女性は水晶を無事に手に取り、同じように罪を許されて天に召されて行った。


気がつくと、私は再びウリエルの前にいた。地の底で受けた傷はすべて治っており、ここへ初めて来た時と同じ状態に戻っていた。

「お前は結局は水晶を手にいれることは出来なかったが、あの水晶こそは自己犠牲と譲り合いの象徴であり、お前が成した行為と同じものなのだ。本来なら、一人ひとりが譲り合えば誰しもが簡単にあの水晶を手にすることが出来る。それが出来ずにいたのは、一人ひとりが自分のことしか考えることが出来ず、譲り合う気持ちが起きなかったせいなのだ。それを気付かせる試練だったのだ。」

ウリエルは静かにそう言った。

「それでは、私は・・・。」

私がウリエルに質問しようとした瞬間、ウリエルが手を挙げて遮った。

「これでお前の生前の罪である、未知の力を解放して多くの人間を犠牲にした罪は消えた。これからのお前はこの国とは別の国へ行って貰うことになる。」

そう言うと手にした大きな鎌を上から下へまるでなにかを斬る時のような動作をした。


ウリエルの鎌で斬られた空間に穴が開いた。

「さあ、あそこをくぐるのだ。そして行くのだ。次の段階へ。」

言われるがまま、私は未知の空間へと入って行った。


まるでトンネルを抜けた時のような、眩しい光を受けて私は未知の空間へと辿り着いた。そこは前にいた場所よりはいくらか明るかったが、雨が降る前のようなどんよりとした明るさだった。私はここで何をすればいいのかわからず、呆然と立ち尽くしていた。


一人の男性が私に近付いてきた。体格は小柄でちょっと太った人だった。その人は、私の案内役らしい。案内されるがままについていくと、大広間と宿舎が一体となったような建物の中に私を連れて行った。その建物は私が入った建物のほかにも沢山並んでおり、中には細い通路の両側に沢山の小さな扉が並んでいた。廊下の一番奥、私が入った扉の真正面には一際大きな扉があり、そこがどうやら大広間のようだ。案内役の男性は、私をその中のひとつの小さな扉に案内した。


男性の説明では、ここでしばらく霊的な治療と講義が行われるらしい。この地はウリエルの居た階層から見るとひとつ上の階層で、生前宗教的なものを何も教わらず、知らずに生きていた人間(霊)が一時的に入る場所なのだそうだ。この階層にはここのほかにも幾多の国があり、まずはここへ入り、ある程度の時間が経った頃にまた別の国へと移動することになるらしい。


私は部屋へと入った。そこは狭い部屋で、ベッドと机と本棚くらいしかなかった。窓は机の置いてある方面の壁にあったが、相変わらず空は太陽も月も見えるのかと訝るほどに、まるで分厚い雲が覆っているかのように見えた。


ここでの生活は私に、今まで知らなかった物質界(地上)のことを教えてくれた。そしてもちろんこの霊界のことも。霊界は、物質界(地球)を挟んで上下両側に四階層づつあり、今私がいる場所は物質界のすぐ上の第一階層なのだそうだ。そして霊的レベルがあがると、その次の階層へと向かうことが出来るのだそうだ。そして物質界を挟んで下は、いわゆる地獄と言うもので、地獄も上から第一階層から第四階層まであり、ウリエルがいた場所、私がついこの前まで居た地の底らしき場所は物質界のすぐ下の第一階層だったらしいことがわかった。地獄の第四階層とは、宗教でよく伝えられる地獄で、悪魔が住むと言われている場所にほぼ同等のものだと言うこともわかった。


私は今まで、宗教と言うものの存在すら知らずに生きてきたが、ここで宗教に関してもいろいろな知識を得ることが出来た。天地の始まりから神の存在、悪魔の存在まで、ありとあらゆることを教わった。そしてここで得た知識は、魂の記憶となるため、転生する前に忘却の川の水を飲んでも忘れずに残っているらしいのだ。よく人が、『良心』という言葉を使うが、そういうものはここで学んだことが魂の記憶として残っているからで、生きている時に意識せずとも、どこかで思い出すことが出来るらしいのだ。


