我が部屋にさよならを
王様との話が終わると、僕は扉の前で待たされた。
僕は扉の前に座り、膝を抱えて、顔を伏せた。中から
「予算はどうするんだ」
「早く片付けてくれ」
などと声が聞こえ、忙しいのだなと思う。
それに比べて、僕は昨日は特に何もせず、部屋でお気に入りの本を読みながらベッドでゴロゴロしたり、机の上で変なゲームをしたり、のんびり過ごしていてなと思い知らされる。だが、その部屋も、もうない。愛用していたゲームや、訓練に必ず持っていったポシェットも、お世話になった家具も、もうないのだ。
僕は顔をあげ、前を見た。どこを見るというのはなく、全体を眺めながら思った。マナが持っていった荷物はどうなるのだろうか。処分、といいながら髪を揺らす彼女の姿が頭をよぎる。燃やされたりするのだろうか。それか、片付けたり、別の部屋に持っていったりするのだろうか。僕には分からないし、知りたくもなかった。
突然後ろの扉が開き、体重をかけていた物が無くなった僕は、そのまま後ろに転げた。地面で頭を打ち、意識が戻ると、僕を見下ろしている、いや、見下している人物が見えた。
「お前、なにやってんだ。」
マナだ。最悪だ。と思い、急いで腹筋を使い、起き上がる。その時、僕の顔は我知らず赤くなっていただろう。
「いつまで変なポーズしてんだ。行くぞおら。」
そういったマナにマントの襟元を捕まれる。僕のマントは首の前当たりで紐で結んであり、腰くらいまでの短いマントだ。マントを引っ張られ、首が締まる。苦しい。そのまま引っ張りながらマナは歩いた。体が反転し、後ろ向きで歩く形になる。マントが引っ張られ、首が締まる。苦しい。「も、もうすこし、思いやりのある引っ張りかたしろよ。」
僕が言うと、
「思いやりのある引っ張りかたなんて、私は見たことがないぞ。」
歩きながらマナが言った。確かに、と、納得してしまい、そのまま何処かへ連れていかれた。
それは、僕の部屋だった。
「ほら、最後の挨拶をしてこい。」
マナがマントから手を離し、部屋のなかに僕を放り込む。少し、戸惑ったが、もう帰れないのなら、と部屋に挨拶をすることにした。
いままで、たくさんお世話になった部屋。愛用した家具、何年もここで過ごして、嫌なときも、楽しかったときも、僕の帰る場所はここだった。手をあわせていると、
「おい、いつまでやってんだ。行くぞ。」
マナにそう言われて、またマントを捕まれた。次はどこに連れていかれるのか…
「もう、今から旅に出る。二人じゃ足りないだろ。探してこい」
と、マナに言われた。確かに、二人でナイトメアを倒すのもな…
「ん!?お、お前、ふたりって、お前も来んの!?」
僕が聞くと、
「は?そうだが、」
と言われ、呆然と立ち尽くした。