目覚め
『蘇れ、未練ある者達よ』
誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。俺はその声に導かれるように、暗い土の下から這い出した。
「くそ!ゾンビを呼び出しやがった!」
「たかだか下級の物だ。惑わされるな!」
最初に見たのは、こちらに悪態をつく二人組の男。最初に発言した方は、重装備に身を包んだマッチョだ。もう一人の方は、軽装備に光り輝く剣を構える爽やかイケメンだ――死ねばいいのに。
と言うより、こいつらはなんと言った?ゾンビ?下級?何のことだ?
周りをキョロキョロと見回す。
居ました。俺の近くにめちゃくちゃいました。モノホンのゾンビです。囲まれてます。どうしましょうか?
そこまで考えた時、まさかと思い自分の腕を見る。
わぁお!腕が腐ってます。汚汁が垂れてます。とっても汚いです。まさかのゾンビになってます。
「しかし、この数は厄介だぞ」
「確かに・・・・・戦士、少しの間引き付けてくれるか?」
「勇者様の頼みとあっちゃあ断れないな。任せとけ!」
ふむふむ。マッチョが戦士で、イケメンが勇者か・・・・・イケメンで勇者とか死ねばいいのに。
「さぁ、蘇りし者共よ。奴らを叩きのめせ」
二人の会話を見ていると、後ろから最初に聞こえた声がした。こっそりと振り向くと、ローブを纏った骸骨が杖を持って浮いていた。
うわぁ、こっちにも何かいるよ。てか、さっきのセリフと声からして、俺のこと呼んでたのはこいつかよ!
そんな事を思っていると、周りのゾンビが、先程の骸骨の言葉に従うように、二人組に向けて歩き出す。動きは鈍い。
とりあえず、俺だけ止まってるのも変だし動きますか。
俺は迷わず、戦士の方に向かう。なぜなら、勇者の持つ光り輝く剣が危なそうに見えたからだ。
あれはあかんヤツや。
俺みたいなゾンビが切られたら、一発で昇天するヤツや。
俺は鈍い動きで戦士に向かいながら、勇者の方に視線を向ける。視線の先では、勇者に向かった少数のゾンビが、光り輝く剣で切られていた。そして、切られたゾンビが青白い炎に包まれる。
あっぶねぇ!
あっちに向かってたら、今度は土の下じゃなくお空の上に行くところだった。
こっちに来て正解だったな。
俺は心の中でガッツポーズをしながら、ノロノロと前進する。前方では、先に着いたゾンビ達が、戦士の持つ長剣で切り刻まれていた。
よし。それじゃぁ行きますよ。
俺は意を決して、戦士に襲いかかる。腕を伸ばし、意味不明なうめき声を上げながら、戦士の首元に噛み付く。しかし、鈍い動きではいける筈も無く、長剣で切られ、上半身と下半身がお別れする。
どうしよう?痛くは無いけど動けない。動かないととどめ刺されるし・・・・・
真っ二つになった俺は、戦士の足元に転がっていた。幸い、戦士は他のゾンビの対処に夢中で、こちらがまだ動けることに気づいていないようだ。俺はこっそりと逃げることにした。
気づかれませんように!気づかれませんように!
そう必死に願いながら、見つからないように、ズリズリと近くの草むらまで這って行く。
よーし!セーフだ、俺は生き残ったぞ!
何とか見つからず草むらにたどり着いた俺は、こっそりと戦闘を伺う。
戦士の方にはまだ少しゾンビが纏わり付いてるな。勇者はフリーか――もっと行けよ!