しばらくの間、私は霊的治療(どこを治療しているのかわからないが)を施されながら過ごした。霊的治療とは、治療師なる人物が私に手を翳すだけなのだが、それでもなんだか体が軽くなったような感覚でとても心地よいものだった。ここを出るまでの期間、毎日この治療を受け、日を追う毎に本当に宙に浮くほどになった。


しばらくすると、私の前にいつぞやの案内人が現れ、私は別の国へと向かった。そこは第一段階の中ではあるが、なぜか以前居た場所よりも明るく、前は分厚い雲がかかったようになっていた空も薄雲だけになったかのように、ゆったりとした光に満ち溢れていた。あちこちに木や草花が咲き乱れ、空気も清涼で仄かによい香りが漂っていた。


ここで、私の家(部屋ではなかった!)に案内された。この家は家と呼ぶに相応しく、一軒家で、以前居た部屋の数倍広く、まるでどこかのお金持ちの家のように、ゆったりとしたリビングにゆったりとしたソファが置いてあり、シンプルではあるが風呂も完備されており、ベッドも前の時より幾分ふわっとした感じの眠り心地が良さそうなベッドだった。玄関も広く、机も綺麗で広く、なにもかもが以前とは違っていた。


違うことがもうひとつあった。ここでは、『仕事』があるというのだ。仕事の内容は、地獄へと降りていき、そこで苦しみの中から這い上がりたいと切に願っている人々を救う仕事だというのだ。私は(不謹慎だが)なんだか他の国や階層を見てみたい興味があったし、生前働くことが身についていたために何もせずじっとしているここの生活に少々嫌気がさしていたこともあって、この仕事を快く承諾することにした。それに、この仕事をすれば、霊的レベルも上がるらしい。ウリエルの言葉が思い起こされる。ウリエルはあの時確かに『霊的レベルをあげれば、自分の力をコントロールすることが出来るようになる』と言った。ならばあの悲しい惨事を繰り返さないためにも、自身を鍛えねばならないのだ。


案内人が、仕事の手続きをすると言い残し、どこかへと向かった後、私の前にひとりの女性が現れた。そう、私が死んでからすぐに私をウリエルのところまで案内してくれたあの女性だ。

「無事にここまで来ることが出来たのですね。」

そういうと、女性は強く私の手を握った。まるで『よくやった』と言ってくれているようで、くすぐったい嬉しさがこみ上げた。

「ありがとうございます。ところで・・・。」

私はこの女性に、ある質問を投げかけた。

「私が死んだ後の、元居た国が気になります。地上へ降りるわけには行きませんか?それと、母にはどうしても会いたい。会って謝りたい。母はどこにいるのかご存知ありませんか?」

女性はうつむき、困ったと言うような表情をしてから答えてくれた。

「あなたのお母様は偉大な方のようです。あなたの今いる場所よりひとつ上のランクの国にいらっしゃいます。ただ、今はまだあなたはお母様に会うことは出来ません。霊的レベルが低いせいです。」

まただ。また霊的レベルだ。私はそれまでの高揚とした気分が沈んでいくのを感じた。

「ただ、もうひとつの方はなんとかなりそうです。地上へ降りることです。この国まで来たあなたなら、私の力で一時的に地上へ送ることが出来ます。その場で目をつむってください。」

そう言うと、女性はなにやら呪文のようなものを唱え始めた。私の体が光に包まれ、気がつくとあの懐かしいヴァルキア城にいた。


私は、かつて知ったる城の中を漂った。以前は飛ぶことが出来なかったのに、今はちゃんと普通の霊のように飛べた。壁を気にすることもなく、障害物も気にせずにあちこち見て回った。ヴァルキア城は以前の騒々しさなど微塵もなく、奴隷の姿も見当たらず、平和そのものに見えた。城下町も同じく平和のようで、あちこちから子供の笑い声が響いていた。どこもかしこも小奇麗になっており、壊れた瓦礫ももはやどこにも残ってはいなかった。


