Another
初投稿です。
誤字や脱字などは暖かい目でスルーしてください。
もうひとつは思考するのだ。
人が何かを諦めるとき、複雑に考え、悩み、その上でやむを得なく諦めるを選択するのだろうか。きっと、そうとは限らないのだろう。
ほんの一瞬、知らない間に自然と諦めていることの方が多いのだ。しかし、それは不思議な事でも何でもない。仕方のないことだ。諦めることは成長を繰り返していく上で、必要な過程なのだと思う。
知らぬ間に失われていくものをいちいち気にしてる余裕なんて無いのだから、心の成長という長い道のりのなかで、ひとつ、またひとつと何かを落としながら進むしかない。
何かを知って、ひとつ。
何かを理解して、ひとつ。
何かを見つけて、ひとつ。
なんにも難しいことではない。そんな風に何もかもが、あっさりと容易いのだ。
自分を知り、自分を解り、自分を見つけて、必要のないものだと道端にさも簡単に放り捨てる。
それが人間であり、それが、彼女という人間である。
「あなたも私と同じね」
彼女は言う。
違う、とそう否定したかった。でもそれができないのは、自分もまっとうな人間だからだろうか。
「俺も君みたいになれるのか」
尋ねた俺は、彼女みたいにはなりたくないと、本当は思っていた。誰も、彼女のような現実を見せつけるような人間には憧れはしない。いつでも届きもしない理想ばかりを追いかけていたかった。追い付けないそれの背を目で眺めながら、今の自分を否定して、気持ち良く、幻想的な非現実に依存していたかったのだ。
でも、彼女はそれを許さない。
「ええ、もちろん。あなたもいつかは本物を知るわ。どうしようもなく、拒むこともできず」
そんな言葉には首を振りたかった。人が本物を知ったところで、真には辿り着けない。そんな風に否定を口にしたかった。
「そうだな。君の言う通りだ」
悔しいかな、そう頷いたのは俺自身。
憧れるに値しない彼女の言葉が、次々に自分の体にねじ込まれていくみたいに、俺は仕方なく納得をせざるを得なかった。俺もまた、自分を感じているのかもしれない。
「あなたは素直ね」
「そうか、君の方がよっぽど素直だと思うけど」
「私は素直なわけじゃないわ。ただ単純なだけよ」
「何が違うの?」
「そうね。どちらも同じようだけど、素直の方が少しだけ綺麗な物かもしれないわね」
「単純は汚れているのか?」
俺の問いに、彼女は答えなかった。そのかわりに目を伏せた彼女。彼女が答えてくれなかった回答を、俺は頭のなかで想像してみる。単純は汚れているのか、そうじゃないのか。俺の出した答えは、後者だ。そうでなければ、俺は彼女に納得は出来ないはずだ。いや、そうであって欲しかった。
本物に納得をしたくないのなら、せめて綺麗な彼女に納得をしたかった。
俺は憂鬱なものなんて理解はしたくない。
「俺は、君のことを理解しても良いのかな」
そう問い掛ける。
「愚問ね。さっきも言ったように、そんなものは必要ないのよ。あなたもいつか、私と一緒の人になる」
そんな彼女の答えには素直に喜ぶことは出来なかった。というか、それ自体、喜んで良いものなのかわからない。多分俺の場合は喜んではいけないと思う。それは自分を否定することだから、俺は諦めたくはないから。言い訳みたいな女々しさが、理由となって俺の心で渦を巻いていた。
それでもきっと、明日には彼女のようになっているのだろう。
否定もできた。
拒絶もできた。
諦めることも容易い。
そんなことは分かっているからこそ、俺は理想だけを認めていたい。
閲覧ありがとうございました。