最初に向かったゾンビが多かったせいか、戦士の方には数体のゾンビが纏わり付いていたが、勇者の方はフリーだった。そして、フリーになった勇者は、骸骨と対峙していた。
「もうゾンビはいない。魔法使いのお前に、僕と戦う術はないぞ!」
「ゾンビなどいなくとも、貴様を葬る事など容易だ!」
完璧にボス戦ですよ。完璧に骸骨さんにフラグ立ってますよ。
「喰らえ、ファイアーボール!」
最初に動いたのは、セリフから負け臭のする骸骨だ。持っている杖から火の玉を出し、勇者に向かって放つ。しかし、勇者は華麗なステップでそれを避けると、骸骨との距離を詰める。
「チッ!すばしっこい奴め!――ダークアロー!」
骸骨は、黒いもやから生成した矢を放つ。避けられないようにか、一度に複数を放っている。
「プロテクション!」
しかし、女性の声が響くと同時に、勇者の前に光の壁が出現し、黒い矢を防ぐ。
「ありがとう。聖女」
勇者は骸骨から顔を動かさず、声だけでお礼を言う。
二人だけじゃなかったのか。
俺は声のした方に顔を向ける。そこに居たのは女性の二人組。片方は白い修道服らしきものを着た少女だ。もう一人は、ローブにとんがり帽をかぶった、見るからに魔女という格好の少女だ。
「小賢しい真似を!」
矢を防がれた骸骨は、悔しそうに歯を噛み締める。
「自分ひとりの力しか信じられないお前には、僕達に勝つことは出来ない!」
勇者が更に距離を詰め、剣の間合いに骸骨を捉える。
「おのれーーーー!」
そして一閃。杖で防ごうとした骸骨は、その杖ごと勇者の剣に切られ、青白い炎で焼かれる。
「ぐ、がぁ、勇者・・・にの・・・ろ・・・い・・・あれ」
骸骨は最後の言葉を残して、灰になった。
「そっちも片付いたようだな」
ゾンビを倒し終えた戦士が、勇者の方に近づく。
「あぁ、今回も何とか勝てたよ」
勇者も戦士の方を向き、爽やかな笑顔と共に答える――くたばれば良かったのに。
「お二人共、お怪我はありませんか?」
二人組の少女も近寄ってくる。
「僕は大丈夫だよ」
「俺も大丈夫だ」
勇者と戦士は、笑いながら傷が無いことを告げる。
「そうですか。ご無事で何よりです」
「無事で良かった」
聖女が微笑みながら、魔女っぽい方が無表情で、二人の無事を喜ぶ。
「さて、それじゃあ街に戻ろうか?」
「そうしよう。戦った後だから腹減ったぜ」
「そうですね。私もお腹すきました」
「私は、そんなに空いてない」
四人はそのまま、ワイワイと話しながら、歩き去っていった。数分後、俺は草むらからごそごそと這い出す。
ふぅー、見つからずに済んだぜ!
俺は改めて状況を確認する。今いるのは墓地。周りには先程倒されたゾンビの肉片と、燃え尽きた骸骨の灰が残っている。
さて、どうしましょうか?
周りをキョロキョロ見回しながら、何をするか考える。
それにしても、何でゾンビになってんだ?
俺は人間だった筈だぞ?
そんな事を思いながら、自分の腐った腕を呆然と見つめる。
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ステータス
種族 レッサーゾンビ
状態 下半身損傷
Lv 1/10
HP 3/10
MP 10/10
攻撃力 5
防御力 10
素早さ 2
魔法力 0
ランク F
スキル
鑑定Lv1 感染Lv1 解説
耐性
斬撃耐性Lv1 打撃耐性Lv.2
称号
蘇りし者 転生者
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ファ!?いきなり出たけど、何ぞこれ?ステータス画面って事は、俺についての説明か。でも、何でいきなり見れるようになった?
とりあえず、色々な項目を眺めていく。
【レッサーゾンビ。モンスターランクF】
【闇魔法によって死者が蘇った物。討伐は容易であるが、触れられたり傷つけられたりした場合、数日でそこから病気になるため、甘く考えていると思わぬ反撃を喰らう。陽の光の元では動くこともままならない。極稀に、未練を残して死んだ者が自然発生のゾンビとなる】
なるほど。種族については分かった。他もだいたい分かるけど、スキルや耐性、称号とは何ぞや?
【鑑定】
【鑑定したい物を視線にとらえて鑑定と念じるか、3秒以上見つめると発動する。持っている者は意外と多い】
【物や人などを鑑定する】
【称号、転生者の付属スキル】
【感染】
【相手を噛むことで毒を流し込み、噛んだ相手をゾンビ化する。ゾンビ化するまでは時間がかかり、その時間はLvが上がることで短くなる。また、毒に感染した人物が死んだ場合ゾンビになる。毒はゾンビ化前であれば解毒可能であるが、ゾンビ化した者を元に戻すことは出来ない】
【解説】
【種族、スキル、耐性、称号などについて詳しい解説を行う】
【称号、転生者の付属スキル】
【斬撃耐性】
【剣などによって与えられる斬撃系のダメージを軽減する】
【レベルを上げるごとに軽減される割合は大きくなる】
【打撃耐性】
【ハンマーなどによって与えられる打撃系ダメージを軽減する】
【レベルを上げるごとに軽減される割合は大きくなる】
【蘇りし者】
【何らかの手段によって蘇った者に与えられる称号】
【一撃でHPを上回るダメージを受けた時、HPが1残る】
【転生者】
【記憶を保持したまま生まれ変わった者に与えられる称号】
【この称号を持つ者に鑑定スキルと解説スキルを与える】
ふむふむ。ひと通り見た結果、大体の事は分かった。俺がゾンビなのは転生?・・・・・したからだ。ステータスが表示されたのも、鑑定スキルが発動したからだ。
大体の事は分かったが、問題はこれからどうするかだ・・・・・本当にどうしよう?