私が城へ戻ると、スノウが城の中から出てきて空を見上げているのが見えた。スノウはあれからこの城の中心となって復旧に尽力したおかげで、今では出世して誰からも一目置かれる身になっていた。スノウの背後から、見慣れぬ女性と、スノウの子供らしき男の子と女の子が現れた。

「おとうさん。なにしてるの?」

男の子はスノウに聞いた。

「ああ、キース。ちょっと昔を思い出していただけだよ。」

キースと聞いて、私はまるで自分が呼ばれた時のように驚いてしまった。どうやらスノウは自分の子供に私の名前をつけたようだ。くすぐったいような照れくさいような不思議な感じだった。

「あのお墓の前の石の人?この国を救った英雄?」

「そうだよ。」

スノウは優しい目をキース少年に向け、抱き上げ、また物憂げに目を空に向けた。


スノウの背後からまた別の男性が現れた。今度は兵士のようだった。

「将軍殿。エレドアの国から使者が参っております。お目通りを願いたいと。」

兵士がそういうと、スノウとスノウの家族は城の中へと戻っていった。エレドアだって?そういえばあの後エレドアがどうなったかも気になるところだ。私はそのままふわふわとエレドアへ向かった。


あれほど遠く感じたエレドアも、あっという間に行く事が出来た。ヴァルキアとエレドアの間に広がる砂漠は相変わらず強い太陽の光に照らされていたが、今の私には太陽の暑さもまったく気にならなかった。


エレドアにつくとすぐさま私は神殿へと向かった。フィーナの安否が気掛かりだったからだ。エレドアの町並みは相変わらず小奇麗で、以前は気がつかなかったが、街の中心には小川があり、神殿から心地よい音を立てて流れていた。小川の先には池があり、池には噴水があり、気持ち良さそうに水を噴出させていた。


以前の記憶を頼りに、聖堂の奥の扉から向こうへ行こうとしたが、なぜかその扉だけは通ることが出来なかった。何度体当たりしても扉を貫通することが出来ず、仕方なく屋根へ飛び移って空からの進入を試みたがそれも阻まれ、一番奥の壁から中へ行ってみることにした。


この試みは成功した。壁をすり抜け中を見ると、そこは以前通された水溢れる庭ではなく、大きな石像が部屋いっぱいにその体を広げていた。


その石像は美しい女性で、長い髪を足元まで垂らし、優しそうな柔らかい表情をしていた。片手には杖を持ち、もう片方の手は空から降ってきた何かを掬うかのように手のひらを上にし、柔らかな衣を身に纏い、肩から腕にかけて長く細い、それでいて軽そうな衣を絡めていた。


しばらくその石像の美しさに気をとられていると、石像の正面、私の背後の扉が開いた。そしてひとりの女性が不思議そうな顔をして入ってきた。それはまさしくフィーナその人で、まるで私の姿が見えているかのようにまっすぐ私に向かって歩いてきた。

「まあ。こんなところでお会いするとは。」

フィーナは記憶通りの優しい、透き通るような綺麗な声で言った。

「キースさん・・・でしたわね。お久しぶりです。」

私は戸惑った。確かにフィーナは私の顔をじっと見つめ、そして私の名を呼んだ。死んでからすぐに会い、私をここへ連れてきてくれたあの女性が言ったじゃないか。『人間には霊は見えない』と。なのになぜ、フィーナは確信の顔で私を見つめているのだろう。

「ふふ。私は昔から、あなたのような方を見ることが出来たのですよ。これもここにおわす水の神シヴァ様の思し召しなのでしょう。」

そういうと、フィーナの目線は私を通り越し、私の後ろにある石像へと向かった。

「あの後のことが気になっていらしたのですね。残念ながら、私はあなたの姿は見えますが声は聞こえません。なのでどうぞそのことは察してくださいね。ここからは私の独り言ですから、お聞きになるもお帰りになるもあなたにお任せしますわ。」

