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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

腐婦歩の斧

作者: 未帰還者

 酷い。


 酷い酷い酷い酷い。


 なんて酷いことをと……。

 そう言わずにはいられない景色が目の前に広がっていた。


 昨日楽しく笑いあったご近所の奥様方。

 親父ギャグが痛々しい旦那方。

 将来有望だと思えるほど元気な若者たち。


 誰もかれもが見るも無残な肉片へと変わっていた。

 それだけならまだしも、この事態を引き起こした者達はそれが正義だと声高に叫んでいた。

 成仏しろよなんて言って、光を放ち、追い打ちをするさまは正に悪鬼の所業である。

 酷すぎて涙すらも出てこない。


――――だから誓ったのだ。


 私が復讐してあげると。


 彼らがそうしたように、私も腕をもいで、足を切り捨て、頭を踏みつぶし、原型すら残らないように彼らを肉片にしてやるのだ。

 そして彼らがそうしたように、声高に笑ってやるのだ。


 私は絶対に諦めない。


 諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない諦めない。







 ……それにしても。





 ああ……。

 なんて甘美な言葉なのかしら、復讐……胸が高鳴るわ。


 見事に腐ったおなかをいつも自慢してきたマーガレットは今の私を見てどう思うかしら?

 言葉巧みに場を凍らせた夫のドルクはなんて言うかしら?

 ヴー、といつも元気に叫んでいたアレンはついてきたいっていうに違いないわ。


 だって素敵よね、復讐って。

 一度はしてみたいってみんな言っていたものね。


 錆びついた斧を引きずりながら、一歩一歩彼らが去っていった方角へと歩みを進めていくたびに気分が高揚するのを感じる。


 腐った足で歩くのは大変だけれど、漂う瘴気がそんなことを気にするなとばかりに纏わりついて、私を元気にしてくれる。

 復讐を誓ったその時からなんだか腐臭や瘴気が濃くなったような気がするのだけれど、気のせいかしら?

 きっと気のせいよね。だって私がいる場所はいつだって大好きな腐臭や瘴気が漂っているはずだもの。


 あらあら、もう街についてしまったのね。

 私ったらこんなに足が速かったかしら? ベンサム爺よりは速かったのは確かだけれど……。

 まあいいわね。早く復讐しちゃいましょう。


 うふふ、お出迎えの人がたくさん来たわ。

 嬉しいわ……。村での腐人会を思い出してしまうわね。皆さんもそう思わない?


 あら、ごめんなさい。


 この斧重くてあまり言うことを聞いて下さらないんですよ。

 しかも勝手に動いてしまうから、全自動って言葉に乗せられちゃったのよね、本当に困ったものね……。

 でも、あなた今の方が素敵じゃないかしら?


 うふふ、ごめんなさいね。

 本当に悪いと思っているのよ。だってあなた、腕に聖痕ついているでしょう? だからお仲間にできないの……。

 本当にごめんなさいね。


 それにしても今日は本当によく動くわね。

 手から離れなくなっちゃったこの斧、村ではあんまり全自動じゃなかったのだけれど、今はスムーズに動くわ。


 あらあら、いつの間にかみんな倒れているわ。どうしたのかしら?

 また起きればいいだけなのだけれど、足が切れている人は助けた方がいいのかしら?

 でも私も一度転んだら起き上がるのにとっても時間がかかるから、放っておいても大丈夫よね?


 それに立つのに手間取っている間にいい具合になるのよ。

 私もそうだったのだから、あなたたちもそうに違いないわ。


 それにしてもなんだか斧が軽くなった気がするわ。

 血がしたたって素敵な感じになっているし、結構いい買い物だったのかもしれないわね。


 あら?


 あらあら?


 あらあらまあまあ!


 素敵ね! 素敵な出会いね!


 私たちは街中で、大勢の人混みの中で偶然目が合うの。

 でもあなた達はきっと気づいていない。

 だけど私はすぐにわかったわ。

 だって運命だもの。


 私の復讐だもの!


 ああ、素敵よ素敵。


 その怒り狂った表情も、曇り始めた空も、わずかに漂い始めた腐臭と瘴気も、なにもかもが素敵な演出だわ。


 それに見て、思ったよりも早く新しいお友達が起きてきたわ。

 あなたはメレン、あなたはノール、あなたはパスチェ。


 みんなみんな私の復讐が見たくて起きたのよ? 素敵でしょ。


 でもいくら言葉に出したところで、きっとこの感動をあなたたちに伝えることはできない。

 だから振るうわ。

 私が、自分で、この斧を。


 何度見ても、赤いのね。赤い血なのね。

 私たちと違うのね。


 さっきまでは気にも留めていなかったけれど、復讐しているからかしら、景色を染め上げる赤がとてもきれいに見えるわ。

 うふふ、私たちの赤黒い血も嫌いではないのよ?

 でも今はこの赤の方が似合っている気がするの。


 だってほら、見て、あなたを引き裂き、つぶしていくたびに、奇麗に色づいていくの。


 素敵って私の気持ち伝わったかしら?


 あらあら、もう聞こえていないのかしら? 思ったよりもあっさりしているのね。

 もっと血肉沸き踊る復讐劇が好みなのだけれど、メレンがお腹がすいているというし、……もういいわよね?







 あら?






 ……一人足りないわ。


 うふふ、素敵ね。異世界の子が足りないわ。


 待っていてね、今復讐しに行くわ。


 あらあらうふふ。今日もいい天気だわ。

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