俺って勇者だったらしい
こことは違う別の世界。
命を賭して戦う者達がいた。
これはその冒険記である。
彼らは戦った。
己の大切な者のためにーーーーー。
「あーあ。暇だなー」
ここは剣と魔法の世界。
ここで俺は前世の記憶を持って生まれ変わった。しかしあるのは記憶だけ。転生したからって無双なわけじゃない。でも前世の記憶はあるからこの世界にはない娯楽を知ってしまっている。それは…スマホゲームである!しかしこの世界にはスマホどころかオセロや人生ゲーム、カードゲームすらない!おかしい!この世界はおかしすぎる!前世ニートでゲームばっかりやってた俺には辛すぎる!まぁ、文明が日本でいう原始時代辺りなので無理はないのだが…。というわけで外は雨で暇を持て余している俺。仕事もできないからやることがないのでとりあえず寝ることにした。
そして次に目を覚ましたのはー、
「ん…?なんかここ違うぞ?どこだここは!?」
「ここは世界を統べる者たちの居所天界です」
と急に背後から声をかけられた。
いや正確に言えば人ならざるものに。
「私は戦女神、アテナです。貴方に頼みがあって天界に意識を飛ばさせて頂きました。それはこの世界にいる魔王を倒して欲しいのです。お願いできますか?」
そう俺は戦女神として有名なアテナに声を掛けられたのだった。容姿は長い金髪で鼻がすっと高い美人だった。前世でいうロシア人女性みたいな感じだ。だが、人とは違う雰囲気を醸し出していた。
「いやいや?ちょっと待ってください!俺は勇者でもなけれは兵士でもありません!急に魔王を倒せって言われても困ります!それに–––」
「それに?」
「俺には病弱な妹がいます。そいつを置いていくなんて無理です」
ときっぱり断った。
「では、こうしたらどうですか?魔王を倒してくれたら神の加護をその妹に与えましょう。そしてあなたがいない間は彼女に災いが降りかからないようにしましょう。これでどうですか?」
「…少し考えさせてください」
「分かりました。では、明日答えを聞かせて貰います」
その言葉を最後に俺の意識は自室へと戻っていった。
(あれは夢だったのだろうか…?)
そう思ったが夢なら起きてすぐ忘れるはずだ。それに女神の顔もしっかり覚えている。つまりあれは夢ではなく現実という事になる。俺は唯一の家族の妹の元へ向かった。
妹は村の診療所にずっと入院している。名前はエレンという。生まれながら現代でいうエイズのような病気にかかっていて医者の話によると回復のめどはないらしい。
「あっ、お兄ちゃん!」
というエレンは元気そうに振舞っているが家族の俺には無理をしているのが痛々しいほどに分かる。こんなエレンを一刻でも早く治してあげたい–––!俺は決意を固めた。
「なぁエレン。俺って勇者だったらしいんだ。それで女神に言われて魔王を倒した暁にはお前を治してくれるんだって。だから少し待っててくれるか?」
そういうとエレンは少し驚いてから、
「無理はしないで…約束だよ?絶対戻ってきてくれるもんね?私の病気治すためだからって死なないでね…?」
と言った。俺は
「あぁ約束だ。絶対お前の病気治すからな」
と言って病室を出た。
そして家に帰ると布団に横たわった。すると意識はまたも違う世界へと飛んで行った。
「決心はされたのですね」
と女神は開口1番そう聞いてきた。俺は、
「俺で本当にいいのなら魔王を倒してみせます!」
と言って片膝をついた。この異世界では相手に忠実を誓う時に片膝をついて頭を下げる習慣がある。俺は忠誠を捧げるのは初めてだったので自分で思うほどぎこちなくやってのけた。
「ありがとうございます。では勇者様には神具を捧げます。よろしくお願いします」
それで俺の意識は自室へと戻った。
「これが女神の言っていた神具か。どれどれ、うぉ!これはーーー!」
そうそれは勇者専用の防具と聖剣だった!
金色に光り輝く防具は神聖なもののように感じられた。早速つけるとぴったりフィットしてとても動きやすかった。
試しに聖剣エクスカリバーも構えてみた。うん、いい感じだ。よし、これなら魔王も倒せるかも!と思ったが、その前に準備と修行というものがあることを思い出して憂鬱になった。
こんな調子で魔王など倒せるのか!?二話をお楽しみに!