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第11話 それは自身の心に違いない。

12.

違和感の正体は、これか。


「直樹ィ。...負けを認めろよ」


目前に隼人の靴と足が見える。...なんだかデジャヴだ。

折れた骨がどこかに突き刺さっているのか、はたまたどこかしらの重要な血管が破裂したのかもしれないけれど、呼吸困難、内臓圧迫...そういった要因の苦しみからは逃れられない。

しかしそれもどうといったことはない。...痛みを感じないのだから。


仰向けに転がっていた姿勢から、動く部位を駆使して身体を起き上がらせー...


立ち上がり、隼人と目線を突き合せる。息を荒らげながらも...言葉を紡ぐ。


「ぁ"あ"っ...ぅ"ァ"っ...。...ハァっ」

「...認めないっ...僕はお前に...負けてなんかいない」


「...なっ」

「何故だ。...なぜ、そうまでしてっ......」


隼人は確かめるように僕の身体を見回す。

折れた腕、怪我だらけの身体、救急車を呼ぶにしても遅すぎるであろうこの格好にして、この様子でいられる僕を不審に思うことだろう。

隼人と同じになって分かった、隼人と同じ立場に立って分かったことだ。


「これは僕の感覚だけれど...お前、今...痛みを感じないだろ」


だから、僕は負けた気にならない。

どうやっても屈服しない。


「......」


「それにここで僕が負けを認めたら、お前を...隼人を否定することに...なるからだ」


「っ......どういうことだ。お前は何を言っている...」


分かっているくせに。


「お前の手に入れた力が......その超人的な身体能力だと...すれば、僕にかけられた力は...隼人と同じ状態になることだ」


「同じになって...わかった。隼人、お前は...絶大な力と引き換えに...自分を気遣う心を......失ったんだ」


隼人...お前は行き過ぎた。

人間の枠から、外れた。


「なっ...」「なっ...なッ...」


「直樹ッ!...オマエに何が分かんだよぉッ!!」


人間の枠から外れた。

その言葉が、隼人の琴線にふれたらしい。隼人自身薄々気づいてはいたんだろう。...それでも、目を背けてきたハズだ。

だって、グループ(にんげん)の枠から外れる...それは余りにも哀しい事だから。しかし僕は、あえてこの言い回しを選んだ。

...呼吸を整える。

これから語る隼人との思い出のために。


「何が、何で、...お前なんかッ!!」


激昂する隼人。見るからに百戦錬磨足り得る人間離れした拳を引きつけ、無闇で無茶苦茶にぶん回す。


「っらァッ!!」


もしもこの拳が僕に放たれたならば、これをかわす術はない。


ゴコォッッ!!


骨と骨、まるで岩石をかち合わせたようながむしゃらな打撃音。

おそらく本来その打撃音の発生源となる鉄球を模した隼人の拳が僕の顔面を直撃ー...

するよりも早く。


「ん"ッッ"!!」


僕の頭突きが隼人の額に激突した。


「っあーッ!?」


ゴヅッッ!!


予測の地平線を超えた一撃に隼人が驚いている隙を突いて。

もう一発、入れた。

僕も隼人も、その双方が同時に地面に崩れ落ちる。


「「〜〜〜ッっ!!」」


バタゥッ!


足裏を向き合わせて、互いに仰向けの大の字になって寝転がる形になった。


...意識が朦朧とする。

下手したら本当に死ぬなぁ。

...しかしこれは、この喧嘩に勝とうと思っての反撃じゃない。

ある事を確認するための、猶予期間を必要としたからだ。


......少しだけ、空白の時間が流れた。


「...なぁ、...隼人」


地面に背をつけたまま、呼びかける。


「......ぁあ"?」


隼人は姿勢を同じくして、不機嫌そうに応答する。


「お前言ったよな。喧嘩は意志の果し合いだって」


「......」「あぁ...言った」


「だったらさ、聞きたいことがある」


「...今?この状況でか?」


「そうだ。ここでなきゃ、聞けないことだ」


「...言ってみろ」


「......お前がそうなったのは、所謂(いわゆる)不良になったのは、3年前...俺が隼人を...断絶したからか?」


言い訳はしない。飾らない。有り体にいう。

それが百パーセント、後悔に繋がるとしても。


「...それは、わからない」


「隼人。...正直に言ってくれ」


「......。...分かった。」


...これから離される出来事は、今回の物語の根本であり、僕と隼人の今を形成する...それこそ原因となる大事件だ。

その真相を、...隼人は知らない。

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