フィーナはそう言うと、語り始めた。私とオソがこの街を出た後、触らないようにと言いつけていた『貢物』を、次女の誰かがつい箱を開けてしまった。箱を開けた瞬間、何かに捕り憑かれたかのように中にあった、花を生けた籠を箱の外へ出してしまった。あの花にはなにかそうなるような呪文でも掛けられていたのだろう。次女が花を箱から出した瞬間、その花は爆発し、聖堂と神殿の一部(生前私とオソがくつろいだあの池のあった場所)を破壊されてしまった。それと同時にその真下の、フィーナの家族が住んでいた家も半分ほど吹き飛んでしまった。幸いフィーナと家族は無事だったが、キッチンが破壊されたことで一時は火事が起き、大変な騒ぎになった。フィーナの水の力ですぐに火は消し止めたが、復旧作業には半年かかったという。そしてその爆発騒ぎが収まるかどうかと言う頃、遠くの空に蠢くものを見つけた。それはヴァルキア城の辺りから沸きあがり、空へと届くほどの巨体をくねらせ、空に上っていったという。それからしばらくしてヴァルキアからの使いが再び訪れ、和平を結びたいと言って来た。最初はフィーナも疑う気持ちもあったらしいが、その使いが言うには『ヴァルキアはこれから変わるだろう。傀儡かいらいとなっていた王も何かのまじないを掛けられていたようで、それまで将軍だったラースの死と同時に王は正気を取り戻され、新しい将軍には城の復旧に尽力したスノウが就任した』とのことだった。フィーナは半信半疑でヴァルキアの方角を眺めてみたら、今まで城の上空にあった黒い雲がかき消されており、空から明るい日差しが降り注いでいるのを見て、ヴァルキアがやっと呪縛から開放され、再出発の日を迎えたことを悟ったのだそうだ。そして両国は和平を結び、現在(驚いたことに私が死んでからもう10年の月日が流れていたらしい)まで何事もなく平和な日々が続いているのだそうだ。


フィーナの独り言をそこまで聞いて安堵し、私は再び自分のあるべき場所へ戻ろうとした。フィーナはそのことをまるで察知したかのように、私に向かって言った。

「さようなら。またいつかお会いするかもしれません。」


神殿から外へ出ると(今度は不思議と屋根から外へ出ることが出来た)、ここへ導いてくれた女性が私の帰りを待ってくれていた。そしてまた再びなにやら呪文を唱え、私を元の世界(霊界)へと送ってくれた。


「随分長い時間、私は地上にいた気がしますが、手続きをしてくれている方はもう戻ってこられたのでしょうか。」

私が帰り際に女性に質問すると、女性はにこやかに答えてくれた。

「あなたが地上で過ごした時間はほんの瞬きひとつの間です。安心なさってください。では。」

そう言うと、女性はいずこかへと姿を消した。


私が再び我が家に入ると、程なくして案内人が帰ってきた。手続きはすべて終わり、明日から仕事に入るとのことだった。責任者はオルソンと言う体格のいい男性で、明日は初仕事だから家まで向かえに来てくれるとのことだった。


私は快適な家で明日に備えるべく、家に完備されていた風呂でシャワーを浴びた。不思議なことに、私がシャワーを浴びて風呂場から出ると、そこにはキチンと畳まれたバスタオルと、綺麗に洗濯された作業着のような服が目の前に置いてあった。そういえば以前いた国での講堂で聞いたことがある。この霊界は精神世界のため、必要なものがあれば念じるだけで目の前に現れるのだという。なんとも便利な世界ではないか。暢気のんきにそんなことを考えつつ、ふわふわのベッドに横になり、平和なヴァルキアとエレドアの国を思いながら眠りについた。

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