ガリガリ君の悲劇
やっぱガリガリ君は最高だ!!梨味はやばいねっ!うますぎる!
そして今、夜勤あがりというこの開放的な気分がより一層ガリガリ君のうまさを引き立てているのは疑いようのない事実だ。
くっそ〜!なんでこんなに美味いんだガリガリ君!反則だぜ!特にあの端っこの部分、つまり一番最初に食べるところと最後に食べるところ!あそこはやばい!ガリガリエキスが満載だっ!もう中間の部分なんて結局オマケでしかないよね!
そして早朝特有のすんなりと心地よく体に行き渡る空気と朝日を浴びながらにガリガリ君を味わい、自転車に乗って家路につく。贅沢っ!
自転車で帰っているといろんな人と行き違う。朝犬の散歩をしているばあさんとかじいさんとか中年のおばさんとかおじさんやら。そして皆一度は必ずこちらを見てくる。そんなに朝からガリガリ君を食っているのが珍しいのか?
一瞬そう思ったがすぐに本当の理由がわかった。
そう、みんな珍しくて見ているんじゃない、羨ましくて見ているんだ!本当はガリガリ君食べたくて仕方が無いんだろう!わかる!俺にはわかるよ君たちの気持ちが!朝からガリガリ君を食べるなんてそんな贅沢なかなかないからな〜!なんか<な>がなんとなく多いな!
そんな俺のことを羨ましがるおっさんおばさんたちの為に俺はよりガリガリ君を美味そうにかなり大げさで芝居じみた食べ方をする。わざとガリガリ君を頭上に置き、自分は下の方からこれでもかと口を広げガリガリ君のエキス一滴逃すものかと待ち構える。
行き違う奴らはそんな俺をやたらまじまじと見つめてきた。やつらはきっと今こう思ったはず。
「ああ!全てをご自分一人で平らげてしまうとは何と殺生な!せめて不意に零れ落ちてしまう一滴だけでも我らに恵んでくださいませ〜〜〜!」
まあ俺とて鬼ではない。そこまで言うのなら貴様らに一滴ぐらい恵んでやらんことも無いが・・・
とでも言うと思ったかアホが!やらねーよ!絶対にやらねー!一滴だって恵んでやるものか!貴様らにガリガリ君食わせるくらいなら、このまま一切食わないでガリガリ君が溶けていくのを眺めているほうがまだましだ!貴様らはそのまま俺がガリガリ君を美味しそうに頂くのを黙って唾でも飲んで眺めているがいい!
ああ・・・なんていい気分なんだ、やっぱり朝のガリガリ君は最高だ・・・さてと・・・そろそろガリガリ君も残すところあと僅か、最後に残るこのガリガリエキス満載な部分をより盛大にいかにも美味そうに食って行き違うやつ等に見せ付けてやろうとガリガリ君をさらに頭上へとやった。
自然に俺自身も顔をより上へ向ける。もう前なんて見えちゃいない。今俺に見えているのは朝日を浴びて神々しく輝く残り僅かなガリガリ君のみ。
さあ、行き違うアホ共よ。もっと俺たちを見ろ。そして羨ましがりやがれ。そしてガリガリ君食えなくて苦しむがいい!ほらほら残りのガリガリ君もう食べちゃうよ〜!ほれほれ〜!もっと見んかい見んかい!あっははははははっははは!!!!!!
それでは・・・いっただっきま〜す!!!
・・・とガリガリ君を口に含もうとしたその瞬間、ガタンッ!と自転車が激しく縦に揺れた。全く頭上しか見ていなかったのですぐ目の前のアスファルトに溝が出来ているのに全然気が付かなかった。その時の反動で棒にくっ付いていたガリガリ君は見事に棒から離脱し、朝方だがもう十分に熱の行き渡ったアスファルトへとダイブしていった。
ああ〜!ガリガリく〜〜〜ん!
ガリガリ君は見事にアスファルト上で溶けていく、さながら何時ぞや流行った某映画のラストシーンみたいにアスファルトの上から姿を消していく。けどガリガリ君はI'LL BE BACKして来ない。
なんてこったい・・・俺の不注意でガリガリ君が死んじまった・・・
ガリガリ君の死を悲しんでいた俺だが、不意に酷く纏わり付くような周囲の目線が気になった。
あまりにもムカついたので一言いってやる。
「オメーら!さっきからじろじろ見てんじゃねーよ!」
ガ〜リガ〜リ〜くん ガ〜リガ〜リ〜くん ガ〜リガ〜リ〜くん!